人それぞれの人生があって、その背景に思いを寄せたくなる~パリタクシー~
90歳を超えた人は、皆さんにとって、親くらいの年齢だろうか。それとも祖父母くらい? 曾祖父母くらいの人もおられるかな。同世代って人がnote来ていたら楽しいな。
それで私たちは、そういった人たちの生きてきた歴史ってどのくらい知っているだろう。
目の前のおじいちゃんやおばあちゃんが、「今」見えている状態で、若いころがあったなんて、想像するだろうか。
祖父母が「~ができなくなった。若いころはできたのに」とか言うと、若いころの私は「またまた~」と思ってしまっていた。だって物心ついた時から自分のおじいちゃんやおばあちゃんだもの。できないことは、前からできなかったんじゃないの? とか努力したらまたできるようになるんじゃないの。とか今思えば、だいぶ残念な考え方だった。
それは自分が歳を重ねてきて「できなくなった」ことが増えてきて、ようやく心から理解するようになるのだ。
特に更年期を経ると、身体が今まで以上に思うように動かせないことにがく然とするし、それは自分より年配の方たちへの想像力となる。
みんなどんな風に見えていようと、「今」に至るまでたくさんの積み重ねがあるんだよな。
※ネタバレあります
タクシー運転手のシャルルは仕事中も常にイライラしている。
渋滞。接客。経済的なこと。免許のポイント。
そんな中、92歳のおばあさん、マドレーヌを乗せることになる。
品が良く、これから老人福祉施設に向かうのだと言う何でもない一人のおばあさまに思えるのだけど、タクシーから見える景色に、「ちょっと寄ってほしい」とお願いしたり、思い出話をちょこちょこ話したりする。
マドレーヌの語るその内容がなかなか強烈。
街なかのあちこちで止まっては語り、少しずつ少しずつ、二人の距離が縮まっていく。
シャルルの柔らかくなっていく態度や表情、マドレーヌとの関係に心温まる。
マドレーヌの人生を聞いて思う。
今の世の中や社会、上手くいっていないこともたくさんある。でもやはり先人たちの努力があることも忘れてはならない。
今だって大変だろうに、もっと社会や世間が許してくれなかった、夫婦の離婚。子供の言動にはどうしても胸が痛み、つらくて耐えがたい気持ちになる。
帰りの車の中、夫と「ちょっと前なのに、フランスでも結婚制度や人々の考え方はあんなだったんだね」「女性はひどい扱いだったんだね」「マドレーヌのようなああいう人たちが頑張ってきてくれて今があるんだね」としんみり話した。まだまだ歩まなければならない道半ばのこともあるけれど。
人は、何かに対しての考えを持つことにもう少し自由でいて良いし、人を傷つけるのは当たり前のことではない。そして周りがその人の幸せを決めるのではなく、その人がその人の心の幸せを求めて良い。
シャルルがそんな彼女とたった一日だけど濃い時間を過ごすことで、一人の婦人の人生を知り、大切な人と思えるようになる。
観ている私たちも、誰かを応援したくなる映画だった。