Do They Know It's Christmas?
クリスマスも近いこのシーズン、クリスマスソングを耳にすることも多くなる。
定番のクリスマスソングの1つに、Do They Know It's Christmas? という曲がある。1984年にイギリスの人気アーティストたちが集まってレコーディングしたチャリティソングだ。飢饉に苦しむアフリカの人々への支援を目的とし、この曲が生み出した莫大な収益は全額寄付された。
かの有名なWe Are the Worldの影に隠れがちだが、こちらが元祖。アーティストのコラボレーションによる慈善活動の先駆けとなった。
私はこの曲が発表されたときのことをリアルタイムで知っている。3歳年上の姉がその顔ぶれの豪華さを興奮気味に教えてくれた。2人でワクワクしながらMVを見たのを覚えている。
「ボーイ・ジョージはやっぱり歌がうまいなー」とか、「バナナラマは私服も可愛い!」とか、「ポール・ヤングはまさか寝起き??」などと話して盛り上がった。
メッセージ性の強い歌なので、MVに日本語訳がつくこともあった。
その中で、ひとつ気になる部分が…
U2のボノが歌い上げる一節。
Well, tonight thank God it's them, instead of you.
この部分だ。
日本語訳は、
「今宵、神に感謝しよう。それが君ではなく彼らであることを…」
私と姉は顔を見合せた。
「これってちょっとひどくない??」
飢餓に苦しむのが自分たちでなくて彼らで良かったなんて、随分と残酷だ。
善意から生まれたはずの曲が、たちまち偽善に感じられてしまった。
Do They Know It’s Christmas?は、魅力的で大好きな曲でありながら、私たち姉妹にとってちょっと引っかかる曲となった。
現在、翻訳者となった私には、あの一節の意味するところが理解できる。
「神に感謝しよう」とは、それが自分たちの身に起きるも起きないも、神の御心ひとつ。自分のこととして考えよう、という意味だ。
決して「自分たちじゃなくて良かった!神様ありがとう!」と言っているわけではない。
物事を少し婉曲的に伝える、イギリス的な発想なのだろうか。
しかし限られた文字数で、この反語的な解釈を日本語にするのは難しい。
改めて、翻訳の難しさを感じる。
その後、有名なUSA for AfricaのWe Are the Worldがリリースされた。
これも善意から生まれた曲だが、その誤解しようのないストレートな歌詞には、ちょっとビビった。