透明と爆弾のかけら (2000字小説•ノンフィクション夢小説)
夢を見ました。
僕は高校2年生でした。
高校の制服はブレザーだったはずなのに
僕はなぜか学ランを着ています。
子供が近づいてきました。
何か持っています。
古い爆弾のようです。
不発弾でしょうか。
子供は言います。
「あのおじさんがこれを渡してって。」
僕は爆弾を受け取りました。
僕は彫刻刀を取り出し、
爆弾を削って10個に分けました。
本当は11個に分けたのですが、
1個は削り取る段階で爆発してしまいました。
僕は10個のうち5個を右のポケットに、
4個を左のポケットに入れ、
残った1個を左手で持ちながら、
地面に落ちていたピンセットで
さっきの子供のまつ毛を全部抜こうとしました。
でも子供は嫌がって、走って逃げてしまいました。
僕は逃げる子供に向かって
左手の、爆弾のかけらを投げつけました。
でも子供の逃げ足はとても速かったので
爆弾は子供には当たりませんでした。
爆弾は子供よりもずいぶん手前で爆発しました。
11分の1の威力でも、
ずいぶん地面がえぐれました。
耳鳴りがします。
右の耳だけ耳鳴りがします。
僕は、右の耳の穴に人差し指をつっこみながら、
えぐれた地面の底を見に行きました。
えぐれた地面は、すりばち状になっていて、
底には中くらいの大きさのアリジゴクがいました。
僕はアリジゴクの穴は
本当に落ちたら出られないのかなあと疑問に思い、
わざと穴に落ちてみました。
すると本当に出られませんでした。
僕はみるみるうちに底の、
アリジゴクのところまで滑り落ちて行きました。
もがけばもがくほど落ちて行くので、
僕は観念して、耳に砂が入らないように
左の耳の穴にも人差し指をつっこんで、
ゆっくりと底に落ちて行ったのでした。
アリジゴクは僕に言いました。
「その爆弾と引き換えに命は助けてやるよ。」
僕は右のポケットから爆弾のかけらをひとつ取り出し、
そのやさしいアリジゴクに向かって投げつけました。
爆弾の威力はさっきよりも強く、
アリジゴクはあとかたもなく消えてしまいました。
そしてアリジゴクの穴の底には、
さらにくぼみができていました。
僕はそのくぼみに頭から飛びこみました。
くぼみの下には青空が広がっていました。
落ちても落ちても青空でした。
全然地面にたどり着かないので、
僕は眠くなって、落ちながら寝ました。
しばらくして、僕は目を覚ましました。
僕はまだ落ちています。
だんだん退屈になってきました。
僕は右のポケットから爆弾のかけらを3つ取り出し、
上と右と左と、3方向にそれを放り投げました。
3つの爆弾は、ほぼ同じに爆発しました。
爆発のせいで、僕が落ちつづけていた青空が、壊れました。
壊れた青空の後にあったものは、“白”でした。
何もない白でした。
何もない光景は、とてもきれいでした。
でもふと思いました。
この白は、何もないから白なのか、
それとも「何もない」その上に白があるのか。
僕は何もないところには何があるのか知りたくて、
何かを作るのか何かを壊すのかどちらか分からない爆弾を、
右のポケットから1つ取り出し、
左手で握りつぶしました。
小さな小さな爆発が起こりました。
握りこぶしを開くと、
僕の左の手のひら がなくなっていました。
手の甲はあります。
手のひらはありません。
手のひらがあったところにあったものは、“白”でした。
僕はべつに、手のひらを白に変えたかったわけではないので、
右のポケットから今度は爆弾のかけらを4つ取り出し、
まっすぐ前に、4つまとめて放り投げました。
爆弾は爆発せず、目の前の“白”に吸いこまれていきました。
僕は爆弾をすべて使い果たしました。
あとに残ったのは彫刻刀だけです。
僕はそれで右手の手首を突き刺しました。
白い血が流れ出しました。
白い血は、僕の体を白に染めていきました。
僕は長い時間かけて、
白になりました。
白の世界で白になった僕のあとに1人の人がやってきました。
1人の人は手に透明の花を持っていました。
茎も、葉も、花もみんな透明です。
1人の人は、透明の花を手でこすり始めました。
僕は、透明の向こうに透明があって、
そのまた向こうも透明で、どこまでも透明だったら
いったいどんな色に見えるんだろう、と思いました。
透明の花をこすると、
花のまわりのものが、どんどん透明になって行きました。
透明の向こうが透明だったら、
はじめの透明は透明に見えるのだということが分かりました。
透明の色はこの世では見たことがなかったので
透明の色は透明色です。
ほかに言いようがありません。
白の僕は少しずつ、透明色に染まっていきました。
僕には、
体の全部が透明色に染まると
僕自身が消えてしまうのだということが分かりました。
僕は僕が消えてしまうことの心の準備を1分ほどで済ませ、
体の全部を透明色にゆだねたのでした。
そのあとどうなったのかは分かりません。