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大丈夫。子供はちゃんと成長するみたいだよ

 10年以上前にも泊まったそのホテルが安いのは、最寄りの駅から10分くらい歩くからみたいだ。
 歩き始めてからその光景を思い出した。

 まだ幼かった息子が、みるみる無口になり、眉間にシワが寄り始め、機嫌が悪くなっていく。もう何年か幼かったらグズグズ泣き出すところだ。かんしゃくだってまだおさまりきっていないころ。ハラハラしながら見守る。

 そうだったなあ。息子は歩くのが嫌いだった。
 幼稚園いっぱいまで抱っこをねだってきた。私にはもう重たくなったから、歩きながらの抱っこはできないよと夫にその役はおまかせ。
 甘やかしじゃないかとかこの子は今後大丈夫かとか不安もあったけど、充分に甘えてもらったら良いとも思っていた。
 最近知った。息子の特性上、ごく当たり前の行動だったようで、否定しなくて良かったとホッとした。

 実際、小学校の登下校でけっこう長い道のりを毎日歩いた。
 そう言えばマラソンもけっこう好きで、地域の大会に出ていた。いつも最後の方だったけどそれでも1キロや2キロを懸命に走っている姿は胸を打ったものだ。時には親子マラソンで私も走らされ、必死で息子の手を引きながら走り。
 「歩くのは本当は好きじゃないけど、登下校はがんばらなくちゃと思っていたんだ。ゆっくり走るのは嫌いじゃないよ」たしかそんなようなことを言っていた。

 手をつなぐ時期も長かった。田舎街ですぐどこかで誰かとバッタリ会うから嫌がるだろうと思ったのに、一向に手を振りほどかない。友達に会うからお母さんとじゃなくてお父さんと手をつないでもらったらと伝えたのは、小学校3~4年生になった頃だったかな。
 中学一年生いっぱいくらいまで要求されたら夫は手をつないであげていた。
 息子の気質上、そういったことも否定しないで良かったのだ。


 時を経て、二十歳の息子。

 駅から遠いホテルまで三人で歩きながら、みるみる私が後方になる。たかだか1泊分の荷物でさえ私には重たくてどうも夫に追いつかない。もうそんなお年ごろらしい。夫は気にかけてくれる時もあるけれど、基本的にマイペース。私も私でそんなに腹が立ったり悲しくなったりもしない。姿が見えていれば安心なのだ。見えなくなりそうまで行くと寂しいけれど。
 どんどん距離が空いた時、夫と話しながら歩いていた息子が振り向いた。

 そして話しかけたそうに立ち止まっている。
 なにか聞きたいことでもあるのかな。
 私が追い付いて「なに? どうしたの?」と聞くと「大丈夫? 荷物持つ?」と聞いてきた。
 なんだ。そんなこと聞くために待ってくれたの。大丈夫だよ。なんか重たいからかスピード出ないんだよね。と笑うと「持つよ」と一つ荷物を持ってゆっくり歩いてくれる。
 夫がようやく気が付いて立ち止まっているので追いついて「息子クン、先に気付いて待ってくれたんだよ」と笑うと夫も「おお。そうやってるとモテるぞ」と笑う。
 三人で何となくニコニコしながらホテルまで歩く。

 この前で、二度目。

 どうしてもスピードが出ず追いつかない私を息子が待つ。
 そして私の荷物の一つを持つ。
 夫と私の中間辺りを歩く息子の背中を見て、いつか私が手を引いたように、私は手を引かれて歩くようになるのかしらん。なんてのんきに思う。

 子供は成長していくんだな。やっぱり甘やかしなんかじゃなかった。あるていど気が済むまでベッタリしてもらって大丈夫。しみじみ思うから、10年前や15年前の私に「大丈夫だよー」って声をかけてやりたい。
 そんなこと思ったこの夏。





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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。

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