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「人間の物差しを持たないでしっかりその子を見る。そしてそれぞれの子が各々にとって必要な時間をきちんとかけると、持てる力を100パーセントに近く身に付けることができます。」 はじめ塾 和田正宏&麻美さん夫妻(後半):クリエイティブ・ペアレンツへのインタビュー第14回

− 最近の子どもたちの様子で何か変わったと思われること、変わらないことはなんですか?

M「子どもたちの本質は変わらないと思います。子どもは条件さえ整えば意欲的です。でもいつでもそうなのではなくて、条件さえ整えばということです。変わった部分というと、学校でも家庭でも正解がある完結した世界でしか育っていない子が多いので、はじめ塾的に言えば関係性を捉える力がとても落ちていると感じています。自分の中だけで物事を見ていると世界は広がっていかない。自分だけの世界にとどまっていて、視野が広がっていかないのです。しかし未知の世界に触れ世界が広がり視野が広がっていくと、その自分に喜びを感じることに変わりはありません。」

− そのように視野が広がり喜べる体験を持てるきっかけやキーはなんですか?

M「きっかけやキーは、大きく分けて二種類あります。

一つは自分で人との関係が拓けることでワッと喜ぶというような学びを自分でした子です。しかし、感じる力が弱いため同じ経験をしていても喜びと感じられない子もいます。そういう場合はもう一つのキーの出番です。関係が拓けていることを本人に意識化させることを僕たちが手助けします。その時の伝え方は「よかったね」とか「さすがだね」とか出来るだけサラッと話します。そうするとスッと意識に入ります。面と向かって理屈を並べて話すと、子どもたちの心にシャッターが半分閉まりかかってしまい上手く伝わらないのです。ノーガードのところに出来るだけサラッと言葉ときっかけを投げかけることに、私は意識的に取り組んでいます。」

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− 子どもたちの視野を狭くしている社会的要因はなんだと思われていますか?

M「難しくしている社会的要因のひとつに、点数至上主義があると感じています。点数の良い大学に行こうとする価値があまりに強すぎることです。自分たちの父親の世代、今70〜80歳の年代の人たちの世界では、商人の息子は商業高校、そうでない子で勉強好きな子は一中に行くとか、それぞれ家庭の環境のなかで、自分の世界を大きくしていこうとする大雑把な方向性がにあったと思います。しかし今はみんなが1点でも多くとって偏差値をあげようとする。僕たちのように未就学児から大人になるまでをトータルに見ていると、そんなことで何が違うのと言いたくなります。偏差値3つ上げるために捨てていることが多すぎるのではないでしょうか。そこばかりに絶対的な価値が置かれてしまっている。そしてこの価値観が一つの制度にマッチしない人が生きにくくなっていると感じています。」

− 息子の友人は、偏差値35の大学から震災で東北大学に受け入られ博士を取り、その後オックスフォードでポスト・ドクターに進んだのですが、ヨーロッパで一番難しい奨学金を獲得して研究を続けました。世界から見れば偏差値は関係ないのです。

M「もう一つスマホとかネットへの過度のかかわりが子どもの実体験の機会を大きく奪っているとも感じます。子どもに時間を費やさせることや課金させることを、作り手の大人が必死に考えています。小学生だけでなく中高生が自己の力だけで、これに節度を保って付き合うことは難しいです。そのようにしてゲームにはまる子が増えることは、日本の人材の損失になっているのではないかと思うほどです。」

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[山北の森でおもいおもいに遊ぶ子どもたち]

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− 今もそして今後はさらに、日本の企業に勤めていたと思っても、日本の国力が下がっているので気がついたら海外資本の企業になっているということもあるでしょう。

M「慶應大学の経済学の井出教授に聞いたことがあるのですが、GDPが上位30位までが先進国とされるが、日本は現在26位となっている。もう先進国でいられないことが迫っているという話をされ、子どもたちと共にびっくりしました。」

線路に乗ろうとしても、線路の先は無いとも言えます。20年後には、今ある職業の80パーセントが無いとされています。その時、人の資本は何なのか。はじめ塾で養われているような人間力なのだと思います。

