「ハイジャック機を撃ち落とす!?」新科目公共から学ぶ探究のトビラ(4)
人間社会では,必ず意見や考え方が対立します。解のない問題や課題が現代社会では増え続け,これからはコミュニケーションを通じた共に納得できる解を見いだす姿勢や態度がますます求められます。中高社会科教員経験のある大学教員です。生徒や学生たちとの授業実践,互いの根拠や意味を問い合う対話による探究活動を紹介します。諸学校での授業活用はもちろん,理解しやすい身近な題材にしていますから,友人同士や家族団らんで語り合ってみてはいかがでしょうか。
ハイジャック機撃墜法とは?
2005年9月のドイツでは,ハイジャックされた航空機に対して,空軍が撃墜することを認める航空安全法(第14条3項)が成立しました。なんの罪もない乗客・乗員が搭乗している航空機を撃ち落としてしまう法律とは,どんなものなのでしょうか?
背景にはアメリカ同時多発テロ事件
2001年9月11日,テロ組織によりハイジャックされた航空機が,ニューヨークのワールドトレードセンター(WTC:ツインタワー)やペンタゴン(国防総省本庁舎)などに相次いで激突(自爆テロ)し,多数の死傷者を出すと世界が震撼しました。いわゆる,9.11事件です。
ドイツのトラウマ「セスナ機ハイジャック」
2003年1月,ドイツではセスナ(軽飛行)機が乗っ取られると,フランクフルト中心部へ向かい,大騒ぎになります。空軍戦闘機がスクランブル発進することになりましたが,大事には至りませんでした。9.11事件を想起したドイツ国民は少なくなかったでしょう。その後,航空安全法は成立します。
ドイツ連邦憲法裁判所は違憲判断
乗っ取られたハイジャック機の撃墜を認める航空安全法は,多くの批判にさらされます。結果,ドイツ連邦憲法裁判所は,2006年2月に「生命への権利」の尊重に抵触するとして,違憲の判断を下します。成立から1年足らずです。
【参考文献:「現代テロ対策のガバナンス」,中林啓修,Keio SFC journal Vol.9,No.2】
「最大多数の最大幸福」⁉
ベンサム(イギリス)は「最大多数の最大幸福」と表し,人々の幸福の総量を最大にするべきと主張しました。航空機が高層ビルに突っ込めば,多数の命が救われます。それを防げば,幸福の総量は大きくなると言ってよいでしょう。
しかし,何の罪のない人々の命を奪うことは許されるのでしょうか。誰かを助けるために,誰かの命を犠牲にしていいのでしょうか。命を選択,選別するような権利は,私たち誰にも認められていないとも言えそうです。
みなさんは,どう考えますか?
探究とは…
①自分で課題を見いだす
②解のない問いと向き合う
③人としての在り方生き方を追究する
④他者と共に望ましい社会形成に参画する