見出し画像

楽天主義者は、我々が考えられるかぎり最良の世界に住んでいると考え、悲観主義者はそれが本当であることを恐れる。


タイトルの出典は、アメリカの作家で系図作製者でもあるジェイムズ・ブランチ・キャベルの著書より(でも引用元はハインラインのウロボロス・サークル)

先日、図書館が利用者の「貸し出し履歴」を保存して利用者本人に提供するサービスが広がりつつある‥‥というニュースを読みました。
今はまだ規約に同意が必要だったりするものの、「ずっと前に借りた本の書名を知りたい」場合などに便利なサービスだとして広まりつつあるようです。
一方で、公共図書館が警察などの捜査機関に利用者の情報を提供していたケースが明らかになり、こちらのほうは問題視されています。

じつは図書館は「利用者の秘密を守るためには履歴は保存しない」という立場で、従来は返却後に貸し出し履歴を消去する図書館が過半数を占めてきました。
消去する理由は、どんな本を読んだかという履歴は、利用者の思想や興味や嗜好などを赤裸々にものがたる個人的な情報だからです。
図書館の憲法(といわれている)日本図書館協会の「図書館の自由宣言」には「利用者の読書事実を外部に漏らさない」と明記されています。
では何故そんな宣言がなされているのか?
それは、誰かが思想を管理しようなどとすれば、たちまち『図書館戦争』の世界になってしまうからです。

『図書館戦争』(としょかんせんそう)シリーズは、有川浩の小説。

1988年、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制するための「メディア良化法」が制定される。法の施行に伴い、メディアへの監視権を持つメディア良化委員会が発足し、不適切とされたあらゆる創作物は、その執行機関である良化特務機関(メディア良化隊)による検閲を受けていた。この執行が妨害される際には、武力制圧も行われるという行き過ぎた内容であり、情報が制限され自由が侵されつつあるなか、弾圧に対抗した存在が図書館だった。

Wikipedia「図書館戦争」より引用

この小説はマンガ化もアニメ化もされたし、実写映画にもなったので、知らないひとのほうが少ないのでは?

ハインラインの著書はメディア良化委員会の目のかたきにされる確率が高そうですよね。物議をかもした作品もいろいろあるわけだし。
冗談じゃない!そんなことになったら、わたしは断固として戦います!!

戦う理由はそれだけではありません。
ここで『図書館戦争』が出たことで、この件はもっと別の管理監視社会の構築を目的としているのが明白な『あの制度』を連想させませんか?
法律家ネットワークが「デジタル監視法」と呼んで反対している、国民の情報を番号で管理しようというアレ
です
あれとこれが完全に無関係だとは、私にはちょっと考えられないのですけどね。


「なんだろうとスマホがあればすべて解決」だとか、「便利なほうがいいじゃん」と短絡的に考えられるなら、図書館の貸し出し履歴もマイナンバー制度も、大差ないと思うのかもしれません。
残念ながら、わたしはそこまで楽観的ではいられません。
マイナンバー制度の導入は、役所の手続きが一元化されて便利になるだけの話じゃないのです。
これが日本の個人情報保護の規制を今よりさらに弱め、全ての国民を監視する社会がつくられる危険性がある制度だということは最初から指摘されています。

マイナンバー・カードは明らかに、個人情報保護という時代の求めに逆行している。
政府が人々に身分証を持たせるため、コロナ危機を利用したことは倫理的にも許されない。人々の鼻先に10万円をぶら下げ、感染の危険を冒させてまでカードの普及率を上げ、電子認証の大実験をしたわけだ(この政権が「火事場泥棒」なのは、検察庁法改正案や緊急事態条項改憲案だけではない)。 
ここまで自分たちの都合を優先させる政府の、コロナ対策全般への不信がわく。 
私に言わせれば、各国政府が迅速にやれたことをなぜ日本政府ができなかったのかは、手段の問題ではない。困っている人を助けようという気持ちが薄いから、税金は住民(主権者)が払ったもので、住民が必要なことに使わねばならないという意識が欠落しているからだ。

【マイナンバーで大混乱 国民管理を優先する政府が繰り返す失敗】
©️ 小笠原みどりの「データと監視と私」より引用

“政府はマイナンバー制度導入により、情報を「一元管理」するようなことは一切ありません。 情報の管理に当たっては、今まで各機関で管理していた個人情報は引き続きその機関が管理し、必要な情報を必要な時だけやりとりする「分散管理」という仕組みを採用しています”などと言って国民を煙にまき、事態の本質から意識を逸らそうと画策しています。
デジタル庁創設の本当の狙いはマイナンバーカードを国民全員に持たせて、『個人番号でひも付けした膨大な個人情報を政府がすべて掌握する』ことにあるのだとしか思えないのですが。

大体、役所へ行かなくてもいろんな手続きがネットで簡単にできるようになるということは、裏を返せば、これまでは各機関や自治体レベルでそれぞれに保存していた膨大な個人情報を、ネットから引き出す手段さえあれば誰でも好きに閲覧したり申請が可能になるということですよね?
それを可能にするために、現在は各自治体が独自に採用している情報システムを全国で統一するのが狙いなんじゃないのかと言われています。

マイナンバーカードには口座が紐つけられ、キャッシュレス決済の情報も紐つけ可能です。
なるほど「給付金」や「支援金」の申請は、口座情報から保険や税金の支払い状況まで把握可能であれば、遅滞なく支払われることでしょう。
そのかわり、クレジットカード決済やキャッシュレス決済の履歴も、「管理者として閲覧可能な権限」さえあれば、特定の人物がいつどこで何を買い、何にどのくらい費用をかけているのか、さながら通販サイトの購入履歴レベルで把握可能になるのでは?
口座やキャッシュレス決済を紐つける本当の目的は、国民の利便性以上に政府にとって都合がいい「何かの目的」のためなのではありませんか?

