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書評 「戦争広告代理店」  高木徹

 多民族国家の旧ユーゴスラビア連邦で、チトー大統領亡き後1991年に民族独立の機運が高まり、スロベニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの各共和国が独立、セルビア共和国とモンテネグロ共和国が新ユーゴスラビア連邦となった。
 1992年春、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国と新ユーゴスラビア連邦の間に戦火が開かれる、モスレム人、クロアチア人、セルビア人の三大民族が入り混じるボスニア紛争だ。
 軍事力で劣るボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の戦略は、「力のある西側先進国を主体とした国際社会をこの紛争に巻き込み、味方につけること」イゼトベゴビッチ大統領がシライジッチ外相に下した命令は「一つでも多くの国を訪問し、一人でも多くの首脳と話して彼らを説得してきてほしい」だった。
 ボスニア・ヘルツェゴヴィナの規模は2013年時点で、GDP179億ドル(島根県と同じ規模)・人口300万人・東ヨーロッパの小さな国。ボスニア紛争に国際社会を巻き込み味方につけるのは容易いことでない。ヨーロッパ各国から回り始めたシライジッチ外相が最終的にたどり着いたのは、PR企業だった。・PR企業のクライアントには国家や政府・政党・企業・等ある、クライアントにPR戦略の専門家が付いて依頼を解決してゆく。この本は、ボスニア紛争でPR企業がいかに活動してどのような影響が国際社会へ反映したのか書いたものです。
 ビジネスとしてのPR企業(PRプロフェッショナル)の実態は、今回のような著書を読まないと知ることはできない。逆の視点から見るとPR企業が何をしているか、人々に知られると成り立たないビジネスモデルだから、彼らのしていることは誰にも知られてはならない秘密の世界といえる。
 フェークニュース、政治家への罠、世論を味方につける(世論誘導?)、様々な機関への効率的ロビー活動などで効果があれば、PRビジネス成功になる。
 彼らは現在も、日本含め世界で活動しているだろう、しかし彼らのリアルタイムでの活動の実態は、霧の先に隠れて私たちには見通せない、映画「マトリクス」の世界のようだ。此の事の善悪は分からない。
  本に書かれている行間から感じたことは。ボスニア紛争でのキーパーソンは、メディア・政治家・世論の三つある。そして西欧社会ではこの三つがしっかり機能していることだった。
 西欧メディアには、公平性・独立性・中立性の基本理念が当たり前のように機能している。記者は気に入らなければさっさと別の会社に移ってしまう、政治家の圧力に屈する会社トップは現場の記者からつるし上げを受けてトップのポジションが危うくなる。
 政治家は?、アメリカ国務省ベーカー長官がシライジッチ外相にアドバイスしたことは「アメリカ政府を味方につけたければ、米国世論を動かせ。世論を味方につけたければ、メディアを動かせ」だった。
 世論は、自分のことでなくとも人権・人道・不公平に敏感。弊害と思われることに気づけば抵抗する。
 PR企業には、「倫理協議委員会」がある、イラクがクウェートに侵攻したときイラク兵の残虐行為を告発した「ナイラ」ちゃんやらせ事件があったが、これを起こしたPR企業は信用を無くした。「金の為なら真偽を問わずどんなことでもする奴ら。」と思われたらいけないということがビジネスの歯止めになっている。 メディア・政治家・世論にも玉石混交で忖度も利益誘導もあるだろう、しかし。なにか歯止めがあれば暴走は止まる。    
 西欧社会のメディア・政治家・世論には彼らが基本の部分で守っている、倫理観・ルールがあるようだ。この基本部分で逸脱なければ、紆余曲折あろうと少しずつでも、良い方向へ向かう進歩が期待できる。
 日本ではどうだろう、メディアに公平性・独立性・中立性の基本が確立されていない、具体例を挙げると切がない。PR企業は最新情報を「ボスニアファックス通信」として、2・3日、あるいは毎日配信した。送付先は、メディア・有力議員・官僚・国連各国代表部・自然保護団体・NGO他、世論形成に有力なあらゆる場所。送付先リストに、アメリカはもちろん、イギリス・フランス・ドイツ・中東などのメディアがはいっているが、日本主要メディアの名前は一つもない、PR企業の眼中に入っていない。政治家は?、「一つでも多くの国を訪問し、一人でも多くの首脳と話して彼らを説得してきてほしい」と命を受けたシライジッチ外相が日本に来たことは、本の中に出て来ない、来日していればどのような会談だったのか興味あるが、来日していない可能性がある。国内世論調査でも、日本国民の政治への信頼は低い。世論は?、選挙に行かない、世界の議会選挙投票率 国別ランキング146位が日本、低い国の上位です。
 ようするに西欧がより良い社会にしようと大人の国づくりをしているのに対して、日本はまだ子供の国レベルでいる。私たちはルールを守らないで右往左往する、子供なのだ。
 誰でも気づいている基本部分でダメなのだから、この基本部分から改善すれば日本もまた進歩・成長する国に戻ることを期待できる。
 今回の本によるPR企業による活動は、旧ユーゴスラビアでの紛争が終結して過去のことになり、当事者たちのインタビュー取材が実現したことにより、その活動の一部を私たちも知ることができるようになった。それだけでも価値のあることだと思います。

 

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