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夏の終わり 月の思い出

夏の甲子園が水曜で終わる。
私は明日から仕事が始まる。
待ち遠しく楽しみにしていた夏のお休みは、あっという間に今日で最後。

上京して20年になるが、帰省のお土産を考えるのはいつも楽しい。
① 親に食べてほしいもの
② 自分も食べたいもの
③ 自分が食べたいもの
今回は①〜③をクリアしつつ、「④ 親も好きなもの」を選んだ。

菓匠三全


私が日本一好きなお土産。
単純に、味と食感が好きだ。
類似品を様々な地域で見かけるが、萩の月の美味しさには到底敵わない。
やはり、元祖は強し。

けれど一体、どうしてこんなに好きなのか、いつからこんなに好きなのか、ふと考えてみた。
と、その瞬間、和風な色柄の包装紙にくるまれ、赤い紙紐が掛けられた箱の姿が脳裏にパッと浮かんだ。包装紙の匂いまで蘇る。
その箱を持っている手は、父の手だ。
私が幼い頃、父は出張のお土産として萩の月をよく買って来てくれた。
きっと最初は、仙台土産の定番として買ったのだろうけど、私が初めて食べたとき、それを甚く気に入った様子が印象に残ったのだろう。
近くへ行く度に、買って来てくれていたんだと思う。

萩の月


父は頑固で無愛想だが、なんだかんだ言って、優しい。
無愛想と言うとネガティブに聞こえるが、誰にも媚びない強い人だ。
そういう幼い頃の嬉しい記憶と、父の優しさが相まって、私はこの銘菓を、いつの間にか特別視するようになっていたのかもしれない。

美味しいねと頬張った、家族4人での穏やかな時間。
もう二度とないであろうその時間。
そんな、忘れていた記憶の扉がふと開き、萩の月を取り寄せるに至った。



母が「懐かしいね」と喜んで食べてくれたのは嬉しかった。
あまり積極的には菓子を食べない(ようにしている)父も、何度かおやつ時間に食べてくれた。
父がよくお土産に買って来てくれていた思い出話を、母とすることも出来た。
その当時は「チョコ味の方が好きだった」と言う妹のお陰で、「チョコ味あったね〜!」と盛り上がり、カスタード味とチョコレート味のセットの映像も蘇った。

萩の調

チョコ派だった妹は、久しぶりに食べたカスタード味に対して「やっと美味しさが分かるようになった」と、パクパク食べてくれた。
食欲不振ぎみだった姪っ子は、人生初の萩の月を気に入り、こちらもパクパク食べてくれた。



東京へ戻る日。
私は一つだけ萩の月を持ち帰った。
これを食べたら、私の夏休みは終わる。
帰省してみんなで過ごし、笑い合った夏が終わる。
そんな気がして、東京に戻って以降、直ぐには食べたいと思えなかった。
それを今日、食べた。
いつ食べても美味しい、大好きなお菓子。
実家に残してきた萩の月を親が食べ切るとき、同じような…感傷的な気持ちになんてならずに、なんならもう食べ飽きたなくらいの気持ちで食べ終えてほしい。

涙が出てしまうのは、寂しいから?自分が情けないから?
東京の部屋から見上げる空は狭く、星も月も見えない。
それでもこの空は繋がっている。
もう少し、もう少しどうか、元気なままで、生きてほしい。
これはただの、勝手な私の自己中心的な願いだけれど、
生きといて良かったなと思ってもらえるものを返せたら…
結局それに救われるのは、それに報われる自分なのだろうけど。

こうやって、帰省のお土産を考える楽しみが、あと何年続いてくれるだろうか。
時間をもっと、大切にせねば。

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