「ワクチン,途上国へ配分する!?」新科目公共から学ぶ探究のトビラ(5)
人間社会では,必ず意見や考え方が対立します。解のない問題や課題が現代社会では増え続け,これからはコミュニケーションを通じた共に納得できる解を見いだす姿勢や態度がますます求められます。中高社会科教員経験のある大学教員です。生徒や学生たちとの授業実践,互いの根拠や意味を問い合う対話による探究活動を紹介します。諸学校での授業活用はもちろん,理解しやすい身近な題材にしていますから,友人同士や家族団らんで語り合ってみてはいかがでしょうか。
ワクチン格差とは?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック宣言の発出は2020年3月でした。以降,ファイザー社やモデルナ社などが開発したワクチンの接種が始まり,感染拡大の波を繰り返しながら,ウイルスの抑え込みに世界中が奔走しています。
先進諸国では,ワクチン接種が進んでいるにもかかわらず,発展途上国では,いまだ接種が進んでいない国や地域があります。この課題をワクチン格差と呼んでいます。
ワクチン格差が15倍⁉
日本ユニセフによると(2021年10月時点),G20諸国(先進国・新興国からなる20か国)と特にアフリカ諸国間のワクチン格差の深刻化が明らかになりました。G20諸国に届いたワクチンを国民1人換算すると,サハラ以南のアフリカ諸国とは15倍,低所得国とも15倍の開きがあると示されました。
日本と他国では⁉
3回目接種が進む日本とアフリカのエチオピアのワクチン格差は大きく,エチオピアは日本の18分の1になっているとのことです。%換算では,日本の5.5%にしかないことになります。(同,日本ユニセフより)
ブースター接種とは⁉
ブースターは増幅というような意味があります。ワクチン効果は時間と共に減少することがわかっているので,効果の持続を目的に,いわゆる,3回目接種が行われています。ブースター接種と呼んでいます。ブースター接種は,副反応などを危惧する見方も広がり,接種率の停滞要因になっているとも言われています。
大阪市でワクチン廃棄
大阪市は,使用期限を迎えるワクチン(モデルナ製)約8万回分を廃棄すると発表しました。3回目接種が進まなかったことや府内自治体の供給不足もなかったため,別の活用方法を見いだせなかったとのことでした。
発展途上国への供給を優先する⁉
WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は,世界的な格差が著しく不公平である指摘しています。人類全体の利益(人類益)を考えると途上国への供給を優先するべきでしょう。しかし,先進諸国も経済活動を停滞させるわけにもいかず,国の利益(国益)を考えると途上国への供給が後回しになることになります。
人類益優先?国益優先?
大阪市のワクチンを少しでもアフリカ諸国に回せなかったかと,どうしても考えてしまいますね。ワクチン格差は解決しなければならない課題です。発展途上国をも含む人類益を優先するべきか?まずは,自国をしっかりとする国益を優先するべきか?みなさんは,どう考えますか?
探究とは…
①自分で課題を見いだす
②解のない問いと向き合う
③人としての在り方生き方を追究する
④他者と共に望ましい社会形成に参画する