NPSをサービス磨きのPDCAに組み込むための考察~前篇|導入にあたって~
過去、私がB2C(消費者向け)のサブスク事業を担当した際にNPSを導入したことがあります。その経験を書いてみました。
NPSは結構扱いが難しいな、、、関係部署などの協力が必須だな、、、という印象ではあるものの、顧客志向そのものでもある指標としては有用であると今でも思っています。
「顧客志向だ!顧客志向だ!」というけど、売上や利益ばかりを追いかけてしまっている、、、という結果指標しか見れていない状況の方には、あくまでも私が経験したイチ事例に過ぎませんが何かの参考になればこれ嬉しさの極みです。
NPSとはそもそも何か
世の中には自社サービスの顧客満足度を図るための指標が色々とあるのですが、NPSは業績指標との関連性がある指標であり、シンプルな問いで測定可能である点で、実現性が高く納得感ある指標であると考えています。
NPSはベイン・アンド・カンパニーが開発した指標です。
測定方法は上記の問いについての回答の中で
・0~6までの点数:批判者
・7~8までの点数:中立者
・9~10までの点数:推奨者
と腑分けし、(推奨者の割合)-(批判者の割合)=NPS
ということになります。
実感としても知人に勧めるとなると、自分自身がいいサービスだな、と感じてないと難しいですよね。
そして、よく知る人からの推奨であればあるほど、被紹介者はそれを購入しようとする動機が高いことも頷けます。
推奨者割合>批判者割合であればNPSはプラスであり、推奨者の口コミのほうが量的に多い状態が想定されますので、プラス幅(≒NPS)が大きければ大きいほど、口コミを介してサービスが勝手に広まっていく。
その度合いを可視化する指標でもあるのかなと思います。
導入時の状況
ちょうど事業フェーズが成長前期→成長後期に差し掛かり、市場深耕を進めようとしているところで、活用されたのがNPSをサービス磨きの重要指標として定めた頃の話です。
(事業フェーズについての記事はこちらをご参照いただけたら幸いです!)
認知率が一服し、それ以上上がりにくい中でより多くの利用者を引き付けていくためには、利用者の”量的指標”だけでなく、”質に着目したなにか”が必要になっていたのです。
もちろん、属性や、サービス利用量・頻度ごとのセグメントなどは着眼できていましたし、そのセグメントごとのチャーンレート等も見えてはいました。
が、チャーンレートはあくまでも結果指標であって、その指標の変化のシグナルを可視化しないと、打ち手の方向性や効果が見えにくく、、、、、
また、このフェーズになると業務推進は機能分化した専門組織が担うことになるのですが、個別最適に陥ると目標達成のために顧客目線を無視した施策をやってしまうことが度々ありました。
NPSはそういった施策の目線合わせのための羅針盤の意味合いも備えていたと思います。
導入時の仮説
NPSはサービスの推奨度合いなので、それを高めることが良いことは漠然と分かっているものの、いざ導入しても活かしきれず元の木阿弥にならないように、取得方法や活用方法を検討しておく必要がありました。
以下のような口コミ増加ループが回っていれば改善が進んでいる状態と考えました。
大枠の導入イメージはあるもののそのイメージを実現するSTEPを切っていきます。小さく初めて、少しずつ大きい施策化するのがよいです。
STEP1_検証
・検証に足る母数は担保出来るか?
・担当サービスにおいて、NPSとLTVの相関性は見られるか?
・NPSが高い=良い口コミを誘発するか?その回数はどの程度か?
STEP2_モニタリング実装
・定常的にモニタリング出来る運用設計は可能か?
・改善効果をどのように見立てるか?
・どのように改善ポイントを見出し、改善PDCAの体制を作るか?
