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改めて読むと、枕元に置くくらい好きになった「星の王子さま」~児童文学も楽しもう~

 絵本は多くの人が手に取った経験があるはず。幼少期。好きな人は大人になってからも。それまで関心がなくたって子供のいる人は必然的に。

 小学生くらいになると、文字が増えてくる。国語の教科書の物語も学年が上がるにつれて少しずつ長くなってきて。小学生いっぱいくらいまでのファンタジーやおとぎ話を、児童文学とカテゴライズする。
 児童文学を大人になってから手に取る人はどのくらいいるのだろうか。

 大学の頃。何が勉強したいのかまったく定まっていなかった私は、好きな先生のゼミをとると決めた。
 「英米児童文学」の先生は、英米に限らない児童文学の本を目が回るほどたくさん紹介してくる。絵本やヤングアダルト小説(※主にティーネイジャー向けに書かれた小説)も紹介して、授業を深く理解したいなら、紹介した本は全部読んで下さいと言われた。
 先生は灰谷健次郎さんなどの著名人と時に飲みに行った話や、当時まだ若い作家として川島誠さんや江國香織さんの紹介をしてくれた。作家さんたちとの話の内容も、本の紹介も、惹きこまれる面白さ。夢中で授業を聞いた。そして毎回「時間のある今のうちにたくさん本を読みなさいね」と言うのだ。

 絵本を見る時のポイント、解釈のコツなどを教えてくれたけど、自分の解釈は話さなかった。
 だいぶ前のめりになったところで、皆を見まわしニヤリと笑みを浮かべ話を静かに終える。
 「どうですか?」「どう思いますか?」と言ったきり、その先は決して話してくれない。自分で考えてねと。

 ゼミはもっと詳細にポイントを教えてくれたし、英米児童文学で優れた分野の人たちをも紹介してくれた。
 皆さんもきっとご存知、「がまくんとかえるくん」シリーズを書いたアーノルド・ローベルや「かいじゅうたちのいるところ」を書いたモーリス・センダックの絵本。

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 フィリッパ・ピアス「まぼろしの小さい犬」「トムは真夜中の庭で」やマーガレット・マーヒー「足音がやってくる」は特に印象に残った。他にジョーン・ロビンソンの「思い出のマーニー」はジブリ映画にもなった。

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 児童文学の魅力は、子供にとってはストーリーを追う面白さ。そして大人には大人の読み方ができるところ。読み方によって奥は深さを増す。

 さらに子供の頃の純粋な気持ちだとか、忘れていた感覚を思い出させてくれる。
 それは忘れていっても良いものだと思う人もいるかもしれない。でも子供って何考えているかわからないと思った時、確かに自分もそんな部分があったはずと振り返る。そんなフレーズや情景がおおいにある。
 そしてその考え方は、日々を生きていく上で自分の考え方に光を照らしてくれたりもする。


         *

 今年の春頃だっただろうか。ふと。
 思った。唐突に。
 「星の王子さま」ってなんでこんなに有名なんだろう。

 私が初めて読んだのは、小学4~5年生の頃。
 塾で「読みなさい」と先生に言われて読み、全然面白くなかった。意味がよくわからなかったのだ。
 イメージはそのままに、何十年も経ってしまった。

 でも名作と言われ続けている。
 今読んだら何か感じるところはあるのかしら。
 手に取ってみる……。確かに不思議なお話ではあるけれど。

 そのまま何度も何度も読み返している。

 こんなに可愛くて愛おしい本だったのかと知った。

 可愛くて愛おしいのは、そのまま王子さまへの思いに通じる。
 王子さまは子供のようで、あらゆる感情を知っている大人でもある。無垢なようだけど、深く物事を考えてもいる。何かを経験する度に考え、よくわからないと共感できずとも、ただ知っては自分の感情とすり合わせる。

 そしてその王子さまを大切に扱いたい「僕」。
 「僕」は大人のようで子供の心を失っているわけではない。ただ忘れていて時々思い出せる。物事をよく知り、深く考えているようで、目の前で起きる出来事に対応するので精一杯。

 「僕」は王子さまを大切に思っているし、王子さまも「僕」を大切に思っている。王子さまが「僕」の心のようにも思える。
 「僕」が王子さまと重なってきた時に、それまで王子さまが語ってきたバラを含めた愛の話なんだと確信する。
 そして一度や二度読み終わっても、これはどう解釈しようかなと考えさせられる言葉や場面の多いことといったら。

 よく取り上げられるフレーズ「大切なものは目に見えない」。
 その後の言葉も深くて重たい。キツネが言う。

「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」

 そして王子さま自身の言葉から、私の好きな部分。

「地球の人たちって」と王子さまが言った。「ひとつの庭園に、五千もバラを植えてるよ……それなのに、さがしているものを見つけられない……」(中略)「だけどそれは、たった一輪のバラや、ほんの少しの水のなかに、あるのかもしれないよね……」

 (河野万里子訳)

 無垢な気持ちのようで、繊細でヒンヤリと落ち着いた言葉。それを強く訴える「王子さま」に圧倒される。

 ラストに関しては、解釈がどうにでもできるし、考察は様々に書かれてある。読んだ人が読んだように感じれば良いのが児童文学の面白いところだし、作者サン=テグジュペリも決めたように書きたくないのではないかな。

 大人になってからでも、児童文学を是非手に取って読んでみてほしい。ストーリーはファンタジーでドラマチックなものが多い。
 子供たちの年齢や心の動きには、心理学の勉強に通じるものがある。哲学の要素もあり、それでいて子供目線から見える世の中や大人に、ふと立ち止まって考えさせられる。そして解釈の幅の広さ。

 「星の王子さま」は、児童文学に対する私の概念そのものが凝縮された本。
 夜、疲れた気持ちを落ち着かせるために枕元に置いており、横になりながらちょこちょこ読む。
 そして眠る時にまぶたの裏で、私は彼らと心地良い旅に出かける。早く眠れないと焦ってしまう私には大切な存在。

・~*~*~・

 さて。今回は今まで縁のなかったアドベントカレンダーの企画に参加させていただきました。お題は、メディアパルさんの企画です。

 私がつい尻込みしてしまう「人の輪」とは関係なしに参加できるものもあるんですね。参加した経緯もまた書きたいなと思っています。

 メディアパルさん、どうもありがとうございました!


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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。

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