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大河「光る君へ」(33)式部誕生

 超低速台風が抜け、ようやく秋の風といった風情の九月。回らなかった頭が少しはマシになったような気がする。気がするだけかもしれないけど。ともあれパラリンピックも佳境、毎日繰り広げられる熱戦とメダルラッシュにまたも寝不足気味。ガンバレ日本!!!
 そうそう、今年の源氏物語アカデミー(第35回)も母と一緒に参加予定です。かなり魅力的なラインナップなのでご興味ある方は是非。
※「源氏物語を読みたい80代母」のための企画です。最終回までこの形式で続ける所存。思いっきりネタバレ全開なのでご注意くださいまし。
お喋り役の平安女房ズは以下:
右近(右)、侍従(侍)、王命婦(王)、少納言(少)

侍「ねーーーーえええ右ッ近ちゃあああーーーーん!」
右「なあに侍従っちゃあああーーーん!(そう来ると思ってた)」
侍「いやっさーひっさびさにキタねキタ!あの檜扇ひおうぎ!三郎くんとまひろちゃんのボーイミーツガールシーンじゃん!!もう何なのこの大河!キュンでころす気?!」
右「幼いまひろちゃんのお着物までおんなじ柄だったのはキュン通り越して、え怖ってなったけどね私は。アレ絶対帝の評価がどうであれ渡す気満々で作ってたよね道長くん」
侍「やだ右近ちゃん素直になって!!!すっごいラッブラブってことじゃん!!!ヤバくない?!道長くんの心にはまだあの日のままの少年がいるんだよ、ピュアピュアな三郎くんが!」
右「エッちょっと嫌かなそれ」
少「私、鳥が逃げて……の場面がオーバーラップしたところで泣いてしまいましたわ……淡い初恋から紆余曲折あっての今、巡り巡ってはじまりのこのシーンから『若紫』が生まれるということですよね。胸熱ですわ」
王「見事な伏線回収ね。鳥が籠から逃げたことを嘆くまひろちゃんに三郎くんが言った言葉、
『鳥を鳥籠で飼うことが間違いだ。自在に空を飛んでこそ鳥だ』
が時を超えて今の道長くんをも諭した上に、まひろちゃんに対しても
『お前は自由に飛べ(存分に物語を書け)!』
というメッセージになってる。これは中々よね」
侍「デッショー!王命婦さんもそう思うヨネ!俺はお前とのことを何一つ忘れていない、ていう超☆ド級ラブレターよ!!!どんな漢詩よりお歌よりキクわまひろちゃんには!!!」
右「いやそこは別に否定してないし、紛れもなく素敵胸キュンエピソードではあるんだけど、倫子さまや明子さまには絶対に見せない顔と振舞いをしちゃう道長くんがさあなんていうかさあ……ちょいモヤるのよね」
少「ああ、わかります。私もそこは少し、いえ大分気になりました。奥方さまどなたも素晴らしい女性ですのに、道長さまの愛しい人は今も昔もまひろさんだけなんですねえ……」
王「一方まひろちゃんは道長くんより創作優先で、さらに彰子さまが加わった感じ?敦康親王さまへのあの屈託ない笑顔、まひろちゃんが里下がりの御挨拶行ったときの超絶美しい横顔、青が好きと仰ったときの表情、ああこれはまひろちゃんズキュンと来たなって思った」
右「わかる、ききょう(清少納言)さんが中宮定子さま推しになった瞬間とはちょっと違うけど、さすが作家よね。観察っぷりが半端ないわ」
侍「まひろちゃんってよく覚えてるヨネ!公任さまと斉信さまに
『地味でつまらぬ女』
言い返してたのメッチャウケる!打毬の時のボーイズトークだよねアレ」
※「光る君へ(7)おかしきことこそ」より
王「フフ、こういうのであの『雨夜の品定め』エピソードが出来ていったかと思うと感慨深いわね」
少「私ちょっと思ったんですけれど……ききょうさんはただ定子さまのために枕草子を書かれましたよね。でもまひろさんは違う気がします。誰かのためというのではなく、周囲のすべてを貪欲に呑み込んで創作の糧にしてらっしゃる。己の欲というわけでもない、何と言いますか……物語とされることを待っている何かに突き動かされて書いている、そんな感じかと」
侍「まひろちゃん巫女みたいじゃん!そっかー創作の神が降りてくるっていうもんね。道理であの局じゃ書けなかったわけだ雑念多すぎで」
王「上から見た女房さん達の住まい面白かったわね。壁も何もない、仕切られてるだけの局がどういう状態か、映像だと一目瞭然」
右「高貴な女性は奥に隠されてるとはいえ、プライバシーの概念なんて皆無だもん平安宮中。丸見えの丸聞こえ」
侍「あっそれで思い出したんだけどさー右近ちゃん!赤染衛門姐さんが『足をお揉みする』が『夜伽よとぎに召される』の隠語だって言ってたけどホント?!右近ちゃん、ヒカル王子に足揉んでって呼び出されてたことあるヨネ?」
※ひかるのきみ「玉鬘 五
右「(ドキっ)い、いやアレは……本当に足揉んだだけよ?つか、元々ヒカル王子は玉鬘ちゃんのことを聞きたくてたまんないから、私みたいな古女房を呼んだわけで」
少「すぐ近くに紫上もいらっしゃいましたし」
王「何回もお召しがあったのも、玉鬘ちゃん引き取りプロジェクトの話し合いだものね」
侍「うわーん!皆して取り繕うのが余計にアヤシーイ!アタシなんて、ヒカル王子との接点は『末摘花』の常陸宮の姫君がらみしかないのにー!ひっどーい右近ちゃん裏切者おー!」
※ひかるのきみ「末摘花 五」「初音 二
右「そ、そんなこと今更言われても(困惑)」
王「けっこう王子と絡んでるじゃない侍従ちゃん。お歌も代理とはいえ詠んでるし」
少「とりあえず来週も楽しみですわねウフフ(強制終了)」

