なんでもない散歩だけど
「ごめーんダメだー。もう痛くて歩けない!」
夫に訴えて、上り坂の途中で動けなくなったのはいつ頃だったか。1年ほど前? 「ああそうかあ。じゃあ待っててね」と夫が車を取りに行き、迎えに来てくれた。歩いていただけなのにと情けない思いでただ座って待った。
そこにたどり着くまで30分ほど坂を下り、そして上っているところ。
途中ではジョウビタキを見つけた。小さくて、頭のてっぺんが白くて、ツィ―ツィ―と鳴いている。すごく近かった。可愛くて可愛くて、その風景が宝物。一瞬、空気が止まるみたいになる。
でもまさか、その10分後くらいに歩けなくなるとは。
その半年くらい前だったか、私は坂を駆け下りていた。待ち合わせ時間ギリギリで、間に合わないと焦って30分ほど坂道を走り続けた。
すぐ後から右ひざがいたむようになった。どうしたら良いのか、専門のトレーナーでもつけたいわ~とか嘆きつつ、あれこれ筋トレやシップやもみほぐしや試してみていた。ごまかしながら、買い物以外は平地で15分くらい歩けるようになったから、坂道1時間近くの散歩くらいできると思っていたのだ。
でも坂を上がり始めたら、「痛い」「やっぱり痛いわ」「膝痛い」とうるさい私。あまりに言うから流す夫。基本的に私の言葉は流される。
そして結局冒頭のような結果に。
本当に痛かったのだ。
あれからやっぱり私は平地で15分程度連続でしか歩けずにいた。すぐに膝が痛くなる。
「膝が弱いね」は「自律神経の調整が下手だね」と同じ頃に言われただろうか。まだ歩けない赤ちゃんの頃。それからも歩くのが嫌いで、当時の映像に、歩かされてギャン泣きする私の姿が残っている。心境としては「歩きたくない」「抱っこして移動できたら便利なのに」だったのを覚えているくらいだけど、もしかしたら膝が弱かったためにすぐ足が痛くなっていたのかもしれない。
膝周りの筋肉をとにかく少しでも良いから鍛えようと思った。
家の椅子や段のあるところに浅く腰掛け、できるだけで良いから体は起こしておく。片方の足をまっすぐ前に上げて、足首をカクカク動かす。最初は5回ずつで疲れていたけど、段々増やしていって、今は左右20回ずつできるようになった。腹筋が面倒でも首回りのストレッチと共に、それだけは続けていた。
夫は、ドラクエウォークにハマっている。
元プロレスラー中西学みたいなシルエットをしていながら、いや筋肉より脂肪だから出川哲朗かな……まあ良いや。とにかくそんなでも以前は走っていた。でも東日本大震災の後から時間がなくなってしまった。時間が多少できても走らなくなった。ただいつかまた走りたいと思っているはず。ふくよかなお腹でTシャツをパツパツにしながら、夫は歩き始めている。
私は私で膝が痛いだけでなく、2月から体調を崩して15分すらも歩いていなかった。最近ようやく少し元気になってきたため、夫のドラクエウォークに付き合って歩いてみようと声をかけた。
二人で「歩くのが目的の歩く」も久しぶり。(夫はドラクエウォークだけどね)
家々の花がキレイ。芝桜もキレイな頃。
あっちに歩くよ。今度はそっち。
ドラクエウォークはあちこちウロウロするので、あまり馴染みのない場所だと、あっち行ったり戻ったりこっち行ったり、自分がどこ歩いているのかわからなくなる。
そのうち、家や木々が途切れ、パッと視界が開けた。「ああ、ここか!」
そして「猫の道、歩くよ」と言われた直後、ほんの数歩、道なき道の斜面を上がるよう促される。「にゃー」と言いながら歩く。その後ろを夫が「にゃー」と言いながら上がる。
こんなご時世だからとかじゃなく、田舎だから人はほとんど歩いていない。
30分歩いても、一人すれ違うかどうかくらい。
坂道が多くて「もう疲れた」「のどかわいた」「飲み物買いたい!」「しんどい」と言ってると、息子にソックリと言われてしまった。
でも結局、1時間くらい歩けた。
「膝が痛くならなかったよ! 日々のほんの少しの筋トレのおかげかな!」
「そうだねそうだね。筋トレのおかげだね」
流されている。
この前より、さらに少し長く歩けるようになって少し自信ができた。帰宅後、洗面所に向かうと、血色のいい自分の笑顔を見つけて嬉しい。
体調が悪くなければまた歩けそうだ。
人んちの花々がキレイだったけど、写せないので、公園の花々。
上から八重桜、かな。ヤブツバキ。ユキヤナギ。