そう考える根拠は、マイナンバー制度の開始当初、全口座の紐つけを義務化しようとしていたことが話題になったからです。
実際にはあれは、引っ越しなどで「放置されたままの休眠口座」まですべて紐つけする労力と費用の問題でボツになりました。
が、この件のポイントはそこではなく、実際に口座を管理している銀行レベルでは無駄が多く、無理難題だとわかりきっていたそれを、では「誰が、何を目的に、全口座の紐つけを義務化させようとしたのか?」という部分です。

最近増えてきたオンライン通帳なら、何もしなくても振り込みや支払い状況が記録されていきます。キャッシュレス決済は言わずもがなです。
見切り発車的に普及を急がせたキャッシュレス決済にしろ、オンライン通帳にしろ、こうなってくると単体で判断するわけにはいきません。
ひょっとして‥‥最初から「それらもすべて活用する」目的で、あれもこれもマイナンバーに紐つけて把握し、管理しようと考えているのでは?

ビッグデータを政府が収集する目的は、それを都合よく利用するためでしょう。
マイナンバーに紐つけられたデータを、国民に無断で利用したい警察関係や、政府と癒着関係にある特定の企業と共有する可能性も疑えます。
前政権からつづく数々の不正やごまかしの横行が露見した今、政府による国民の個人情報の無断利用や悪用を疑うなというほうが無理なはなしです。

マイナンバーカードで便利になる、そうするためにあれもこれも紐付けるというのは、ざっくり言うとそういう事態をまねくことになるのでは?
利便性と引き換えに、われわれのどんな情報を、どのくらい、誰に売り渡すことになるのか、よくよく考えてみるべきだとわたしは思うのです。


たしかに「情報は引きつづき各機関で分散管理」というのは嘘ではないでしょう。
手間とお金をかけて新たにシステムを導入しなくても、現状のシステムを少し変更して名称を変えてそのまま利用すればいいのですから。
問題はこの『現状のシステムを少し変更』という部分です。
これまで各機関や自治体で分散していたシステムを統括して、政府が国民の情報を一手に握るための制度がマイナンバー制度なのでは?

わたしは何もやみくもに制度じたいに異をとなえているわけではありません。
マイナンバーと口座を紐つけるのはいいでしょう。ただし、政府が国民全員に持たせたがっているマイナンバーカードのシステムは別です。

マイナンバーカード自体はいろんなことに利用が可能で、カードに搭載されたICチップに個人情報を蓄積できる仕組みです。
だから保険証として利用できたり、スマホに取りこんでとか、運転免許証もアリにするか?なんてことまでやれるのです。
マイナンバーカードに各種個人情報を紐付けて、マイナポータルサイトで『あなたの個人情報はあなた自身で管理できますよ』と、利便性やメリットばかりを大声で宣伝されるほど、わたしの猜疑心はつのります。

だって彼らは言わないのです。
もしもカードとパスワードを一緒に紛失したら、他人が成りすまして、閲覧・利用される恐れがあるなんてことは口が裂けても言いません。
それっておかしくないですか?少なくとも正直なやり方だとは思えません。

今だって警察が(任意で)図書館から特定の個人の情報を入手しているわけです。
マイナンバー制度で政府が国民の個人情報を管理するようになれば、「上のほうで話をつけて」何者かが管理者用マイナンバーカードとパスワードを入手して、こっそり個人情報を閲覧するような可能性だって考えられなくはないのでは?


こうなると、やはり見切り発車で普及を無理やり急がせたキャッシュレス決済も、オンライン通帳も、いずれは現金払いを阻止してすべて政府の管理下におくのが目的なんじゃないかと疑いたくなってきます。

ひとつひとつのシステムはどれも便利だし、デジタル化も推進すべきです。
がしかし、それらをピラミッドの頂点で最終的に政府が管理するどんな理由と必然性があるでしょうか?
いまだFAXを使っているような低いリテラシーと、高齢のベテラン議員が中枢を占めるような老いた政府が、マイナンバー制度のようなシステムを本当にきちんと管理運営できたり、国民の個人情報を狙うハッカーや、悪用をもくろむ者たちから守り通せるのでしょうか?

売ればお金になる他人の個人情報なら、モラルの低下が甚だしい政治家や政府機関、警察官や役所の人々のなかにだって、それを不正利用したり売買しようと考える者も出てくるかもしれません。
個人情報流出によるストーカー被害や金銭トラブルなど、マイナンバーカードによるメリット以上のデメリットを国民が被る可能性は高く、政府にそれを阻止できる可能性は低い、と、わたしは思います。


日本は世界の人々が羨むほど安全で、自由で便利で暮らしやすく、日本人は考えられるかぎり最良の世界に住んでいる‥‥と、われわれは政府やメディアの「宣伝」によって思いこまされているのではないでしょうか?
比較の対象にミャンマーや香港を持ちだすひともいるけれど、でもそれ、何か違いませんか?

5年に1度の国際意識調査で【子どもを生み育てやすい国と思うか?】の質問に、日本は「そう思う」が38%、「そう思わない」が61%という結果が出たそうです。
おなじ質問に回答したの他の3つの国では、「そう思う」がドイツ77%、フランス82%、スウェーデン97%でした。

われわれ日本人は、考えられるかぎり最良の世界に住んでいると、本当にそう思いますか?
わたしにはそうは思えないのですが‥‥。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?