 はーーーー今週も面白かったですね。まひろの初出仕、どう描かれるかとワクワクしていましたがこれまた予想をはるかに超えていく絵面の上、時代の違いを忘れるほどのリアルさに笑いました。誰が誰かも・右も左もわからない不安、その中で知った顔(赤染衛門)を見つけた時の安堵感、何していいかワカラン所在なさ等々、わかりみが過ぎる。
 さらにしょっぱなから
「お手伝いする」
などと発言して微妙な空気にはなるわ寝坊はするわ、いくらなんでも他の仕事を一切やらないのもいたたまれないと一緒に働いてみれば疲れで夜起きてられないわ……こりゃ「出仕後すぐに里下がり(=史実)」もしますよねうん。映像と相まってすごい説得力ありました。
「紫式部が陰キャで人見知りだから恐れをなして逃げ帰った」
のではなく、
「到底執筆活動できる環境ではないと判断して一旦宮中を去った」
としたのは良かったです。実際こっちのような気がするのよね何となくだけど。公卿の出仕拒否と同じ匂いがする(つまりストライキ的な)。
 この平安リアル感、やはり細部まで拘ったしつらい(セット)が大きいですね。屋根のないセットを作り上から撮影、というのは源氏物語絵巻など「やまと絵」独特の手法「吹抜屋台」(屋根や天井を省略して屋内を描く)にならったそうです。素晴らしい。

 それと今回感心したのは、平維衡たいらのこれひらの人事に関するエピソード。各日記にも書かれていますが、これをわざわざ取り上げた意味は明らか。道長にあのセリフを言わせるためでしょう。
「今は寺や神社すらも武具を蓄え、武力で土地を取り合う世となりつつあるのでございます。加えてこの先、国司となるような者たちが弓矢をもっぱらとするようになれば如何相成りましょうか。やがては朝廷をないがしろにする者が出てまいらぬとも限りません。そうなれば、血で血を洗う世となりましょう。そうならぬように世を導くのが正しき政」
 ラストに出て来た興福寺の「強訴」はまさに「戦乱の世」へ一直線に繋がってます。道長の危機感は当たっている。朝廷も武力を持つべきと意見した隆家も(後に大宰府で活躍します)。

 大河初の「平安時代」、この貴族中心の世もまた後の時代とひと続きである。当たり前といえばそうですが、この些細なエピソードから大きな歴史の流れ・連続性を感じさせる脚本と演出、とんでもなくクールです。これまで様々な時代を扱ってきた「NHK大河」ならではのやり方かもしれない。平維衡という人は伊勢平氏の祖、「平清盛」へと続く線です。道長のセリフはフィクションですがまさしく預言といえますね。
 ところで再び藤壺に戻ってきたまひろは、紛れもなくトップリーダーとなった道長の姿を目の当たりにしてどう思うのだろう。惚れ直す?それともドン引く?この二人の、恋愛という形は未だ否定したいけど、関係がどうなっていくのかはすごく気になります。
 ではではまた来週!
<つづく>

 

「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。