キャプテン・ラクトの宇宙船 最終話
十一 突入!
ロケットブースターにしがみつきながら、ラクトはイチコにたずねた。
「〈はやぶさ〉に気づかれてるかな?」
ブースターの噴炎はそう大きなものではないけれど、進行方向に向かって飛び出しているのだから、目立つはずだ。
「だいじょうぶ。ダミーの映像を映しています。小惑星についたら連絡しましょう。地下に潜っちゃうと連絡つかなくなるので、その前に増援を要請しておきます」
イチコはこの距離でもまだ〈はやぶさ〉とつながっていた。偽装工作は万全のようだ。
この作戦はタイミングが命だ。相手に対しては奇襲にならなきゃいけない。でも、相手の脱出をラクトたちが阻止したら、すぐに艦隊の増援がないと、ラクトたちだけでは相手を押さえこむことは難しい。
小惑星に取り付いた。ここからはロクローの本領発揮。もともとこういう小惑星で鉱石をほり出すためのロボットだ。
手際よく採掘用のテントを張る。直径五キロメートルの小惑星には引力はほとんどないので、これを張らないと、鉱石がほとんど宇宙へ飛び出していってしまう。今回は穴をほる時に飛び散る破片で、敵がこちらに気がつかないようにするため。
その間にイチコが船に連絡を入れる。突入予定を告げて、それに合わせて増援をたのんだ。
「向こうの人たち、おこってた?」
「うーん……。らっくんはこれが終わったら、しっかりおばあちゃん孝行しないとだめですよ」
やっぱりさわぎになったらしい。
「さあ、ほりますよ」
ロクローが告げた。張り終わったテントの中に、みんな移動する。テントの中は今は真空のままだが、密封されていて、気圧が上がっても空気が外にもれないようになっている。格納庫に穴を開けても、これでだいじょうぶだ。
ロクローの手がすぽんと前腕部へ吸いこまれ、代わりにドリルが出てきた。ぼんやりとと赤く光りだす。氷を一気にほるために、高温にしているのだ。
「しっかりつかまっててください」
みんなロクローの背中にしがみつく。そこが飛んでくる破片から一番身を守れる場所だ。ミミ、ラクト、イチコの順に重なる。
「行きますよー!」
体がうき上がらないようにアンカーを打ちこみ、ロクローはがっと地面にドリルをおし付けた。
じゅうじゅうとすごい勢いで氷を溶かし、ドリルでくずしながらほっていく。採掘ロボットの本領発揮だ。
ロクローのドリルの高温で溶けた氷は水蒸気となり、坑道を満たしていく。辺りにはもやがかかったよう。ラクトの宇宙服のフェイスガードがくもって真っ白になった。ロクローのライトが幻想的に光っている。
ただ、振動と轟音で、ラクトには辺りの様子をのんびり見ている余裕はなかった。猛然とほり進めるロクローに、しがみついているので必死だ。
十メートルほどほると、壁に行き当たった。ロクローは今度はうってかわってていねいに周りをけずりだし、壁をむき出しにする。
「中の連中に気がつかれないようにそっとね。ぎりぎり通れればいいよ」
「了解です」
前腕部にドリルがすぽんと吸いこまれ、今度は丸のこが出てきた。激しく火花をまき散らしながら、直径一メートルほどの穴をくりぬく。
掘削の振動、丸のこの火花と、身近で感じるとかなり大きい。正直、格納庫内の人間に気づかれていないか、ラクトは心配だった。中が静かで、注意深い人がいたら完全にアウトだ。こればかりは、出発準備の喧騒にまぎれて気がつかれないことに、かけるしかない。
ロクローは、くりぬいた壁を向こうに落とさないように、坑道側に引っ張り、外す。坑道の中の水蒸気はけっこう高圧になっていたようで、格納庫に向かってふき出した。白い煙が出たはずだけれど、幸いなことにのぞきこんだ格納庫内はうす暗かった。
そっと中をのぞくと、すぐ下に宇宙船の尾部が見えた。大きさは〈はやぶさ〉とほぼ同じ。脱出用の船としてかくしておくには大型だが、これだけ通常の航路から外れた場所から帰るなら、これぐらいの大きさは必要だ。そしてその大きさおかげで、もれる熱も大きく、ラクトが気づけたのだ。
いくつか明かりがついているけれど、それは要所を照らしているだけ。人の姿は見えず、いるとしたら宇宙船内のようだ。発電機やモーターのうなりもひびいていて、向こうがこちらに気がついた様子はない。
まずは第一関門突破と、ラクトはつめていた息をはいた。
と、その時。
格納庫の大扉が開いた。
おどおどとおぼつかない様子で、十数人の集団が入ってきた。ちらちらと後ろを気にしている。何を気にしているのかは続いて入ってきた数人を見ればすぐにわかった。銃を構えて、集団を急き立てている。その数人はおそろいの濃紺のローブをはおっていた。
後ろから来たのは教団の人間。前にいるのは誘拐された人たちだ!
「ラクト! お父さんとお母さん! あそこ!」
ミミの指差した先。急き立てられる集団の後ろ辺りに、男女二人連れ。
見まちがえようもなく、お父さんとお母さんだ!
よかった、生きてたんだ!
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