見出し画像

「小学生柔道全国大会廃止⁉」新科目公共で学ぶ探究のトビラ(6)

人間社会では,必ず意見や考え方が対立します。解のない問題や課題が現代社会では増え続け,これからはコミュニケーションを通じた共に納得できる解を見いだす姿勢や態度がますます求められます。中高社会科教員経験のある大学教員です。生徒や学生たちとの授業実践,互いの根拠や意味を問い合う対話による探究活動を紹介します。諸学校での授業活用はもちろん,理解しやすい身近な題材にしていますから,友人同士や家族団らんで語り合ってみてはいかがでしょうか。

※キャッチアイ映像=全日本柔道連盟様より

小学生の柔道全国大会を廃止する!?

 全日本柔道連盟は,毎年夏に開催していた全国小学生学年別大会を2022年から廃止するとしました。理事会での報告後,2022年3月14日付で都道府県連盟へ通知されました。全国大会は5,6年生を対象に,男女別で重量級と軽量級の2階級に分けて実施されていたとのこと。なぜ,廃止へ至ったのかを考えていきましょう。

廃止賛成論には?

 大会廃止を推進した見方・考え方にはどんなものがあるのか,整理してみました。①子供への無理な体重増量・減量要求 ②過度の体重差などを原因とする頭部損傷などの重大事故の増加 ③安全な受け身を阻害する危険な組み手の指導 ④保護者や指導者の審判への罵声 などの意見が目立ちました。いずれも勝利至上主義の弊害という指摘が多く,子供ではなく,大人だけが固執する勝利至上主義に見えてくるかもしれません。

廃止反対論は?

 大会廃止を反対する見方・考え方にはどんなものがあるのでしょうか。「指導者,保護者という大人の問題であるのに,小学生から成長の機会を奪ってよいのか」「柔道だけに限ったことではない」などの指摘が見られますが,賛成論と比較すると,意見の集約が簡単ではありませんでした。

他競技の専門家には廃止支持者が多い

 元ラグビー日本代表の平尾剛氏は,「成長途上にある児童(小学生)に,勝利だけを追求する競い合いには,ほとんど価値がない」「自信喪失から競技継続を断念する子供が出ており,脱落者を生む構造になっている」と評しています。

 元陸上競技選手の為末大氏は,「そのスポーツが弱くなるから」「すべての子供がスポーツを楽しめないから」「競技を超えた学びが得られないから」の3点を挙げています。

同じ武道の剣道は?

 柔道と並ぶ日本の代表的武道には剣道があります。剣道では,全日本剣道連盟が主催する全国道場少年剣道大会が開催されています。現在でも小学生男子個人戦,小学生女子個人戦が実施されており,決勝戦の映像からは,静粛な雰囲気の中での小学生同士の真剣勝負が見て取れます。

 反対の声はなかなか見当たらず,剣道における小学校全国大会開催の弊害はあまりなさそうです。同じ武道でこれだけ異なるのは,注目に値しますので,柔道での個人戦再開のカギもここにあるかもしれないですね。

大人としての責務

 この課題は,子供ではなく,大人が真剣に対峙するべきものであると言ってよいでしょう。一番勝ちたいのは,子供ではなく,大人であるという指摘は,柔道試合会場の雰囲気からも感じ取れます。この点が肯定され続ければ,個人戦の復活は難しいかもしれません。

 柔道だけでなく,子供が取り組むスポーツの目的は,心身の健全な育成であり,これは否定されるものではありません。柔道全国大会の団体戦はチーム一丸となって闘う意義を重視して継続することになっているようです。ここでの子供たちの健全育成を期待したいものです。

探究とは…
①自分で課題を見いだす
 ②解のない問いと向き合う
③人としての在り方生き方を追究する
④他者と共に望ましい社会形成に参画する


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集