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【発見の旅#07】 海外に行って鉄道の原点を探る

私は、海外にも足を伸ばして「鉄道の原点を探る旅」をしてきました。

なぜ「鉄道の原点」にこだわったのか。その旅で何が得られたのか? 今回はそれらについて書きます。

探求の旅を通して「何かを発見する喜び」を感じていただけたら幸いです。


■ 発端は知的好奇心

なぜ「鉄道の原点を探る旅」をしたのか?

それは、「鉄道の原点が知りたかった」。それだけです。

つまり、知的好奇心が発端となり、そのような旅をしてきたのです。

その背景には、職業や経歴も関係しています。私は元技術者で、現在は交通を支える技術を一般向けに翻訳・紹介する仕事をしています。交通のなかでは、とくに鉄道に関する本や記事を多く書いています。

大学や大学院で工学を学んだときは、まず自分が扱う学術分野の「文脈」を把握しろと教えられました。つまり、その分野の研究がいつどこから何を目的として始まり、現在に至ったのか。そして現在世界の研究者がどの部分で競争し、しのぎを削っているか。それらを知らないと、研究を始められないことを学んだのです。

以上の理由があったため、私は独立してフリーランスになったとき、最初にテーマにした鉄道の「文脈」を知ろうとしました。それをしないと、鉄道を語るライターにはなれないと感じたからです。

だから私は、「鉄道の原点を探る旅」に出ました。

■ 日本はどこから鉄道を学んだのか

「日本の鉄道の父」と呼ばれる井上勝氏の銅像。東京駅丸の内口広場にある

この旅を実行するには、海外に出る必要がありました。なぜならば、世界の鉄道史において、日本は他国から鉄道を学んだ国であり、後発国の一つにすぎないからです。

たとえば、「日本の鉄道の父」と呼ばれる井上勝氏は、幕末に若干20歳でイギリスのロンドンに密航留学し、帰国後に鉄道専門官僚となり、日本最初の営業鉄道(新橋・横浜間)の開業に尽力しました。また、イギリスから多くの技術者たちを招き、技術的指導を受けました。

ならば、まずイギリスに行こう。そこに行けば、鉄道の原点がわかるはず。

私はそう考え、渡英しました。

■ 鉄道発祥国・イギリスで探る

イギリスの国立鉄道博物館に展示されている「世界最初の営業鉄道」の車両(レプリカ)

イギリスは、鉄道発祥国とも呼ばれる国です。蒸気機関車を発明し、世界最初の営業鉄道(リバプール・アンド・マンチェスター鉄道)を開業させた国だからです。

それゆえ私は、この国に行けば、「鉄道の原点」にある程度近づけると思っていました。ロンドンにある交通博物館や、ヨークにある国立鉄道博物館など、さまざまな博物館に行けば、何かがわかる。そう期待していました。

結果的には、これらの博物館を通して、鉄道という輸送システムの基礎がイギリスで築かれたことがわかりました。車両や線路の構造や、安全対策としての信号装置、列車の運行管理など、鉄道に不可欠な技術のほとんどがイギリスで実用化され、それが世界の鉄道の標準となった歴史は、疑う余地がありません。

ただし、私が求めていた「鉄道の原点」は、この国では見つけられませんでした。

私が知りたかったのは、鉄道の概念がいつどこでどのようにして生まれたか、です。つまり、車輪の発明から蒸気機関車の発明までに何が起き、鉄道の基礎が築かれたかを知りたかったのです。

もっと具体的に言うと、メソポタミア文明時代に車輪が発明されたあと、レールや、車輪がその上だけを転がるしくみ、そしてレールや車輪を鉄製にすることが、いつどこで考案され、実用化されたのか。その経緯や過程が知りたかったのです。

■ ドイツで出会った原点

そこで私は、イギリス以外の国を訪れ、その謎を探りました。その国とは、日本よりも先に鉄道を導入し、日本の鉄道に大きな影響を与えた3つの国(フランス・ドイツ・アメリカ)です。

その結果、ドイツのある博物館で求めていたものに出会いました。

その博物館とは、ニュルンベルクにあるドイツ最大の鉄道博物館(DB Museum)ではなく、ベルリンにあるドイツ技術博物館でした。

私はDB Museumにも行きました。ただ、ドイツ技術博物館には、そこになかった展示品がありました。

木製のトロッコのレプリカ。ドイツ技術博物館にて撮影

ドイツ技術博物館には、かつて鉱山で使われたトロッコのレプリカが展示されていました。このトロッコは、車体・車輪・レールがすべて木製。車輪には、レールを食い込ませるための凹みとつば(フランジ)があり、レールから脱線しない構造になっていました。しかも、レールは分岐器(分岐点に置く装置)になっており、1本のレールを動かすだけで、トロッコの進路を変えられる構造になっていました。

これだよ! これ!!

私はこの展示を見て、思わず小躍りしました。長らく探し求めていたものに、ようやく出会うことができたからです。

それは、私にとって見覚えがあるトロッコでした。私が小学生のころに親に買ってもらった子ども向け図鑑『鉄道』には、鉱山のトンネル内部でトロッコを鉱夫たちが手で押し、鉱石を運んでいる様子を描いた絵が載っていました。

そのトロッコとそっくりなものが、日本から遠く離れたドイツの地にあったのです。

というより、イラストレーターの方が、ドイツ技術博物館にある展示物の写真を元にして図鑑の絵を描いた、というのが正確でしょう。

ドイツでは、16世紀から鉱山でこのようなトロッコが使われていました。この展示は、その事実を伝えるためのものでした。

なお、このトロッコの真横には、鉄製のレールの上に鉄製の車輪をつけた台車が置かれていました。車輪やレールを木製から鉄製にすることで、より重いものを運べるようになったことを示す展示でした。

レールも車輪も鉄製にした例。ドイツ技術博物館にて撮影

私はこれらの展示を見て、鉄道のざっくりとした文脈を頭のなかでようやく理解できたように感じました。「車輪の発明→レールの発明→車輪とレールの鉄製化→蒸気機関車の発明」というように、これまで空白だった部分を埋めることができたからです。

これは、私にとってとてもワクワクすることであり、鉄道に対する理解を深めるうえできわめて大きなことでした。

■ 興味を持ったものにこだわり、探究する旅は楽しい

みなさんにとっては、今回ご紹介した旅の話が、かなり特殊なものに思えるでしょう。

そもそも鉄道に興味を持ったとしても、その原点を知ろうとする人はまれです。ましてや、鉄道の文脈を知るためのパズルの完成させようとして海外に飛び出し、最後のピースを見つけようとした人なんて、かなりめずらしい存在でしょう。

にもかかわらず、なぜ私が「鉄道の原点を探る旅」をしたのか。なぜそれを探ることにこだわったのか。

それは、冒頭で述べた知的好奇心を持って探り、何かを見つけ出すプロセスがきわめて楽しいものだったからです。

鉄道の原点を探る旅」で得られたのは、それによる喜びです。

このような探求をする楽しさは、学問の楽しさに似ていると私は考えます。なぜならば、楽しさという「ご褒美」が、研究を進める大きな推進力になるからです。少なくとも私は、大学や大学院で研究の楽しさを味わい、それが研究を進める励みになった経験があります。

ぜひみなさんも、何かに興味を持ったら、その知識を掘り下げるための旅に出てみませんか? ひょっとしたら意外な発見をして、物の見方が変わり、人生をより楽しめるようになるかもしれませんよ。


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川辺謙一@交通技術ライター
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