20年前に何があって何が変わったのか?
この20年間にゲーム業界で何が起こり、何が変わったのか?
というキャッチコピーは、公式サイトでの『ファミ通ゲーム白書2024』発売(8月22日)の告知記事のものだ。
紹介記事の中で、業界の変遷から見る『ファミ通ゲーム白書』の20年、という箇所があった。2004年は、ニンテンドーDS、PlayStation Portableが発売され、セガサミーホールディングスが設立されている。
この記事は、当時のことを思い起こすいい機会になった。
インターネット時代の新しいコンテンツビジネス支援を行う行政の取り組みがあった。縁あってこの事業に関わることになった。20年前の話だ。
インターネットが普及して最初にコンテンツビジネスとして成立したのがゲームだった。
行政機関主催のセミナーに参加した5、6社を中心に情報共有や意見交換ができる組織を作ることになった。どこも起業数年ほどで、だいたい社員は20人ぐらいだった。この組織の何でも屋的な、世話人のようなマネージャーをやることになった。
ミーティングは月1回ぐらいのペースで開催された。各社が抱えている問題や課題を話し合った。ビジネス全体に関わるもの、個社レベルのものなど様々な案件があった。こうした案件をできるだけ解決し、メンバーの事業活動支援を行うことで、新しいビジネス成立を促進することを目的とした活動だった。
個社レベルの案件は、コンソールゲーム会社との業務提携の要望が多かった。ゲーム会社とネットワークがあったので、仲介はだいたい実現できた。しかしほとんど成果が出なかった。大手の会社と設立間もない小さな会社との関係構築は難しかった。ゲーム業界に限ったことではないと思うが。
一方、コンソールゲーム会社から逆に相談を受けることもあった。例えば、爆弾(ボム)を使ったパズル&アクションゲームの会社と韓国大手ゲーム会社のサービスしているゲームが類似しているので、先方の担当者を紹介してほしいとか、格闘ゲームで有名な会社からは、自社のMMORPGタイトルを韓国にライセンスアウトしたいので、興味がありそうな会社を紹介してほしいという依頼だ。両案件とも実現したが、前者は企業間の交渉まで進んだ。
あるミーティングのとき、自分たちのビジネスが一般的に知られていないので、資金調達や上場準備に支障をきたしているという発言が相次いだ。そこで行政が市場調査を実施する必要最低限の予算を計上して実現に至った。調査を担当することになったが、終了後結果が公表された。行政機関のデータなので信頼度も高く、問題はほぼ解決した。
別のミーティングのとき、新しいサービスを始めたメンバーから、カプセルトイ自販機のようなガチャをゲームのサービスとして始めたが、法的に問題ないだろうかという相談があった。メンバー全員で議論したが、違法ではないものの弁護士と相談して慎重に行った方がいいという結論になった。後日メンバーも自社タイトルでガチャを採用するようになった。数年後ガチャはガラケーのソーシャルゲームで脚光を浴びることになる。
メンバーの相談にはこういうものもあった。自社のゲームやコミュニティのアバターに、大手出版社の少女コミックのキャラクターを使いたい。交渉したいが、交渉先がわからないという相談だった。出版社には知り合いが多かったので、伝手を頼って交渉をセッティングした。
結果はうまくいかなかった。インターネットでゲームとコミュニケーションを楽しむこともアバターも理解できない、という理由だった。2000年代中ごろの話だ。無理もない。
同じビジネスを行っている会社は、だいたい似たような問題や課題を抱えているので、また新興のビジネスの場合は前例もないので、各社の許容範囲内でメンバー間で解決策を模索した。こうした環境だったので、メンバー同士ビジネス上うまくいった情報は共有した。まず市場を作らないと、自分たちのビジネスが成り立たない、個社で解決しながらやっていくには時間とコストがかかる、という考えが共有されていたのだと思う。そのお陰で各社の売上は伸びた。行政機関の支援は3年だった。その間に数社が上場した。
やがてPCに代わりスマートフォンがメインデバイスになり、数多くの会社がビジネスに参入。2015年以降オンラインゲームビジネスの市場規模は1兆円を超えている。当時のメンバーは、年商500億円の会社になったり、ゲーム事業を分離して誰もが利用しているモバイルメッセージアプリ事業で大成功したりと様々だ。
20年前設立間もない小規模な会社が集まって、新しいゲーム市場形成に向けて試行錯誤していたことは、誰も情報発信しないままゲームの歴史の中に埋もれてしまっている。今の市場のプロトタイプは、設立間もない小さな会社が作ったこと、その中から複数の会社が大企業に成長したことは、関係者のひとりとして書き留めておきたい。
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