【書評】吃音症の少年の闘い〜『僕は上手にしゃべれない』(椎野直弥)
自分の吃音症に懸命に立ち向かう感動小説です。後半は涙なくして読めません。
『僕は上手にしゃべれない』という作品です。作者は椎野直弥さん。
同じ悩みを抱えている人の助けになるはずです。
1、内容・あらすじ
主人公は、小学校の頃から吃音に悩んできた柏崎悠太。
彼は中学入学式の日、自己紹介のプレッシャーに耐えられず、自分の番が来る前に教室から逃げ出してしまいます。
その後も、クラスメートとの会話や授業中の発言で吃音が出て、消えてなくなりたいくらいの恥ずかしさと、絶望感を感じる日々。
なんとかしたい思いから、「誰でも上手に声が出せるようになります」という部活勧誘チラシの言葉にひかれ、悠太は放送部に入部します。部員は彼を入れて3名。
幸い、放送部の先輩も同級生も彼の吃音を笑ったりせず、一生懸命助けてくれます。家でも姉に助けられ、悠太はときどきくじけながらも懸命に吃音症に立ち向かいます。
そんなある日、彼はいつも助けてくれる姉や放送部の同級生、顧問の先生の意外な事実を知ることに。
そのことを知った悠太は、大勢の人の前でスピーチをする弁論大会への出場を決意するのでした──。
2、私の感想
この小説は、自身も吃音症に悩んでいた作者の実体験をもとに書かれたそうです。
実は、作者は私の教え子です。ひょんなことから彼が作家デビューしたことを耳にし、読んでみた次第です。
約20年前、私は彼が高校1年生の時に担任をしていたのですが、彼が吃音症を抱えていたことに全く気づきませんでした。
読み終わってから愕然とし、当時の自分の観察力のなさを嘆きました。
この小説を読めば、吃音症を抱えている人の苦しみや、吃音症の実態がよくわかります。
言いやすい行と苦手な行がある(カ行はダメだがサ行はOKなど)。「はい」と言えただけでもホッとする。お店で注文をするのが怖い。障害者でも健常者でもない曖昧な扱いをされる。などなど……。
吃音症の人の苦しみ、悲しみがぐいぐいと胸の中に入ってきて、何とも言えない気持ちになります。主人公を応援したくなります。
放送部の同級生の女子が、一生懸命親身になって悠太を助けてくれるのですが、その理由が後半で明らかになります。けっこう驚きます。
吃音症のことがよくわかるだけでなく、物語としてもよくできているのです。
3、こんな人におススメ
・吃音症で悩んでいる人
きっと救いになる小説だと思います。ぜひ!
・教育関係者
きっと私のように気づかない人がいるはずです。吃音症についてはしっかりと学ばなければいけない、と思いました。
・世の中の人全員
もしかしたら、みなさんの近くにも吃音で悩んでいる人がいるかもしれません。無理解は差別を生みます。この本を読んで知ってほしいです。
私がこの本を世に広めるのは、当時、彼の悩みに気づけなかった贖罪の意味もあります。
たくさんの人に読んでほしい小説です。
なお、こちらは吃音についてのノンフィクション。これもいつか書評を書きたいです。
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