「アメリカ人の妹の子どもは、ワシントンDCにあるアメリカン・ユニバーシティで外交を学びました。入学時のオリエンテーションでアルバイトを外でしないで連邦政府内で行って、仕事を覚えて人脈を作るように言われました。三年で大学を卒業して、大学院に進むお金を貯めるために働いていますが、初年度からG20のため訪日し大統領が来日するための下準備をしたり、2年目からは自分で企画して民主党・共和党の議員たちを安倍首相や都庁に訪問するような仕事をしています。日本では大卒ですぐにそのような仕事をするチャンスができることはあり得ないですね。本気で人材を育てているアメリカでの大学の人材育成を、とても羨ましく感じました。

− 息子たちのアメリカの大学入試を見ていると、一人の責任者が合否と奨学金の額まで決める裁量を持っています。個人と個人が向き合って決めていく。決してテストの点だけで決まるわけではありません。大学にどのように貢献できるかが問われます。ハーバード大学でさえ優秀なのは当たり前だから、どれだけ個性ある人材を集めるかに重点がおかれています。個人のアイデンティティを磨くことが、大切になっています。個性を磨くというのも蛸壺的な個性ではなくて、社会に貢献する中で個性を磨いていくことが大事にされています。

− ところで小さい子から大学生まで幅広く子どもたちの成長に関わっておられますが、年齢によって何か関わりを変える点がありますか?

M「人間の物差しを持たないでしっかりその子を見て関わることにしています。関わり方のポイントは、みんなそれぞれ違いますから、その子が必要とする時間をしっかりかけて関わるように心掛けています。そうすると子どもたちは持てる力を100パーセントに近く身に付けることができます。一足飛びに行ってしまうと、その飛ばした分の利子を後で払わなくてはならないことになるので大変です。」

−日本でも経団連がソサイエティ5.0のビジョンを示す中などでプロセスを重視し、その過程のポートフォリを作り評価していくというようなことも提言されていますが、それもいくつもの物差しがあること、さらに言えば物差しなんか無くなり、個人を見ていくことが大事ですよね。開いて繋がっていく力が問われていくのではないでしょうか。

− しかしその子にとって十分に時間を取ることは、今はなかなかするのが難しいですよね。

M「日本の現状でいえば究極的には学校からドロップアウトすることでしかできないようにも思えます。学校に身をおきながらも、軸足を時々別に置いてバランスを取っていく。きれいな答えではないけれど、学校の中でも学ぶべきことも沢山あるので、だましだましバランスをとりながら両方をやっていくことが必要なことだと思います。」

− はじめ塾やCLCAに出会えた人はラッキーですよね。そのような出会いがないと、なんか違うと感じていても、一人では保持できないことだと思うので。どのようにして出会っていけるのか。進学校へ入ることよりも、社会や、平和を築いてゆくことが教育だと痛感したこともあります。ドバイで開催されているアラブ圏の教育大臣などが集まるナレッジ・サミットに関わっていましたが、そこでは戦争下などで貧しい子どもたちがどのように学んでいけるかということが社会の大きな課題として話し合われています。ISの出現が大きな問題となっていた当時は、きちんとした教育こそが世界の平和に繋がるという考えから、イギリスの元首相ブラウン氏などが国連と共同して意見交換が行われていました。急速に変化するテクノロジーも含めて未来の社会を作るナレッジの展望がシェアされる場でもあります。アラブ圏では、日本の教育の水準が高いことが注目されています。単に経済的援助をするのではなく、教育に貢献して行けたらどれだけ有効かと思いました。

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− 正宏さんが自由大学や自由学校というようなずっと学んでいける場を作られたらとても良いと思うのですが、日本の様々な規制を取り払ったとしたら、生活のこと、人数などどのようにされますか?

M「極論ですがその子の能力を100パーセントに近く引き出すとしたら、距離を保ったゆるいマンツーマンがベストだと思います。そのような関わりの中でなら、教師自身も育っていけるでしょう。クラスであれば一人の先生で20人は多いですね。一クラス10人位までですね。いくつかの目があれば、もう少し多い人数も可能だと思いますが。はじめ塾だと異年齢の集団なので子どもたちが互いに支えあえています。」

M「私たちの合宿では参加している子ども達の育ち具合がそれぞれ異なるので、40人ぐらいが良いと思っています。この人数だと全員が主役で活動できます。60〜70人になるとおまけで後ろからそっと付いてくる子が複数出て来てしまいます。もちろんそれも悪いわけではないのです。そのようなことが必要な子もいますから。

学校なら全体の人数は、100人ぐらいが良いと思います。全員の顔が見える規模なので、一人一人が主役で学び合える関係が作れるからです。それができたら最高でしょうね。」

