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休めないは本当か

メンタルヘルス不調に陥ってしまった人と話をする中で、すでに日常生活に支障をきたし、仕事においても本来の職務を全うできていない状態の方に対して、休業を勧めても、「休めない」と断固として休むという選択ができない人がいる。また、休業するほどではなくても、業務負荷が高く、心身への影響を自覚している状態の方の中にも、短期的な休業や、負荷の軽減を相談することを提案しても、それを受け入れない方もいる。
今回は、体調が悪化してもブレーキをかけることができない人への対応について考えたい。

心身に影響がある状態は、誰よりも本人が一番つらい状態のはずである。それでも休めない、相談したくないと考えるのはなぜだろうか。その理由を尋ねると、「まだ大丈夫」「迷惑をかけたくない」「自分の評価に悪影響がある」があがることが多い。時には、「今休むと首になる」「生活が困窮する」とこたえる方もいる。
では、実際にどうだろうか。「まだ、大丈夫」という場合、何をもって「まだ」なのだろうか。メンタルヘルス不調は、最悪の場合、命にもかかわる場合もあるし、仕事をしたくても仕事ができない、朝起きられず日常生活がまともに送れない、という状態になる。そして、症状が進行すればするほど、自分自身の客観的な状態を把握するのが難しくなる特徴がある。ご自身で客観的で明確な基準がなければ、休まない理由がありそうで、ない状態といえるだろう。また、「迷惑をかけたくない」「自分の評価に影響がある」という場合、その職場を管理する上司から見るとどうだろうか。心身に問題が生じている状態で、職務上の安全や、仕事のパフォーマンスに支障があるリスクをある中で、それを職場に共有せず勤務を続けることほうが、職務管理上の問題になるのではないだろうか。もし、職務に支障を来る可能性がある問題が生じたら速やかに共有し、打つべき対応を講じることのほうが、職場として助かるし、評価につながるのではないだろうか。
さらに、企業の規模や会社の制度にもよるが、一定規模以上の会社で働いている場合、休職制度等があるので、体調不良ですぐに退職になることはあまり多くない。また、たとえ退職になったとしても、働き続けることで体調を崩している状態であれば、それほど遠くないタイミングで勤務を続けられなくなる可能性もあるし、退職しても傷病手当金や退職金、失業保険等で所得補償を受けられるので、長期的に考えて、今の仕事にしがみつくことが、生活を守ることにつながらないこともある。

このように、視点を変えたり、具体的に掘り下げて考えていくと、体調が悪くなっても、「休めない」ということはあまりない。
ただ、当事者としては、今しか見えないし、今の延長線上の未来しか見えていないことが多い。だからこそ、支援する側の方には、具体的に、そして、客観的な指標で今の状態を共有し、一緒に将来のことを考える姿勢で臨んでいただきたい。


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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」

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