見出し画像

1%だけがやっている将棋積読/右玉編

積読が先か?観る将が先か?
それくらい積読も観る将もありふれた光景になった。
しかも明確な共通項がある。
それはどちらも息を吸うレベルに簡単だということだ。
だが1パーセントインテリジェンスリッチがやっている将棋書籍の積読は一味違う。

なかでも「右玉」というニッチな分野では差がつきやすい。
観る将クラスでは、右玉というだけでたじろいでしまいがちだ。
だから、
だからこそ右玉についての積読に研鑽を積むことは大きな意義を持つ。
これを読んで1パーセントだけがやっている積読術を身につけよう。

右玉棋書が希少な訳

右玉とはカウンター戦法の花形だ。
一昔前までカウンター戦法といえば振り飛車だったが、最近の振り飛車は主導権をとりにきやがるので侮れない。
ゴキゲン中飛車とか石田流とかプロレベルでは終わった戦法扱いされていても、アマチュアレベルでは依然としてイニシアティブを握っていやがる。
むしろプロの実戦で指されないため、ゴキ中や石田流への最新対応策が可視化されずアマチュアレベルではすこぶる愉快痛快な戦法になっている。
高校とかのマラソン大会で周回遅れのランナーがやけに楽しそうなのを彷彿させる現象だ。

翻って右玉は、
主導権をとりにいく気がからっきし無い戦法だ。
角換わりでも、矢倉でも、対振り飛車でも、原則として主導権を捨ててなすがままにされる。
盤上のマグロにして、さながら81枡のニートだ。

右玉。

これほどまでに書籍化するのが難しい戦型もない。
なぜなら想定読者たるアマチュアは攻めるのが好きで、大優勢でカタルシスを得ないと満足してくれない生物だからだ。
その点、
右玉は攻めることが出来ず、大優勢に持っていくには相当に高度なココセが必要になる。
だから右玉棋書は希少なのだ。



積読の掟

右玉積読シリーズ

とはいえ右玉棋書を出す勇者もわずかだが確実に存在する。

2024年現在において入手容易な右玉棋書は以下の6冊。

相振り飛車で左玉戦法 居飛車で右玉戦法 小林健二
なんでも右玉          北島忠雄
誰も言わなかった右玉の破り方  神谷広志
変幻自在!現代右玉のすべて   青嶋未来
スリル&ロマン対振り飛車右玉  豊川孝弘
雁木・右玉伝説 


ここで筆者の手元に右玉書籍が全部集結していると気がついた読者はそうとうに筋がいい。
1パーセントの積読はすべてが常に揃っている。
戦力の後出し小出しは兵法の愚といったもので、孫子も逐次投入の愚かさを口を酸っぱくして説いている。
とりわけ将棋書籍は「売れないくせに数だけは多い」ため、すぐに絶版になりがちだ。
わけても「右玉」という泡沫の戦型を扱う棋書はシャボン玉のように気づかないうちにどこかにとんでいってしまう。
だから、
だからこそ全部買っておくことが至上の積読戦略たりえるのだ。



まずは北島忠雄を買え

とはいっても、一般的には財力や保管スペースないし世間体との兼ね合いから全巻積読は難しい。
したがって、
「この中から何か一冊挙げてくれ!!」という怠惰な嘆願が予想される。

何か一冊あげるならばズバリ「なんでも右玉/北島忠雄著」だ。

著者の北島忠雄八段は15年間奨励会で研鑽を積み、29歳でようやくプロ入りした苦労人。
だからこれは問答無用で積まなけれならない。




マンモスは積んでおけ


スリル&ロマン 対振り飛車右玉/豊川孝弘著

ひとめ、ここに目が行きがちだ。
確かに豊川孝弘七段はやけに持て囃されて一時期露出が多かった。
しかしあんなもの普通の業界なら凡百の人だ。
むしろダジャレは忌避される代物であり、蛇蝎扱いされても文句は言えない人材。

書籍の内容も「対振り飛車」に特化した右玉であり「道場でやったら嫌な顔をされる戦型ベスト5」に必ず名を連ねる類の戦型だ。
不意をついているのと舐めているとの境界線上にあって、どうにもお勧めできない。
だいいち対振り飛車の対策は百家争鳴であり、何もすき好んで好感度をだだ下げする右玉なんぞ指さなくともいいだろう。

だからこの、
「スリル&ロマン 対振り飛車右玉/豊川孝弘著」こそ積読しておくべき作品である。

指すことはないが、どんな時にも座右に積んでおく。
これこそ観る将の積読ダンディズム。



オッサンは人を選ぶ

では、
神谷広志八段の「誰も言わなかった右玉の破り方」はどうだろうか?
右玉目線ではなく、右玉に相対する側からの視点であり、これは極めて珍しい。
まず将棋書籍が珍しく、その中でも右玉はさらに珍しく、わけても対右玉は稀有ともいえる。
だからとるものもとりあえず積読してしまいそうだが、ちょっと待って欲しい。
神谷広志八段は、


「愛猫が一週間前に亡くなりまして、相手は強いですがネコニャンのためにもこの一戦負ける訳にはいきません」


とNHK杯の対局前インタビューで落涙しながら語ったうえで、ものの見事に返り討ちに合うほど癖の強い人物。
彼のセンスは人を選びまくる。

まえがきより


これを是と見るなら読んで積むべきだし、非と見るなら黙って積むべきだ。




天に宝を積読け

あと25年もすればデジタル書籍が圧倒的なシェアを誇示し、紙書籍は過去の遺物扱いされる。

だから、
そんな今だからこそ、
紙書籍で積読することに意義がある。
時代の端境期に熱い生を受けた意義。
それに思いを至らせられる貴重な瞬間。
それが将棋書籍、なかんずく右玉の積読なのだ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?