STEP1_検証結果
▼母数の担保
NPSはアンケートフォームを作成し、ログイン後のお知らせ配信やメールといったマルチチャンネルで回答を依頼したところ、統計優位であろうボリュームを取得することができました。
(逆にいうと、サンプルボリュームが一定ないとNPSは変動がはげしく、定点観測に向きません)
スコアの回答+その理由(体験)+各要素・機能の満足度などをセットで聞いておくことをおすすめします。
▼NPSとLTVの関係
こちらもNPSとLTVは連関性が見られました。
サブスクなので、契約期間が長いほどLTVは高くなりますが、契約期間よりログイン日数といった実際にサービスを利用した日数の多さ(=熱量)との連関性が見えた結果となりました。
またサブスク+アップセルの商品構成ですが、スコアが高いほどアップセル商品の購入も多かった(≒ロイヤリティや依存度が高い)こともわかりました。
※このようにアンケートデータと属性・行動・売上データとくっつけて分析できると色々な視点からの示唆を得ることができます。
▼口コミの回数の違い
推奨者のほうが批判者の3倍近い口コミを発していることがわかり
口コミについても興味深い結果となりました。
※口コミ回数は商材などによっても大きく異なると思いますので、ご自身で担当するサービスの回数を調査することをおすすめします。
STEP2_PDCA
▼定常モニタリング化
あまり頻繁にアンケートを取得し続けると、取得率が下がり母数も下がることが懸念されたため、クオーターごとの取得とモニタリングとしました。
また、途中で取得率が下がったときのことを懸念しインセンティブを配布することも併せて検討しました。
クオーターごとの取得となるとPDCAサイクルとしては遅いため、常時モニタリングするにはより工夫・深化させていく必要があります。
また、競合サービス比較は、ポジショニングを確認する上で有用となり、マクロミルなどの調査パネルを活用することで把握できます。
しかし競合サービス利用者を集めて調査・比較をするサンプル集めにコストがかかるのでお財布と相談しながら検討されると良いかと思います。
▼改善効果の見立て
NPSごとの割合とスコアごとのLTVがわかっていれば、単純化した効果試算は可能です。
詳細は割愛しますが、サービス改善によってNPSが高まればサービスの収益性が高まったことになります。
また、推奨者は口コミ発生回数も多いので、口コミからの集客寄与も考えられます。
登録きっかけで口コミ経路の比率がわかっていれば、こちらも単純化すると
・推奨者の口コミ集客寄与:平均口コミ回数✕口コミ経路比率✕平均LTV
・批判者の口コミ機会損失:平均口コミ回数✕口コミ経路比率✕平均LTV
※批判的口コミを打ち消す推奨者口コミを1対1と単純化
となります。
▼改善ポイントの見出し方
大きくは、以下の2パターンかと思います。
・アンケートの定性コメントをスコア・属性ごとに読み込み・もしくはインタビューし、パターンを把握し、対策を検討する
・NPSと関連性の高い要素を洗い出し対策を検討する
前者は、インタビューを行い、登録から、現在に至る顧客体験ごとの満足度をヒアリングしていくことで、どのような体験が顧客体験を引き上げ(引き下げ)ているのか、の目処をより定性的に掴むことができます。
後者は以下のイメージが一例です。
※機能や、サービス体験などの要素とNPSの関連性を分析していく
まとめ
NPSの概要と、分析イメージをまとめてきました。
NPSは推奨度というわかりやすい考え方であり、更に業績指標との関連性があるため、サービスの体温を測る指標として有用であると今でも思っています。
顧客志向の指標がない場合、持続性のない焼畑的な売上の作り方などが横行してしまう可能性もあり、サービス運営の節度を保つためにもこういった指標は重要と考えています。
しかし、アンケートの取得サイクル、母数の問題等色々と実際の運用課題もあります。
まずは小さく初めて、組織の理解を得ながら、徐々に広げる、高度化していくことが良いと思います。
毎度、本当に尻切れトンボになってしまいお恥ずかしい限りですが
本日まとめきれなかった課題を続編として書いてみようかと思っております。
後篇|運用課題について はこちらからご参照いただけたら幸いです!
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