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被害者は加害者で、加害者は被害者

 弱き者は強き者なので、被害者は加害者だ。なぜならば今、「弱い立場」というのは隠すことができない時代だからである。それどころか私たちの誰も、簡単に自らの立場が大衆の知るところとなり、一度でもそうなった人間に回復の余地はない。
 つまり、加害者とは「先に得をした者」のことでもあるのだ。何もしないでいれば私たちは少なくとも加害者にならないし、被害者になる可能性はあっても、非難されるような加害者にはならないはずだと思える。

 しかし注意せねばならないのは、まず、被害者であることと加害者であることは、別に相反しないということだ。被害と加害というのはある一件における関係性を表すのであり、その人の固定された立場ではない。
 そして、いつでも個々人の立場が大衆に知られてしまう現代で、「知られる」ことは得である。即ち加害者にとってあるいは大衆にとって被害者は、その意味では加害者になり得るのだ。

 誤解を恐れずに言えば、多くの人に自らの被害を知られることは、ある種味方をたくさん手に入れることである。そして反対に、加害者は味方を失う。すると被害者は加害者よりも強くなれる。
 被害を被った分だけそれが得になるのならいいが、現代は本当に情報が広まるのが速いので、被害者の味方は過剰に増える傾向にある。
 するとそれは、損得のバランスとして被害者に軍配が上がる。近年、それをもって加害者に反転攻勢する被害者もいれば、大衆によって加害者を追い込むことを画策する場合もある。

 善悪ではなく、そうなってしまっていること、そうできてしまうこと、そしてそれがまかりとおっていることが、情報化社会における「被害者」と「加害者」の1つの関係性である。
 この世に絶対はないので、人の立場などいくらでも簡単に変わる。あるいは同時に複数の立場を持っていることも珍しくはない。
 被害者は加害者で、加害者は被害者だ。大切なのは当事者になった時よりも、周囲にいたり見聞きした被害者や加害者に対する、私たちの態度である。
 被害者を助けるつもりで新たな加害者になってしまわないように注意が必要だ。

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