【書評】笑いと人情の江戸経済小説〜『大名倒産』(浅田次郎)
浅田次郎さんといえば日本を代表するストーリーテラーの一人。この作品も実に面白かったです。『大名倒産』。
1、内容・あらすじ
主人公は松平小四郎。21歳の青年です。性格は実直にして、糞がつくほどの真面目。
小四郎は、先代藩主が女中に手を付けて生まれた庶子の四男でしたが、兄の急逝などで、丹生山松平家三万石を継ぐことになります。
継いだばかりの小四郎は、ある日江戸城で老中に「献上品が届いていない」という指摘を受けます。
不審に思った小四郎は、慌てて藩の経済事情を調べてみて愕然。
260年間積もり積もった借金総額は25万両、年の利息だけでも3万両、それなのに歳入はたったの1万両。
奇跡でも起こらぬ限り返しようもない額の借金を抱えていたのでした。
さらにあることが発覚します。父である先代はこの苦境に見切りをつけ、計画的に「大名倒産」をするために、庶子の四男である小四郎に藩を継がせたのでした。
父祖から受け継いだお家を潰すまい、美しき里である領地の民を路頭に迷わせまいと、 小四郎は奔走しますが──。
2、私の感想
非常に読んでいて楽しい小説でした。楽しんで書いていることが伝わってきます。
『壬生義士伝』や『蒼穹の昴』ではなく、『プリズンホテル』の方の浅田次郎さんです。読みながらところどころで爆笑してしまいます。あの場面で「とうさんのとうさんはとうさん」はまずい……(笑)
時代小説の形を取っていますが、要は「計画倒産を目論む先代社長vs再建を諦めない現社長」という話です。
ユーモアたっぷりなのですが、現社長にしてみるとひどい話です。
殿様(藩主)も大変だなあ、とつくづく思いました。星新一の『殿さまの日』を連想しました。
参勤交代の実態もよくわかりました。よくできたシステムだと感心します。これを考え出した徳川はやはりただ者ではありません。
下巻に入り、明るい材料も出てきますが、それでも藩の財政状況は焼け石に水。「これ絶対無理なんだけどどうなるんだろう」と思っていたら──。
なるほど、そうなるのか! 最初から最後まで、とにかく楽しい小説です。さすがは浅田次郎さんでした。
3、こんな人にオススメ
・鮭が好きな人
これは読んでみればわかります。鮭が食べたくなります。
・楽しみながら江戸時代を学びたい人
教科書には載らないような江戸時代がたくさん。
・楽しい小説を探している人
不快になる箇所は一つもありませんでした。登場人物もみな個性的。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?