『善と悪』 (1000字小説)
≪ゾロアスター教≫
ペルシャの民族宗教を善悪二元論で体系化したもの。
光の神・善神アフラ=マズダと、
暗黒の神・悪神アーリマンの確執から一切を説明。
善神と悪神の優越は3000年ごとに交替し、
12000年後に決定的戦闘(最後の審判)の結果、
ついに善神が勝利して悪神を暗黒の中に追放し、
善き人々の霊魂も救われるとする。
善神の象徴である火を崇拝するところから拝火教とも呼ばれる。
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神の姿は人間には見えない。
が、この世には2人の神がいる。
善神アフラ=マズダと悪神アーリマン、である。
善神は善き人々を守る。
一方、悪神は悪しき人々を守る。
今は悪神優位の時代、である。
ある町に、父ひとり子ひとりの家があった。
小柄な男と、その娘の2人家族である。
娘は病に冒され、瀕死の状態だった。
医者にも手の施しようがなかった。
男は善人であった。
男は祈る。
「神様、お願いです。どうかこの子の命をお救いください・・・」
悪神はそれを見ながら思う。
「こんなやつ、助けようと思えば簡単なんだけど、キリがないんだよな。。
しかもこいつ、善人だし・・・」
男は祈り続ける。
「神様、お願いです。どうか、どうかこの子の命をお救いください。。
私たち親子をお守り下さい・・・。」
しかし、男があまりにも熱心に祈るので、
悪神は、だんだん男のことが気の毒になってきた。
悪神は思った。
「助けてやるか・・・」
その時、空が激しく光り、轟音が響き、大地が揺れた。
悪神が優位に立ってからちょうど3000年が経ち、
善神優位の時代がやってきたのだった。
悪神はたちまち暗黒の闇に押し込められた。
善神は、3000年ぶりの世界を見渡す。すみずみまで。
そして善神は祈る男を見つけた。
男はなお祈りつづけている。
「神様、お願いです。私はもうどうなっても構いません、
私の命なら差し上げます。
どうか、どうかこの子の命だけはお救いください・・・。」
善神は言った。
「その願い、かなえてやろう。」
男にその声が届くや、
「シュトトン!!!!!!!」
という音とともに、男に向かって一筋の稲妻が落ちた。
稲妻が落ちた場所に男の姿は見えない。
黒い影から黒い煙がモクモクと上がっている。
間髪入れず、今度は病気の娘めがけて稲妻が落ちた。
「シュトトン!!!!」
娘の姿は やはり見えず、
こちらは白い影から白い煙が上がっている。
しばらくすると煙は消えた。
白い煙の跡から出てきたのは、娘の元気な姿だった。
娘の病気はもうすっかり治っていた。
そして黒い煙の跡から出てきたのは、
焼け焦げた男の死体だった。
男の体は今なお、祈りの姿勢を保ったままである。
かくして男の願いはかなえられた。
善神は満足そうだ。
善神の時代は これから3000年続く・・・。