ただ生きるだけで良いと思えた~i(アイ)~
2月半ばに読んで、その頃は世界がここまでのことになるなんて思っていなかった。
今はどうしても世の中の状況とつなげて考えたくなるし、それも当然な読み方になってしまう。読んでしばらく後、感想を書き「来週辺りに載せれると良いな」と思ったけど、タイミングを逸して数週間が経ってしまった。
あくまでもただの読書感想文として読んでいただけると幸いです。
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西加奈子さんの作品には、「生きる」力強さをいつも感じさせられる。
訴えてくるものが強烈。奇妙な愛すべき人たちも出てくる。性描写も今のところ気分良く読んだことはないのに、物悲しかったり、どこか珍妙でおかしかったり、気味が悪かったり。表現のすべてに西加奈子さんらしさで溢れていて、「こういうのが好きなんでしょ」みたいな甘さを感じない。
ストーリーなど表に見えるもの以上に、彼女の書く言葉から、自分が何かを感じ取る力が要る。
そして自分の中の見たくない部分。忘れようと隅に追いやっている部分。忘れそうになっている部分を、あえて思い起こさせる。甘さや切なさや悲しさよりも、もっと人間の奥底にある感覚が引きずり出される。
自分に占めるそんな些細な部分、と避けようとしているのに、そこを詳細に語ることで、読んでいると居心地悪くさえ感じる。でもやめられない。私は好んで読む。
みんな自分が自分でいることにどこか心細さと不安を持っている。
それを表現する心の豊かさと言葉の豊かさに圧倒される。そして描かれる人物たちへの好奇心から目が離せなくなる。
ファンタジーとも言える奇妙な展開のストーリーもある中、今回はわかりやすかったかもしれない。
だけど、命の描かれ方がいつも以上に迫力があった。
生きている「罪悪感」について徹底的に描かれていたように感じた。
アメリカ人の父親と日本人の母親に、養子としてやってきたアイ。彼女はシリアから引き取られた「運の良い」子だった。
何故、自分が引き取られたのか。
自分は愛情を甘受して良いのか。
家政婦さんの家庭を通じると、さらに環境に恵まれていない、どうやら自分のようではない子たちに思いを馳せるようになる。この辺りは映画「ROMA」を思い出した。命に対する捉え方や風景が。
自分が生きていて良いのか取り付かれたように世の中の動向を追う彼女。
だけど自ら愛する二人と出会い関係を築いていくことで、生きることと人を愛することとへの気持ちの決着をつけていく。
究極は、想像力を働かすだけで生きていて良いんだ。
生きていることに意味なんか見出せなくても。
自分だけが生き延びてしまったとか、被害者じゃなかったとか、何かの役に立っていないとか、頑張っているとか頑張っていないとか。
自分の存在の意味をわからなくたって、私たちは、ただ生きていて良いんだ。
ついつい何にでも意味を考え、ともすれば無価値に思える自分の人生を、全力で肯定されている気がして、西加奈子さんにお礼を言いたくなった本だった。
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