「ユニクロ事業一時停止するべき!?」新科目公共で学ぶ探究のトビラ(2)
人間社会では,必ず意見や考え方が対立します。解のない問題や課題が現代社会では増え続け,これからはコミュニケーションを通じた共に納得できる解を見いだす姿勢や態度がますます求められます。中高社会科教員経験のある大学教員です。生徒や学生たちとの授業実践,互いの根拠や意味を問い合う対話による探究活動を紹介します。諸学校での授業活用はもちろん,理解しやすい身近な題材にしていますから,友人同士や家族団らんで語り合ってみてはいかがでしょうか。
ロシアのユニクロ,事業一時停止する!?
ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリングは,2022年3月10日,ロシアにおける事業を一時停止することを決定しました。ロシア国内には50店舗を有していますが,全店舗を対象として,オンラインストアでの販売も停止するとのことです。
ロシアによるウクライナ侵攻(2月24日開始)に対して,欧米企業を中心に撤退の動きが強まっていましたし,同業種のZARAやH&M,日本のトヨタ自動車やソニーも早々に撤退していた中で,ユニクロの対応は後手にまわった感がありました。
事実上の生活必需品の販売停止をどう見るか?
ファーストリテイリング会長兼社長柳井正氏は,「戦争は絶対にいけない。だからあらゆる国が反対しないといけない。」とウクライナ侵攻を非難しています。しかし,「衣料品は生活の必需品です。ロシアの人々にも同様に生活する権利がある。」(2022年3月7日付 日本経済新聞)と自論を展開しました。ロシアでの事業継続の方針が採られたことになります。
これをどう見るべきでしょうか。日本国憲法では第25条に生存権を規定しており,「すべての国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」としています。これをそのままロシア国民にあてはめることはできませんが,仮に「国民」を「人々」に読み替えると,柳井氏の主張にも一理ありそうに見えてきます。
ユニクロ事業継続方針に批判殺到!
柳井発言公表から3日目で,ファーストリテイリングは方針転換を発表します。ロシアでの事業停止です。SNSを中心に,柳井批判が殺到しました。「暴挙に及んだロシアでの商売を継続するなどあり得ない。」「二度とユニクロやGUの服は着ません」など様々な声があがります。
国内に留まらず,ウクライナ外務省は「ロシアで事業を継続する世界のトップ50ブラント」の一つとして,企業ロゴを掲載したとのことです。予想以上の大きな反発が生じて,方針転換を促したと言えそうです。
ユニクロを多面的・多角的に俯瞰してみる
ファーストリテイリングは,ウクライナ支援として1000万ドル(約11億5000万円)と毛布やインナー,防寒着など約20万点の提供を発表しています(3月4日)。これはプラス面として捉えてよいのでしょうが,批判殺到でかき消された感があります。
一方,市場経済という経済システムに着目すると,マイナス面が見えてきます。ユニクロの事業継続決定の背景に,ロシア市場の重要性を無視できないという見方・考え方がありました。世界のカジュアル衣料市場では,ZARA(スペイン),H&M(スウェーデン),次ぐ第3位に成長したファーストリテイリング。
しかし,欧州での拡大に苦しんでいたファーストリテイリングは,欧州各国に比べてロシアでの店舗数は最大となっていたため,ロシア展開が欧州進出のカギになっていたと見たのでしょうか。それにより,事業停止の選択を排除したのかもしれません。企業は利益を最大化するものではありますが,同時にCSR(企業の社会的責任)が伴うことを忘れてはいけません。
事業停止を即決した他企業は?
トヨタ自動車株式会社は,「私たちが何よりも優先していることは,すべての従業員,販売スタッフ,仕入先の皆様の安心と安全です。」として,工場稼働を停止しました(3月4日)。ソニーはテレビ,オーディオ機器などのロシアへの製品出荷停止,映画,ゲームを含めてのソニーグループ全体でのロシア事業を停止しました(3月10日)。
企業のロシア事業撤退の背景とウクライナ
ロシア事業を展開する企業の撤退の動きが加速しているようです。侵攻開始当初は武力行使に対する反対や人権侵害への抗議などを理由とした撤退が目立っていたようです。
しかし,月日の経過で諸国の経済制裁による効果が表れると,物流や供給網(サプライチェーン)が寸断され,ロシアでの事業自体が大きなリスクを抱えるようになってきました。これがロシア事業撤退の加速要因となったのでしょうが,ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の継続が続く限り,ウクライナ国民の人命,人権を最優先にした対応が一番,大切であることは言うまでもなく,忘れたくないですね。
探究とは…
①自分で課題を見いだす
②解のない問いと向き合う
③人としての在り方生き方を追究する
④他者と共に望ましい社会形成に参画する