【書評】予言の書?新型ウィルスが世界を襲う小説『首都感染』(高嶋哲夫)
強力な新型インフルエンザウイルスが中国から世界中に広がる、という小説、『首都感染』。
新型コロナウィルスが大変なことになっている今、タイムリーすぎて怖かったです……。
1、あらすじ・ストーリー
20××年、中国の北京ではサッカー・ワールドカップが開催されていました。
しかし、スタジアムから遠く離れた雲南省で、致死率60%の強毒性インフルエンザが出現します。
W杯を成功させたい中国はギリギリまで発表を遅らせ、ウィルスを封じ込めようとしますが失敗。
ウィルスは北京にも広がり、選手にも感染者が出始め、W杯は決勝戦の直前で中止に。
中国から帰国した選手やサポーターがウィルスを自国に持ち帰り、世界中で感染が広がります。
日本も例外ではなく、中国からの帰国者を隔離して対応しますが、次々と感染者が出る事態に。
死者も相次ぎ、「このままでは日本が全滅してしまう」と危惧した政府は、思い切った強硬手段に出るのでした。
……という、「予言?」と言いたくなるようなストーリーです。
2、私の感想
序盤までは完全に最近の情勢と同じです。中国から、というのも全く同じ。
最近よく聞くワードもたくさん出てきます。
封じ込め・隔離・検疫・不要不急の外出・自粛要請・正しく怖がる、などなど……。
違うのは、このウィルスが致死率60%という点です。
ワクチンや特効薬もないので、全く打つ手がなく、お医者さんや看護師さんも疲弊し、病院は修羅場になっていきます。
本当にこんなウィルスが広まったらこうなるのか、と思うと恐ろしくなります。
そして総理大臣は、批判覚悟でかなり思い切った措置を取ります。
事の重大さをわかっていない閣僚や野党議員たちを押し切って決断するのですが、「決断力のある総理大臣だな」と感嘆しました。
今の日本政府や総理大臣はここまでできるかな……。
この本の登場人物たちが今の情勢を見ていたら、クルーズ船の対応は間違っている、と言いそうな気がします。
作中でもウィルスが変異してタミフルが効かなくなります。コロナウィルスも今後どうなっていくのか、心配です。
「大きな被害もなく終息しました」と追記できますように……。
3、こんな人にオススメ
・ウィルスや感染症について知りたい人
作者は相当な量の参考文献を読んで書いていますので(巻末に一覧があります)、勉強になります。
・「パニックもの」が好きな人
ちゃんとハッピーエンドというか、決着がついて終わるので、そこも安心して読めます。途中は大変ですが……。
・医療に従事している人
そんなに絵空事でもない気がしますから、少なくとも教え子の看護希望者くらいには読んでほしいと思います。
作者の高嶋哲夫さんはこれ以外にも地震・津波・洪水・台風、数々のパニックものを手がけています。
読んで、現実でも備えておくといいかもしれません。