なぜ鉄道ライターがオリンピックの本を書いたのか
こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
もうすぐ🇫🇷フランスのパリで夏季オリンピック(2024年7月26日〜8月11日)が開催されますね。
じつは私、オリンピックに関する本を書いたことがあります。著書の大多数が鉄道に関するものであるため、「鉄道ライター」の一人としてよく扱われますが、鉄道とは縁遠い「スポーツの祭典」に関する著書を出しているのです。
そこで今回は、「なぜ鉄道ライターがオリンピックの本を書いたのか?」と題して、その理由を記します。
◼️きっかけは執筆依頼
まず、結論から言います。私がオリンピックの本を書いたのは、次の4つに関係する本を書いた実績があったからです。
① 東海道新幹線
② 首都高速道路
③ 地下鉄
④ 東京の都市計画
この①②③④は、今から60年前の1964年に東京で開催されたオリンピックと密接な関係があります。①②③の整備や、④は、このオリンピック開会の直前までに急ピッチで進められました。
つまり、私は①②③④に関する本を書くことで、オリンピックと連携して進められた交通インフラ整備や都市改造のことを、それぞれくわしく知っていた。
だから、出版社から「交通インフラ整備や都市改造の観点からオリンピックを語る本を書いてほしい」というご依頼があり、お受けした次第です。
◼️交通インフラ整備と東京改造
その結果世に出た本が『オリンピックと東京改造 ー交通インフラから読み解くー』(光文社新書・2018年)です。
この本の要旨は、次の通りです。
以上をまとめると、次のことが言えます。
これは、当時の日本や東京で起きていた問題と大きく関係しています。
当時は、日本が高度経済成長期を迎え、東京の都市化が急速に進んだのに、交通インフラや東京の都市機能は貧弱なままでした。このため、既存の交通インフラの輸送力が逼迫し、東京では交通渋滞などが頻発し、都市問題がクローズアップされました。だから、オリンピックを「言い訳」にて交通インフラや東京改造を一気に進める必要があったのです。
いっぽう、『オリンピックと東京改造』が出版された2018年9月当時は、2日目の東京オリンピック(2020年開催予定、2021年に延期)が開催される前で、「1964年に起きたような大きな変化が、2020年にも起きるかも?」という期待感が高まっていました。
これに対して『オリンピックと東京改造』では、「2020年には1964年のような変化は起きない」と記しました。日本はすでに成熟期を迎えており、成長期だった1964年ほど、交通インフラの整備や都市改造を進める必要がなかったからです。
当時、東京都の方を取材したところ、東京の都市計画は2020年ではなく、2040年代に向けて進められているという答えが返ってきました。このことは、東京都都市整備局が公開している「都市づくりのグランドデザイン」にも記されています。
◼️大学で講演をすることに
以上述べたことは、日本のマスメディアがほとんど報じて来なかったことです。
このためか、私はある広告代理店の方に声をかけられ、青山学院大学で大学生に向けて「オリンピックと東京改造」と題した講演をしました。
この広告代理店の方によると、「1964年の東京オリンピックに関する本はたくさんあるが、当時のオリンピックと社会との関係を簡潔にまとめたのは、川辺さんの本だけだった」そうです。
◼️貴重な映像作品
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
最後に、みなさまにある映像作品を紹介して終わります。
その映像作品とは、映画『東京オリンピック』(リンク先は日本オリンピック委員会)です。これは、1964年に開催された東京オリンピックの公式記録映画で、翌1965年に国内で公開されました。
この映画は、DVDやBlu-rayとしても販売されているほか、Amazon Prime Videoで有料配信されています(400円、執筆時点)。
私は、4Kにリマスターした映像をAmazon Prime Videoで視聴し、その映像の美しさだけでなく、世界各国のアスリートたちが同じ競技で競い合い、選手村では食事をともにする姿に思わず感動しました。「世界平和って、こういうことなのかなあ」と。
ここで「思わず」と書いたのは、私自身がもともとスポーツ観戦にあまり興味がなく、オリンピックにも無関心で、アスリートの姿に感動した経験がほとんどなかったからです。
ところが、先ほど紹介した本を書くことになり、オリンピック関連の資料を目を通していたときに、この映像作品に出会いました。
パリでオリンピックが開催される前に、ご覧になってはいかがでしょうか。マラソン競技の映像では、60年前の東京の風景を見ることができますよ。