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書評通信

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2021年2月の記事一覧

【書評】科学の真実が悩める人を癒す〜『八月の銀の雪』(伊予原新)

こちらも本屋大賞ノミネート作品。直木賞候補にもなりました。伊予原新さんの『八月の銀の雪』。「理系癒し小説」とでもいうべき新ジャンルを開拓した作家さんです。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ就活がうまくいかず、鬱屈した日々を送る理系の大学生、堀川。 彼がいつも立ち寄るコンビニには、「グエン」というベトナム人のアルバイト店員がいました。 グエンは日本語がよくわからず、不愛想で手際が悪い。堀川はいつも彼女にイライラさせられていました。 ところが、ふとしたきっか

【書評】長野の山に潜む恐怖の正体〜『ファントム・ピークス』(北林一光)

これは知る人ぞ知る名作です。作者の北林一光さんは残念ながら2006年にお亡くなりになりました。この『ファントム・ピークス』は宮部みゆきさんが絶賛しています。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ舞台は長野県安曇野。 主人公・三井周平の妻が山で行方不明に。半年後、遠く離れた場所で妻の頭蓋骨が発見されます。 三井は悲しみに暮れながらも、用心深かった妻に一体何があったのかと疑問を抱きます。 数週間後、沢で写真を撮っていた女子大生が行方不明に。捜索を行っていたまさに

【書評】「推しを推す人たち」を解釈する〜『推し、燃ゆ』(宇佐美りん)

これも相当な話題作です。芥川賞受賞作にして、本屋大賞ノミネート作品。21歳の新鋭・宇佐美りんさんによる『推し、燃ゆ』です。今までに読んだことのないタイプの作品でした。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ16歳の山下あかりは、アイドルグループ「まざま座」のメンバーとして活躍している上野真幸を推しています。 推しが発言する言葉は全て書き取り、ファイルに綴じる。CD・DVD・写真集は保存用と観賞用と貸出用として常に3つ買う。放送された番組は録画して何度も見返す……。

【書評】人生の探し物を本が見つけてくれる〜『お探し物は図書室まで』(青山美智子)

2021年の本屋大賞ノミネート作品です。青山美智子さん『お探し物は図書室まで』。これは本好きの方、つまりはこの記事を読んでくださっているような方は必読です。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ仕事や人生に行き詰まりを感じていた、5人の登場人物。 23歳の婦人服販売員、朋香。35歳の家具メーカー経理部勤務、諒。40歳の元雑誌編集者、夏美。30歳のニート、浩弥。65歳、定年退職した正雄。 仕事、転職、結婚、子育て………。5人はそれぞれの悩みを抱え、それぞれのきっ

【書評】哀しくも愛おしき人生の数々〜『心淋し川』(西條奈加)

第164回直木賞受賞作、西條奈加さんの『心淋し川』です。心に沁みまくる小説でした。この作品と『オルタネート』が候補作品として並んだのは面白いなーと思います。さぞかし意見が割れたことでしょう。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ舞台は江戸時代の「心町(うらまち)」。 心町は千駄木町(現在の文京区内)の外れの一角にあり、そこには「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れています。 その川の両脇に建ち並ぶ、古びた長屋に暮らす人々。彼らもまた、「心

【書評】新時代の新しい青春小説~『オルタネート』(加藤シゲアキ)

直木賞候補作品にして本屋大賞ノミネート作品ということで話題を呼んでいる、加藤シゲアキさんの『オルタネート』を読んでみました。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ舞台となるのは東京の私立円明学園高校。 主要登場人物は3人の高校生。 調理部に所属し、「ワンポーション」という料理コンテストに挑む新見蓉(にいみいるる)。 家庭に恵まれなかったために、高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」で運命の相手を求め続ける伴凪津(ばんなづ)。 地元の高校を中退し、円明

【書評】アラサー未婚女子の葛藤と行く末〜『自転しながら公転する』(山本文緒)

恋愛小説の名手として名高い山本文緒さんの『自転しながら公転する』を読みました。本屋大賞ノミネート作品です。ちょっと具合が悪くなるくらいに小説の世界に引き込まれてしまいました。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ東京で働いていた32歳の与野都。 更年期障害になった母親の看病のために実家に戻り、近所のアウトレットモール内のアパレルショップで契約社員として働いています。 母の看病、ショップ内部のゴタゴタ、正社員登用への不安などで心身ともに不安定な毎日。 そんな時

【書評】犬が見届けてきたそれぞれの時代の青春~『犬がいた季節』(伊吹有喜)

『雲を紡ぐ』で知名度が上がった伊吹有喜さんの作品です。『犬がいた季節』。本屋大賞ノミネート作品。私はこの本が今年の本屋大賞だと勝手に予想しています。それくらいにいい小説でした。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ物語は昭和63年から始まります。舞台となるのは三重県四日市市にある八稜高校、通称「八高」。 ある日、捨てられた子犬が八高に迷い込みます。美術部の生徒たちは子犬に部員と同じ「コーシロー」という名前を付け、部室で飼うことにします。 以来、「コーシローの世

【書評】限りある命を必死に生きる~『崩れる脳を抱きしめて』(知念実希人)

知念実希人さんといえば、現役の医師にして小説家、医療ミステリーの名手として名高い方です。この本は勤務校の図書室にあって、ずっと気になっていた本でした。完成度の高い小説でした。 ※書評一覧の目次はこちら 1、内容・あらすじ広島の病院で研修医をしている碓氷蒼馬。上司の指示で、ホスピスも兼ねているという神奈川の「葉山の岬病院」で一ヶ月間の研修をすることになります。 そこで脳腫瘍を患う女性・弓狩環(ゆがりたまき)と出会います。彼女の脳腫瘍はいつ「爆発」するかわからない、時限爆弾