樹木の環境貢献を「見える化」する ニューヨーク市
2016年から、ニューヨーカーに人気を博してきたオンライン上の「ニューヨーク樹木マップ」が大幅にアップデートされ、データベース上には公園にある15万本の樹木についての詳細が掲載された。
例えば、ブルックリンのプロスペクト公園にあるテニスハウスの近くには、約1.5メートルもの幅の幹を持つ立派なホワイトオークの木が立っている。この巨大な木は、訪れる人々に畏敬の念を抱かせるだけでなく、この「オンライン樹木マップ」を見ることで、環境面でも多くの恩恵をもたらしていることがわかる。ニューヨーク市の公式データによると、この木が直接CO2を吸収することで年間約25,000トンのCO2削減になっているほか、近隣の建物のエネルギー需要も下げている。また、1本の木が年間約9,000ガロンの雨水を遮っており、1〜2ベッドルームのアパートの約2カ月分の電力節約と同水準にあるという。これを経済的に見れば、1本の木が毎年550ドル以上の貢献をしていることになるという。
12月8日には、ニューヨーク市公園・レクリエーション局が管理する15万本以上の樹木に関する詳細情報が、ニューヨーク市の「樹木マップ」に追加され、2016年以来、ニューヨーカーは近所の歩道に並ぶ65万本あまりの木をより身近に感じられるようになっている。
公園・レクリエーション局によると、今回の追加により、樹木マップは市の非森林樹冠に関する最も包括的な目録となっている。また夏の猛暑と戦うために、より多くの植樹も約束しており、2022年にすでに13,000本以上の植樹を行ったことを9月に発表している。
オンライン「樹木マップ」上に点で表示される樹木は、樹種と幹の周囲によって色や大きさが分けられており、これらの点をクリックすると、その木の場所に関する情報のほか、米国森林局の計算式で算出された、街への生態学的・経済的貢献度も表示される。
例えば、マンハッタンのアッパーウェストサイドにある5,500本以上の街路樹は、市の計算によると、年間600万トンのCO2排出量を削減でき、これは120万台の車を道路上から排除したのと同じ気候上の効果に相当するという。
樹木マップはまた、都市に住む人々が、地元の公園や遊び場、コミュニティガーデンにあるさまざまな樹木を探索し、それぞれの樹木が街で重要な役割を果たしていることをよりよく理解できるようになっている。
例えば、クイーンズ区のアストリア公園には63種の樹木が植えられ、ロンドンプレイスやピンオークをはじめ、ノーザンレッドオークやスイートガムなど、鮮やかな赤い木々が公園全体にちりばめられている。公園内にある約1,000本の木々は、合計で毎年130万ガロンの水と1,400ポンド以上の大気中汚染物質を遮蔽している。CO2の削減量やエネルギーの節約量と合わせると、年間11万ドルの恩恵を受けていることになる。この数字は、近年大幅に上昇している新しい木の植え付けや維持費と相殺して考えればよいだろう。
またニューヨーク市は、市民が街の緑に感謝の気持ちを抱きながら、より多くの人々が公園や近所の樹木の手入れをすることを期待している。ボランティアはまた、水やりや樹木のゴミ拾い、枝打ち(許可が必要)など、樹木の手入れを記録できる。また、「お気に入り」の樹木を保存しSNSでシェアをして感謝の気持ちを伝えたりすることもできる。より複雑なメンテナンスが必要と判断した際には、ニューヨーカーが携帯電話で地図上にタグを付け、メンテナンスサービスの要請や問題の報告をすることで、注意が必要な特定の樹木を関係者に知らせることもできる。
この樹木マップは、新たに、ユーザーが、市の実施した作業結果を追跡できる機能を付加した。「政府の仕事の透明性という点でも、優れた事例になると思うし、そうした仕事に携わることを誇りに思う」とニューヨーク市公園局の森林園芸担当のベンジャミン・オズボーン( Benjamin Osborne)副局長は言う。
幸いにも、ニューヨーク市は樹木愛好家に事欠かない。この地図の根底にある膨大なデータは、2015年から2016年にかけて、2,300人以上のボランティアが実施した包括的な樹木調査の結果である。その後、さらに数十人のボランティアが公園スタッフに加わり、ニューヨークの公園の樹木を調査している。
ニューヨーク市の木を植え、手入れをするボランティア活動は非営利団体「Trees New York」が主導する。「Trees New York」のネルソン・ビラルビア(Nelson Villarrubia)事務局長によると、2022年は、市民剪定師のライセンス取得を希望する約300人をトレーニング予定だという。この数は例年より50%ほど多い。
また、非営利団体のメンバーは、このオリジナルの樹木マップを積極的に活用しており、ボランティア活動の記録や、樹木の手入れの優先順位付け、さらに時には樹木情報の訂正を提案することさえある、とビラルビア氏は付け加える。
「実際に現場で見たことについて何かを発言するというのは、樹木に限らずよくあることだ」と彼は言う。「木に一番近いところで生活している人たちなのだから、彼らの意見を聞くことは有益なのだ」。
実際、ボランティアの中には熱心な趣味人として「Trees New York」に参加する人もいるが、ビラルビア氏の言葉を借りれば「夢中になる」前に、単に近所の木についてもっと知りたいと思い始めた人も多いという。
多くの人にとって、木は自然との唯一のつながりであり、「多くの人が近所の木と個人的なつながりを築いている」とビラルビア氏は言う。
(引用元)https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-12-09/mapping-new-york-city-s-trees-now-with-more-trees