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親子みたいな関係が、自然に築かれていく~ホールドオーバーズ~
幼い子を育てていると、自分の子供が高校生くらいになったら……なんて想像できないよね。だって今、接している一つ一つが大変だもの。「あっという間」とは聞くけど、そうは思えないすっごいお兄ちゃんやお姉ちゃんに思えてくる。
高校生くらいと言えば反抗期を過ぎたところだけど、もっと子供の頃みたいに無垢ではない。かと言ってまだまだ思春期の中にいて気持ちは揺れやすい複雑な時期には変わりない。背は高くなっただけで親から見たら全然可愛らしい子供だ。
そして親の自分たちだって、親の立場にいるだけで実際はただの人。
※一部ネタバレあります
1970年の、男子校の寮が舞台。
季節はクリスマスを迎える頃。
アメリカでのクリスマス休暇は、会社も学校もお休み。少し長く休みが取れて、家族で過ごす大事な大事な時期。
なのに、アンガス・タリ―のお母さんは、新しいダンナさんと新婚旅行に行きたいから、寮に残ってくれとアンガスに頼む。しかも帰宅する当日に。ひどいよ。もうそれだけで悲しくなった。
事情はそれなりにあるのだけどさ。だけどそれでもだよ。せめて何日か一緒に過ごせるじゃないか。
高校生だからもう耐えられるものだろうか。
そんなことないよね。
早い自立を促すアメリカであっても、やっぱりアンガスは寂しかった。生意気に見えていても、「お母さんと一緒に旅行するはずだったのに」って電話口で母親にすがる。
寮には、料理長のメアリー。
クリスマス休暇に家族の元に帰れなかった生徒たちの面倒を見るハナム先生。
それぞれに事情があって今回そこに集合。
他にも生徒たちがいたのだけど、結局この三人での共同生活が描かれていく。
実は主役は、偏屈で生徒たちからも嫌われているハナム先生。せっかくのクリスマス休暇に、生徒たちの監督をしなくちゃいけない羽目に陥って参ったなって目線なのだ。
ずっと軽いタッチなので、「ここだよ!」ってわかりやすい感動シーンはない。
小さな出来事の積み重ねで、そう言えばいつの間に……といった風に、アンガスとハナム先生との間柄に変化が見られていく。折にふれ「相手の気持ちや立場を考える」ことを自然に伝えるメアリーも、そこに貢献しているんだよなあ。
少し近づいては少し離れ、とブランコが揺れるように、でも少しずつ前に進んでいく感じ。
気が付いたらそんな偏屈な先生と、人をイヤな気持ちにするのが上手なアンガスが良い親子関係みたいになっている。
「お前は父親とはちがう一人の人間なんだ」と言い聞かせるシーンなんか、すっかり父性。実の父親じゃなくても、継父じゃなくても、父性は誰でも与えられる。母性も同じく。
その流れは是非映画を観て感じてほしい。
ところで私は、この三人で旅行に出ようと決まった時の、アンガスの「じゃあ荷造りする!」とワクワクした表情と声の調子に、胸が詰まってしまった。
やっぱりまだまだ子供なんだ。こんなに楽しみにしていたんだなと伝わって。
道中の車内で会話したり、食卓を囲むようになったりする時のアンガスもとても楽しそうで、素直な心の内が見えてくる。
子供にとって、立派に育つことが重要なのではなくて、大人から想われることが大切って感じた。
そんなに話題にならないけど、アカデミー賞で脚本賞や作品賞などノミネートされ、助演女優賞を受賞した。ゴールデングローブ賞では主演男優賞と助演女優賞。
ほろ苦いけど、なかなか良かったよ。
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