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キャプテン・ラクトの宇宙船 第10話

  十 小惑星発見

 ブリッジの壁面モニターいっぱいに、星空が広がっていた。
 一見何の動きもなく、一枚の画像が映されたまま、まったく変化がないように見える。だが。
「ほら、ここですー」
 イチコがある場所を指さした。一つだけ動いている星がある。小さな、かすかに映っている星だ。時間をおいて撮った画像を順ぐりに表示しているので、ぽん、ぽん、ぽんと少しずつ位置が動いていく。
「星図にない星です。概算ですが、軌道条件は探している小惑星と一致しています」
「さすが! お手柄!」
 アライ二尉がぱちんと指を鳴らした。ハヤカワ三尉がイチコに確認する。
「こちらは〈かずさ〉には……」
「はい、もう連絡ずみですー」
 おじいちゃん、おばあちゃんがラクトをふり向く。
「ラクトちゃん?」
「これは……」
「うん、あそこにお父さんとお母さんがいるはず」
 こわばった顔でラクトはうなずいた。
「見つけたんだ……!」
 ぞくぞくと武者ぶるいを覚えた。二人が行方不明になってから、いつか見つかるはずだと信じてきた。
 願いは通じた。いよいよこれからが本番だ。
 〈かずさ〉から連絡がきた。
『よく見つけてくれた。感謝する。部隊はこれより針路変更。太陽側から接近する軌道を取る』
「データ送られてきましたー」
 ラクトの目の前のホロディスプレイに、新しい軌道が表示される。太陽側から接近するのは、相手に発見されるのをおくらせるためだ。かげになる側を相手に見せるので、光学探知はしづらくなる。
「よし」
 ラクトはそれを確認すると、手なれた操作で新しい軌道に船を向かわせる。
「初めての艦隊機動に、まったくおくれないんだから、ほんと、たいしたもんだ」
 船長席に座ったアライ二尉が、ラクトの操船をほめた。
「ただ言っとくと、艦隊に組みこまれた時点で、この船を指揮しているのはオレだからなー。指示なく船を動かすなよー」
「あ、そうだった。ごめんなさい」
 つい勝手に動かしたけれど、アライ二尉の言うとおりだ。だから今のラクトは、船長席の前、操舵士席に座っている。操船はどちらの席からでもできるので、うっかりしていた。
「よーし、いい子だ。この船は戦闘になっても参加しないからな。最後尾で距離取れよ」
「はい」
 ラクトは自衛艦隊の四隻が作るひし形陣形の、さらに後ろに船をつけた。
 小惑星への接近は慎重に行われた。とにかくなるべく発見をおくらせたい。幸いなことに、相手からレーダー波が出ている様子はない。向こうも秘密裏に小惑星を発掘しているのだから、目立つことはしたくないのだろう。
 それにこんなだれも寄らないような所だから、あまり辺りを警戒していないのかもしれない。そうであれば、船影に気づくのはだいぶおくれるはずだ。
 そうあってほしいと、ラクトは願った。襲撃を完全な奇襲にできれば、あっさりと人質をうばいかえせるかもしれないからだ。
 見つけた小惑星は確かにかなり太陽からはなれた所にあって、軌道変更から接近までには、何日もかかる。その間も〈はやぶさ〉の観測機器はフル回転。小惑星の観測を続ける。相手の様子が少しでもわかっていた方がいい。
 船内には緊張感が増していた。宇宙には空気がないのだから音も伝わらず、自分たちの声が届くわけもないのに、見つかってはいけないとなるとつい小声になってしまうのだ。
 そしてラクトは相変わらず、寝るたびに夢を見ていた。

 ようやくたどり着いた小惑星。〈はやぶさ〉を着陸させて、ラクトは大急ぎで船を出る。発掘場所は地下にあるようだ。もぐりこんだ坑道は、あちこちに枝分かれして、さながら迷宮のようだった。
「お父さん、お母さーん!」
 ラクトは二人を探す。坑道にはだれもいない。返事もない。
 坑道に沿って小惑星の奥深くへと降りていく。小さな小惑星の重力は本当にかすかだ。海の中をただようように、奥へ、奥へと進んでいく。
 やがて大きな扉に進路をふさがれる。ここが坑道の一番奥のようだ。開閉スイッチは切れていて、おしても扉は開かない。
 つぎ目にわずかな隙間がある。そこに指をねじこんで、何とか人一人通れるぐらいにこじ開ける。
 中に入り、目に飛びこんできたのは、床にたおれている人たちの姿。
 泣きそうになりながら、その顔をのぞきこむ。
 とうとう見つけた。お父さん、お母さん。その顔に生気はなく、ふれたほおは氷のように冷たく……。

「!」
 背筋にぞっと悪寒が走って、きゅうっと血の気が引き、そのはずみでラクトは目を覚ました。
 は、は、と浅く激しい息をしている。汗をぐっしょりとかいていた。
「だいじょうぶ?」
 ミミがその汗をふいてくれる。
「お父さんとお母さんが、死んじゃってる夢見た……」
 手のふるえが止まらない。ラクトはミミをぎゅっとだいた。
「だいじょうぶだよ、ラクト。きっと無事助け出せるから」
 ミミはなぐさめてくれるけれど、ラクトはそれに返事ができない。
 毎晩毎晩、悪夢にうなされ何度も目を覚ます。両親が行方不明になってから、悪夢はちょくちょく見ていたが、その頻度も内容も、この航海の間にどんどんひどくなっていた。
 もしかしたら両親には、二度と生きては会えないのかもしれない。そんな不安をずっとラクトは自分の中に押さえこんできた。両親の所在が明らかになり、助けられるかどうかが目前となった時、その不安があふれそうになっていたのだ。
 眠りが浅いので、ラクトの様子ははたから見てもはっきりと悪かった。顔色も悪いし、食欲も落ちてきている。心配してアライ二尉が声をかけた。
「だいじょうぶか、ラクト。操船は他の人に任せて、休んでいてもいいんだぞ」
「ううん、平気。ブリッジにつめていた方が、変なこと考えないから、楽だもん」
 結局周りは心配しながら見守るしかない。
 当のラクトは不安におしつぶされそうになりながら、それでも心の中で強く思っていた。
 もし何かあったら、自分で飛びこんででも助ける。ここまで来てだめだったなんて、絶対にさせない。

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