『マイ・アントニーア』/本・海外文学
このところ連続してそうですが、『文学効能事典』から見つけた本で、「めまいがするとき」で紹介されてて読みました。ハイハイ、またそういうやつ!
いつもそんな効能感じないね……って感想になるけど、今回はなんとなくわかるかも。家、故郷、大地、特別な誰かといった、自分を形作るものを確認することでしっかりと立つみたいなことね。
うーん、言い方が軽い。
・久しぶりに話の筋のある小説を読んだような気がする。すっごいバカみたいな言い方だけど、純文学ってジャンル小説(SFとかファンタジーとかミステリーとか)より、ストーリーの流れというか話の筋としてはあんまりたいしたことが起きない傾向があるじゃないですかー。最近久しぶりに文学っぺえ本を読んでて、ふだんはジャンル小説ばかり読むもんだから、動きが少ないねえ、なんてどうしても思ったりしてね。
その点、本書は結構大きな流れで時間も進むし、展開をわかりやすく感じられてボンクラおじさんにも読みやすかったです。いやあ、楽に感想を書くってこういうことだなあ! ハッハッハ!
・マジでモノを知らずに適当に言うと(いつもそう!)、本作はアメリカ農場ノスタルジア文学ジャンルに属すると思うんだけど、舞台の描写とそれに対する主人公の感性がとにかく美しい。
両親をなくしてネブラスカ州の祖父母のもとで暮らすことになった主人公ジム。汽車で行くんだけど「ネブラスカについて特筆すべきことといえば、一日たってもまだネブラスカだったということだ」(p.5)という、関東圏に住んでる人だと静岡を思い出させる長い旅を経て、祖父母の農場に着く。
(ついでに、こういうのを読んで思うけど、日本国内ですら描写される土地勘がなくてふんわりと想像することが多いけど、アメリカのどこどこ州とか言われて、アメリカの読者は「ああ、はいはい、こういうイメージのこういう場所ね」みたいなのがあるだろうし、読み落としているそういう共通感覚みたいなのってたくさんあるんでしょうね)
祖父母の家に着いた翌日、祖母の菜園に連れて行かれて、もう少し1人でここに残りたいと菜園の真ん中に腰を下ろして、太陽で暖まった黄色いカボチャに寄りかかる。
解説によると、最後の一文「何か完全で偉大なものの中に溶け込むこと、それは幸福そのものだ」。これは著者の墓碑に彫られているらしい。すてきだ。
一気に青春時代の1シーン。これもシンボリックな美しい場面。
たぶん、この本を読んだ大半の人の脳裏に焼き付くシーン。
あと青年期にアントニーアと再会して別れるシーンも美しかった。
太陽と月がわずかな時間、同じ空に浮かんでいる別れのシーン。とてもいい……。
・しかし思うのは、発刊当時なかったんすかね、「アントニーアかリーナか問題」(こっちはジョーク)とか「なんでジムとアントニーア結婚しないの問題」。とくにアントニーアに対しては、もはや恋愛対象として禁欲的とすら言っていいんじゃないか? 少年時代にアントニーアがあまりにチャーリーの世話を焼くのを嫉妬した描写はあったけど、あれは恋愛というか……。
ひとつ思うのは、第二部で描かれている、開拓民の中にある国内から来たもの/国外から来たものの断裂のこと。あまり露骨な描写ではなかったけど、この両者の結びつきって思ったより忌避されてて、彼女らと仲の良かったジムも結婚の対象とは考えにくかったのかあ、とか。ただ、たんにそれこそ露骨な描写がなかっただけで、楽しく恋愛していたのをこっちが読めてないだけかもしれない。
あと、一応さっき引用した別れのシーンで、ジムがこう言ってたりはする。
ちょっと学術的に素振りの練習をしとくと、ラカンやジジェクの男女論から言えることがあるかもしれない。「君はぼくの一部」という言葉と矛盾してしまうが、むしろジムは他人でいっぱいなのではと思うのだ。
ジムが大学で勉強していたときに、自分が学者になれないだろうということをこんなふうに表現している箇所がある。
これは語り手としての透明さもあると思うけど、それを脇にのけて男女間のことを考えるときにこのようにも思える。
ジジェク的な主体とは空っぽの跡みたいなもので、なんというか考えさせられる。
そもそも、本文の語り手はジムなんだけど、「序文の語り手=物語内の著者=同郷の古い友人はいったい誰なの問題」にもこのへんは関わるのかもしれない……? ここを読むとこの人は女性らしい。著者自身でもいいし、ジムという語り手も、もうひとりの著者自身と言えるかもしれないし……。
ただ、このへん、解釈も難しいし、自伝的な書き方とか、創作上の人称のこととか、ついでに著者のウィラ・ギャザーが生涯独身でとおしたこともあって、男女論なんていろいろとややこしいのでここでブツ切れでやめておく! オッケーグーグル、ここですべて終わらせてくれ!
・ちなみに学術ごっこだと以下も。あ、オッケーグーグル、もうちょっとだけ語らせて!
リーナからジムに対しての言葉。
これぞまさにザ・欲望! という気がする。「アントニーアのせいかしら」も、「あなたに対して、浮ついたことをしては駄目」も、「随分長い間、あなたに構わなかったでしょ?」も。
この時のリーナ自身もまた、向かいの部屋のポーランド人とリーナの住居の家主から求愛されていて、不思議な4角関係になっていたりして(このくだりのエピソードも面白かった)。まあ、ジムがリーナに夢中になるのも無理はない気がする。
・まあ、そんな感じで? 美しく、淡い思いと、我が家と故郷の大切さを味わうのにとてもいい本でした。「めまいがするとき」に読むといいよ!
自分は久しぶりにまとまらない長文(大半が引用文)をどわーっと書いて、まさにいま、めまいがしてるので、とりあえず寝ます!