− そのような小ぶりのところがいくつもできたら良いですよね。

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M「はじめ塾には『みんな一緒に仲良くして、みんなで一緒にやろう』というルールがあります。同じ空間、時間で全員が主役で関わる活動をすることで、関係性を捉える力を伸ばしていくことを基本にしています。

− マンツーマンを考えると、小さい時は、親と子がベースとなるので、親のヴィジョンが強く影響しますよね。

M「今の学校で最悪だと思うのは、まるで『多数決=民主主義』のように教えていることです。そこには多様性へのリスペクトはありません。そんなことをしている限り、子どもたちに民主主義の良さは伝わっていかないですよね。」

− そこに希望が見えませんよね。それはポスト全体主義に繋がってしまう。

− 長男は哲学者のハンナ・アレントとゆかりのあるアメリカの大学に通っていたのですが、そこでは知識の授受だけをするような一方的な授業がひとつもなかったといつも言っていました。なにかを教える、教わるのではなく、自分の意見と問いをぶつけ合う。それが生徒の間でも、生徒と教授の間でもパラレルな関係の中で行われています。全米で最も早く「人権」という学科を立ち上げたのもこの学校なのですが、このような対話をベースにした校風を聴くとそれも頷けます。日本の大学にはそれがない。従来型の教授と生徒の関係性は、まるで口封じされているように感じることさえあります。

M「どんどんそちらに向かっていて、民主主義の自殺行為とさえ感じることがあります。」

− そうでない価値観を持つと生きにくいように社会ができている。だから社会と生きるというより地球と生きていかないと。地球と生きているという感性を広げている時間があまりにも少なくて、そのような場所も少ないですよね。

M「『地球に生きるという感性を広げる』っていいですね。まさにその通りだと思います。しかし日本の現状は、子どもたちや子育てしている親に、考える時間を与えないようにドンドン追い込んでいますよね。

− 私は子育てについて思うところを本にして書きましたが、コロナ禍によって世界が大きく変動しているので、出版のためにもいま一度再編集しているところです。いろいろなことを書いても、親があまりに時間がないので、こんなことできないと思うのではないか。多くが不安を煽られて狭められている。でも生活の中で小さな何かをするときに、みんながやっているからというような投げやりなやり方や親の都合ではなく、子どもにとってどうしたら良いのか、と少し思うだけで違っていくと思うのです。このような親子の小さな積み重ねから始めないと、急速に変化している社会で、自由な世界をキープしていくことに間に合わないように感じています。

M「近年益々そのように感じる機会が増えています。おっしゃる様に『小さな積み重ねから始める』ことを大切にすることが鍵になると僕も感じています。」


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-  麻美さんは、正宏さんの側にいてそして共に様々なことをされていますが、正宏さんが大変だと思われることはどんなことですか。

A「男性は何かに向かって行くことが多いと思います。正宏さんは大変そうでも、決して苦労を口にしません。会社で同じことをするのとは違って、答えがないことを作り出してくのは、自分との闘いとなるので大変だと思います。

− 麻美さんが子育てだけでなく寄宿生含めて様々な人を育てていくことを共にされています。大変なことだと思います。麻美さんは、それができる生活力を忍耐と共に持っているから、いつもニコニコされているのだと思いますが、それを続けられているのに大事にしていることは何ですか?

A「そもそも何が大変か、今はわからないとも言えます。大変と言われればそうかな〜とも思いますが。自分のできることをやるだけですから。それもどうして続けられるかというと、安心感を持てるからです。環境として先代の塾長であった義父母も家族も共にいます。そして今やっていること自体が、安心できることになっているからです。

− 前に向かって日々格闘する正宏さんと、それをさりげなく側で伴奏できる麻美さんの暮らしは、大変なことと思いますが、そのことに取り組んでいることが、自らが生きていくことの安心とまで言えるのは、素晴らしいですね。

− 私の子どもたちも小さい頃にお世話になりました。その時に体験し身につけたことは、身体に残っているのでなくなりません。大事な価値観はそのままです。幼い時そして10代の思春期で親から渡されたものを全て脱いで、自分でもう一度作り直す時、どのような人たちと出会い、どのような体験をするかがとても大事ですね。そのような時にはじめ塾に出会い、生活、つまり生きることの根をしっかりと伸ばせることは、予測不可能な時代を楽しみな広がりとして拓いてけることになって行くことでしょう。


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