境界の向こう側~お彼岸に邪気を祓い、避災招福を願う~
川瀬流水です。今年の春分の日は。3月20日(水)でした。春分は、太陽が真東から昇って真西に沈み、昼と夜の長さが同じになるという、1年のうちで最も重要な季節の変わり目のひとつです。
春分を中日(ちゅうにち)として、前後3日間を含む7日間は、春の「お彼岸」(おひがん)と呼ばれます。
彼岸という言葉は、サンスクリットのパーラミター(波羅蜜多)に由来し、迷い多き現世(こちら側の岸)から、悟りを得るための修行をへて到達する浄土(向こう側の岸)をさします。
お彼岸に行われる行事(彼岸会、ひがんえ)は、仏教的色彩が色濃く感じられるものです。
しかし、これに春分という農耕生活上の節目に対応する様々な儀礼、太陽信仰、呪術などの要素が結びついて、多彩な行事が行われてきました。
彼岸会の起源は、桓武天皇崩御後に行われた崇道天皇(早良親王)の法会とされますが、これは怨霊鎮撫の性格をもつものです。
また、現在、お彼岸のメイン行事となっているお墓参りでは、死者の霊や、浄化され彼岸に渡った祖先の霊(祖霊)に対して、その冥福を祈り、祖霊の守護による避災招福を願います。
関西のお墓参りでは、墓前によく「シキミ(樒)」が供えられます。シキミは、植物毒のなかでも最強のもののひとつをもち、独特の強い香りを放ちます。
シキミの花は、仏さまの美しい目を象徴する「青蓮華」(しょうれんげ)の花に似ていることから、鑑真が日本にもたらし、空海が修行に用いた、といわれています。
シキミは、その毒性と香りで、悪しき穢れを浄化する力をもつとされ、「ハナサカキ」とよばれることもあります。
京都の愛宕神社では、「清めのシキミ、火伏せのご神花」として授与され、家々の神棚に祀られるようです。
この特別な植物は、祖霊や神のような聖なる存在と我々を結ぶ空間を清め、浄化する装置であろうと考えています。
お彼岸の供物には色々なものがありますが、関西では、そのひとつとして「おはぎ」をあげる人が多いのではないでしょうか。
おはぎは「ぼたもち」とも呼ばれますが、神戸では、私の知る限り、一年を通じて「おはぎ」と呼ばれることが多いように思います。
今年は、神戸のソウルフード「ナダシン」のおはぎと、神戸駅北の老舗「幸福堂」のおはぎを購入しました。
いずれも、直径5センチくらいの食べやすいサイズで、甘さも程よく、美味しくいただくことができました。
おはぎには、アズキ(小豆)が使われています。アズキは、邪気を祓う特別な力をもつ、と信じられてきました。
祖霊は供えられたおはぎを食べ、我々はお下がりのおはぎを食べて、互いに忍び寄る邪気を祓い、過去から未来へとつながる家族の繁栄を築いてきました。
今年のお彼岸は、あいにく天候不順でしたが、中日(春分)の夕方、奇跡的に我が家から美しい夕日を観ることができました。
浄土思想の空間認識では、南北に川が流れ、我々の住むこちら側の世界は東岸、これに対する彼岸、すなわち仏や菩薩の住む浄土は西岸とイメージされます。
春分には、太陽は真東から昇り、真西に沈みます。春分の真西に沈む夕日の美しさと暖かい輝きは、私たちの周りから邪気を祓い、避災招福の願いをかなえてくれるように感じました。