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町の雑音が音楽に

外出すると、Bluetoothの無線イヤホンで音楽かYouTubeかを聴いている人をよく見る。
電車内の若者は、ほぼほぼそうだ。
振り返ってみれば、自分も十代、二十代の時は町歩きの時も電車での通勤の時もいつも音楽を聴いていた。
有線イヤホンで。

それが三十歳を過ぎた頃から変わって来た。
音がうるさくなってきたのだ。
だから音楽を聴くのをやめて、町歩きの時は景色や空を眺めたりするようになったし、電車内では本を読むようになった。

そういった生活を続けて五年か六年経ち、久しぶりに歩きながら音楽を聴いてみようと思ったことがある。
でも、できなかった。
音楽を聴きながらだと、歩くのが怖くなっていた。

車の音や人の足音、そういったものを感じ取れないのが不安で仕方なくなっていた。
信号を渡る時も、(今は青だし、渡っていいんだよな)と変な不安が胸をよぎる。
耳が聞こえない人のための青信号、赤信号を知らせる音が、音楽のせいで聞こえないことから、目で青だとわかっていても何となく違和感を持ってしまったよう。

雑踏のざわめきや通り過ぎる人々の何気ない話し声、もちろん個々の内容はわからないのだけど、そういうのを聞いていた方が自分の性に合うようになっていた。
好きな音楽でも、町の中だと雑音になっていた。
町の雑音の方が、自分にとって心地いい音楽になっていた。

耳が退化したのか、研ぎ澄まされたのか。
老化、とは思いたくないけれど……。

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