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クリエイティブ・ペアレントへのインタビュー 第3回 アーティストの鈴木ヒラクさん

子どもがクリエイティブに生きるには、

クリエイティブな生き様に触れることが一番です。

しかし、これは子育てだけでなく、

わたしたち、親やすべての世代のひとに言えることです。

クリエイティブな生き様にふれることで、

こんな道、こんな生き方があるんだ

と励まされたり、確信をつよめてさらに自分の道を歩いていけます。

インタビュー第3回はアーティストでドロイングチューブを主宰する鈴木ヒラクさんです。線の持つ力を発掘するように引き出し、宇宙と交信するような作品は、美術館やギャラリーのみならず、公園や地下道など世界の様々なところで新しい空間を生み出しています。ミュージシャンとコラボするライブ・ペインティングも人気です。さらに彼のドローイングは、ファッションデザイナーのアニエス・ベーも魅了し、彼女のブランドとも多くのコラボレーションを展開しています。

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[点が線の夢を見る(大分市におけるパブリックアート作品) 撮影:久保貴史]


ヒラクさんは、5歳になる娘さんとヨーガ・インストラクターの奥さんと東京郊外で3人暮らし。家の近くにスタジオを設けています。

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                             [撮影:西野壮平]

インタビューではヒラクさんがお子さんを授かってから思い出し、以来掘り起こし続けられている感覚や、生命・宇宙観とつながる『生きるヴィジョン』を暮らしぶりとともに話してくれました。子どもとともにいることで複層する時間が生まれ、そこで感じられるゆたかさは親子のクリエイティブなヴィジョンをさらに深めているようです。

話は、ヒラクさんの家族の日々の暮らしのリズムについてからはじまりました。

「娘には、しっかり食べて、寝て、身体を動かし、遊ぶという、ベースのリズムを丁寧につくることを大切にしています。ベースがしっかり育っていれば、そこからはイマジネーションや発想の幅が広がると思っているからです。娘はシュタイナー教育を取り入れた保育園に通っていますが、朝と夜は一緒に食事をします。もうひとつ大切なベースとしては、人や食べ物や身の回りのものに感謝することも伝えています。」

—お子さんを授かってどのような変化がありましたか?

「自分が何も知らないことに気づかされました。世界の解像度があがったのです。人間への愛おしさそして幸福というものを思い出しました。」

「生まれてすぐから目線を合わせるようにしています。生まれてすぐでも、子どもの感受性は鋭敏で、目線を合わせると何を言いたいのか聞こえてきます。そうしていると、自分の方でも『解像度』が上がっていくのに気がつきます。一緒に散歩したり森に行ったり図鑑を見たりするときも、娘と同じ目線で世界を見ると、自分に世界が入ってきます。「それ変な花」とか「風が気持ちよい」とか色々なものに娘は驚きます。虫をよーく見たり、宇宙の図鑑が大好きなのですが、肩車して一緒に星を見たり、それは僕がもう一度子どものころに戻るような感じになります。」

—お子さんとともに複層する世界をともに生きているんですね。

(おもむろに取り出された紙に社会、地球、宇宙の図を描きながら、)

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「社会は人間が人間のために生み出したものです。しかし地球には動物、植物含めての自然があり、さらに宇宙の広がりがある。そこは生まれて嬉しいとか死んで悲しいとかもなく、人間の社会の情とかからは、かけ離れた透き通った概念となります。宇宙と自分という関係に思いを馳せると深い安心を抱きます。それは不思議を感じ、不思議を思うとも言えます。私が制作するということは、不思議に、謎に触れようとすることです。社会とうまくやる方法で見えなくなっていた部分を再認識する。『学ぶことは思い出すこと。自らのうちにあることを思い出す』ことです。新しくつくるというより、“発掘する”。潜在しているものと出会い直すこと。また『思い出すとは出会い』です。既にあるものとの出会い方、出会いが新しい。」


コロナ禍の恵みの時間

「植物をたくさん植えて家族3人で育てています。ゴーヤは茎の先が、日々20センチぐらい伸びます。一緒に見ていると、驚きと同時に思い出させられるものがあります。外で起こっていることがトリガーとなって引き出され、気付いていく。コロナ禍で遠くには行けなくなったのですが、“思い出す回路”、自分の中から遠い記憶を思い出す学びがあります。それは“生きること”なのですが。

この数ヶ月、娘と一緒にいる時間は、僕にとっては“恵み”でした。妻と交代で娘を見ているので週二日は娘とずっと一緒です。スタジオで絵を描いたり音楽を聴いたり、近くの自然豊かな公園でザリガニとってお弁当食べたり、石や枝を拾ったり。湖に行くと、「絵を描きたくなってきちゃった。」と写生をしたり。また一人で絵本とかに熱中しているときは、少し遠くで見るようにしています。

子どもしか知らない時間を大切にしています。思い出すと涙が出るほど良い時間です。生きていることを感じます。」

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[娘さん、3歳の時の絵。タイトル:流れ星のボシちゃん]

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[ヒラクさんが3歳の時に描いた宇宙の絵]


ステイホーム期間に子どもたちとどのように過ごしたら良いのか、時には根をあげてしまう家庭も多くあるとも耳にします。しかしそれも親の心持ちしだいです。少し落ち着いて心を開くクリエイティブなマインドは、大変な時を豊かな時に変えていきます。ヒラクさん家族は、お子さんといることで、自分のうちなる感覚が蘇っていくことを、 “恵み”と実感できる時を過ごされています。子どもの生まれながらに持っているクリエイティブさと、親のクリエイティブなヴィジョンが重なって、子育てのもっているゆたかさが発露しているように思います。


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[娘さんが最近はまっているデカルコマニー]


子どもの可愛さは人間の奥に眠っているカワイサ

「こどもの動きをカワイイと思いますが、それは原始美術にも通じるものです。イサム・ノグチの作品に見える可愛さとか、岡本太郎に翻訳された縄文の可愛さのようなものです。また、即興で描くとき新しい形と線と出会いたい。自分の線に驚きたい。発掘したい。謎に向かって掘り下げていく。それは海に潜り危ない領域、極限まで潜っていくようなことです。人間の奥深く眠っているおかしみ、カワイサ、それは生きて作り続けているのをつなぎとめている記憶、普遍的記憶の軌道を描くこと。

娘が描く絵は、描くこと自体で線が生まれていく、線がついてくるのです。子どもの時に知っていたことをすり減らさないように、線が生まれていることの瞬間が“思い出し、出会い”であるように感覚を研ぎ澄まし、線を描くことで宇宙の何かの秩序に触れる。描いている理由は、その瞬間のためです。手探りでやっていると、その瞬間に触れた謎がやってくる感じがします。娘と一緒に描いていると、この研ぎ澄まされた感覚が触発されます。」


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[Interexcavation #1 ]

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[東京都現代美術館での展示風景 撮影:森田兼次]

(インタビュー②へ続く)

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