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ツッキーと私  (1800字小説)

ツッキーは人の話を聞かない。
いつも うんうんと言って聞いている風だけど、実は全然聞いていない。長い付き合いではないけど、もう彼のことは理解した。
「聞いてる?」と聞くと、とりあえず「聞いてるよ」と答える。
この間も、話をしているけど全くかみ合わない。きっと適当に、あてずっぽうで返事をして、あてずっぽうで会話をしているのだ。こんな調子だ。

私「おはよう」
ツ「どういたしまして」
私「今日は暑いね」
ツ「ほんと、足が筋肉痛だよ。」
私「最近面白い事あった?」
ツ「うん、ちゃんと消毒したよ。」
私「マスクで耳痛くなっちゃった」
ツ「こしょう少々って、こしょう以外でも使うのかな。」

彼は音楽が好きだ。ズンドコ重低音が鳴る音楽が好きみたいだ。そして黒い服ばっかり着ている。部屋は紺色のもので埋め尽くされている。


今日の運勢という新しいアプリが出た。
世界の人口78億人中、今日の運勢が何番目かを教えてくれるアプリだ。
ツッキーの名前とプロフィールを入れて試してみた。
今日のあなたの運勢は、77億9813万5501番目です。
低いな。めちゃくちゃ低いな。これはもう、死ぬんじゃないか。
下から数えて180万番目。意外と下も多いけど、もしかして、毎日世界で180万人ぐらい人が死んでるのだとすると、もうツッキー死ぬんじゃないか?
急にツッキーのことが心配になってきた。
所詮、占いは信じるか信じないかの世界だけど、アドバイスのない占いはただの暴力だ。せめてラッキーアイテムとか、救済措置がないと救いがない。
よく見ると、右下に「ラッキー戦争」と書いてある。
今日のあなたのラッキー戦争は「ボーア戦争」です。
そうか、ボーア戦争がラッキーなんだな。知らんけど。
調べてみた。

Wikipediaより
内陸にあったトランスヴァール共和国は、海を求めてズールー王国方面へ進出しようとした。しかし、この動きを警戒したイギリスはトランスヴァール共和国の併合を宣言し、ボーア人はこれに抵抗して1880年12月16日、ポール・クルーガーを司令官として大英帝国に宣戦を布告。両国は戦争状態へ突入する。

とりあえずこの結果をツッキーに伝えた。
私「というわけだから気を付けてね」
ツ「うん、今日のラッキーポールはクルーガーね」
私「死なないように気を付けて」

よし、とりあえず大事なことは伝えたから、あとはツッキーの問題だ。もう私は知らない。と思って学校に行くと、世界史のテストがあった。

<問題> 1880年、イギリスのトランスヴァール共和国併合宣言に抵抗してボーア人が起こした戦争を何と言いますか。

答えはボーア戦争。よし! 問題が1問しかないから これは100点だ!まさかボーア戦争が出るとは。
しかしこれ問題にヒント出しすぎだな。答えは問題文に書いちゃダメっていうのは不文律だった気がするんだけどな。それを知ってて深読みする人への引っ掛け問題かな。
解答用紙が回収され、先生が採点を始めた。テストはその日のうちに返却された。
1問だけだから返ってくるのも早いな、と思って答案用紙を見ると。

「1点」

あれ、100点じゃないのか。
どうも1点満点のテストだったらしい。

1かゼロなんだな、と思っていたら、
ツッキーの答案が見えた。「0.5点」
部分点があるのか。と思ってよく見てみると

解答欄 1 [ ボーア戦争 ]戦争

となっていた。こういう本質的じゃない減点って無意味だよな、といつも思う。


ラッキー戦争のボーア戦争を覚えたおかげで、私がテストで1点を取ることができた。
ツッキーも、減点はされたけど一応正解してるから、順位は77億9800万よりもっと良くなるだろうか。

返されたテストをカバンに入れ、ツッキーと一緒に学校を出る。
と、校門から道に出た瞬間、ツッキーは走ってきた車に跳ねられ、
3メートルぐらい吹っ飛ばされた。
手足をだらんと垂らしてマンガみたいに。

ツッキーが わら人形のように宙を舞っている瞬間、
一瞬目を閉じると、
140年前の戦争エピソードが走馬灯のように走り抜け、
ツッキーの小さな声が聞こえた。

「言われてもその異議やります」
「?なんの話ですか?」
「じゃがいもとタマネギじゃ牛と馬ぐらい違うよ」
「いや、何でもない。」


急にどこかで見た記憶が蘇った。ツッキーは死なない!
「ツッキー! 世界の死者は1日15万人だ!」

その言葉と同時に、力なく宙に舞っていたツッキーの
死んだような目に、光が戻った。
ツッキーは着地と同時に回転し、見事な受け身を取って、
何事もなかったかのように歩き始めた。


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