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各作品の第1話へのリンクです。 (作者50音順) 神楽坂らせん 宇宙の渚でおてんば娘が大冒険『ちょっと上まで…』 かわせひろし 少年とポンコツロボと宇宙船『キャプテン・ラクトの宇宙船』 道具として生まれ命を搾取されるクローンたち『クローン04』 にぽっくめいきんぐ 汎銀河規模まんじゅうこわい『いないいないもばあのうち』 宇宙人形スイッチくん夫婦の危機を救う『アリストテレスイッチ』 幾つもの世界と揺らぐリアリティ『町本寺門は知っている』 波野發作 銀河商業協同組合勃興記
十一 突入! ロケットブースターにしがみつきながら、ラクトはイチコにたずねた。 「〈はやぶさ〉に気づかれてるかな?」 ブースターの噴炎はそう大きなものではないけれど、進行方向に向かって飛び出しているのだから、目立つはずだ。 「だいじょうぶ。ダミーの映像を映しています。小惑星についたら連絡しましょう。地下に潜っちゃうと連絡つかなくなるので、その前に増援を要請しておきます」 イチコはこの距離でもまだ〈はやぶさ〉とつながっていた。偽装工作は万全のようだ。 この作戦はタ
十 小惑星発見 ブリッジの壁面モニターいっぱいに、星空が広がっていた。 一見何の動きもなく、一枚の画像が映されたまま、まったく変化がないように見える。だが。 「ほら、ここですー」 イチコがある場所を指さした。一つだけ動いている星がある。小さな、かすかに映っている星だ。時間をおいて撮った画像を順ぐりに表示しているので、ぽん、ぽん、ぽんと少しずつ位置が動いていく。 「星図にない星です。概算ですが、軌道条件は探している小惑星と一致しています」 「さすが! お手柄!」
九 両親を助けに 「ええっ!」 「ほんとですか!」 「娘はどこに!」 艦長の言葉にみんな騒然となった。 ラクトの心臓がどくんどくんと高鳴った。 この言葉を、どれだけ聞きたかったことか。 この言葉を聞くために、どれだけ歯を食いしばってきたことか。 そんな気持ちが真っ直ぐ顔に出ていたのだろう。艦長はラクトを見つめてうなずいた。 「うむ。ラクト君には早く知らせずにすまないことをした。海賊船拿捕の時には、ある程度の話は上がってきていたのだが、まだ確証がなくてね。先ほど
八 ぎりぎりのぎりぎり 「ラクト、これほんとに減速足りてるのか? 進入路には速度制限があるんだぞ!」 海賊をふりはらって二日目。地球到着が目前となった〈はやぶさ〉のブリッジで、アライ二尉ははらはらしながら、ラクトの操船を見守っていた。 アライ二尉の目の前のホロウインドウに、これから入港する宇宙港と〈はやぶさ〉が表示されているのだが、航路も〈はやぶさ〉も赤く点滅している。全速力ですっ飛んできた〈はやぶさ〉は、姿勢を変え、メインエンジンを進行方向に向け減速しながら進入路
七 海賊退治 トウキョウを出て二日目。〈はやぶさ〉は燃え盛る太陽に向かってつき進んでいた。メインベルトからは小さく見える太陽が、今ではずっと大きく、そしてまぶしいほどにかがやいている。 そして前方には巨大彗星。うすく光る、大きな長い尾をたなびかせている。 彗星はちりと氷のかたまり。実は小惑星の仲間だ。太陽に接近すると、氷が溶け出しガスとなり、ちりがふきとばされて、あの長い尾が作られる。 この彗星はその中でも特大のサイズ。サングレーザーと呼ばれる、太陽にものすごく
六 君の涙を見たくない 〈はやぶさ〉はトウキョウに到着した。船を下りたラクトはゴヘイの事務所に急ぐ。 とにかくまず相談してみて、地球に行かなくてすむようにしなくては。 もしゴヘイがかばってくれないとわかった時には、メインベルトをぬけ出して、土星より遠くの辺境へ行く覚悟ができていた。あっちなら星同士の距離がはなれているので、〈はやぶさ〉のような足の速い船は重宝されるはずだ。エッジワース・カイパーベルトと呼ばれる、海王星の外側の小惑星帯まで行けば確実だ。 冥王星やエ
五 暗闇の天使 「いやだ! 放してよ! 〈はやぶさ〉に帰らせて!」 酒場から連れ出されたラクトは、大人三人に囲まれてそのまま連行されていく。じたばた暴れて、行くもんかと抵抗してみたけれど、艦隊士官二人に両わきからがっちりかかえられていては、どうにもならない。 身長差があるので、ラクトは宙に浮いている。空いている足で両隣をけっとばしてみたが、そこはきたえられた艦隊士官。子供にけられた程度では、二人ともしれっと気にしていない様子。 暴れながら連れていかれるラクトはとて
四 準惑星ケレス 二度目の仕事で、ラクトはケレスにやってきた。 ケレスはメインベルト最大の天体だ。直径は九百五十キロメートルほど。他の小惑星とはちがい、この大きさになると重力によりほぼ球形をしており、分類上は準惑星ということになる。最大の天体であること、近い軌道に多くの小惑星があることなどから、自然とメインベルトの一大交易地となった。 白くかがやくケレスが近づいてきた。いくつもあるコロニーの明かりも見える。ケレスにはうすい地殻の下に氷の層があり、宇宙では貴重な水を
三 ばらばらになるのはいやだ ラクトのお父さん、ソウジ・アキシマは技術者だ。いろんな機械の設計を手がけ、時には自分で作り、整備でも修理でもお手の物。〈はやぶさ〉もイチコもミミも、みずから設計した。メインベルトのようなところでは、まんべんなくこなせる人間はとても重宝される。なので人柄とあいまって、人望は厚い。すらりと引き締まった体つきに優しい目元が印象的。声を荒げるところは見たことがなく、いつも落ち着いている。 お母さんのシノは地球の名家のお嬢様。かなりの天然でラクト
二 ラクトの初仕事 太陽系は、太陽を中心に、その周りをさまざまな天体が回っている。地球もそのうちの一つだ。地球のように大きなものは惑星と呼ばれ、太陽に近い側から水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星と、全部で八つある。ところがその軌道を調べてみると、火星と木星の間がなぜか広く空いていて、長らく天文学の謎となっていた。 一八〇一年、その空隙にケレスが発見された。他の惑星に比べると小さく、そのためなかなか見つからなかったのだ。それを皮切りに、似たような軌道に
〇 プロローグ 扉の外、廊下をせわしなく行きかう人の気配。小さくかちゃ、かちゃと、銃器と装甲服のこすれあう音。 「内部で手引きしたやつがいるな」 となりに座る男の小さなつぶやきに、彼女はブルッと身をふるわせた。 いまだに少女のような可憐さを残すその顔がくもる。内心の不安を伝えるように、男の腕にすがっていた手にぎゅっと力をこめた。 二人は夫婦だった。照明を落とされた暗がりでよく見ることができなくても、長いつきあいの連れ添いが今どんな顔をしているかは、容易に思い浮か