「名古屋城天守閣にエレベーターは必要!?」新科目公共から学ぶ探究のトビラ(3)
人間社会では,必ず意見や考え方が対立します。解のない問題や課題が現代社会では増え続け,これからはコミュニケーションを通じた共に納得できる解を見いだす姿勢や態度がますます求められます。中高社会科教員経験のある大学教員です。生徒や学生たちとの授業実践,互いの根拠や意味を問い合う対話による探究活動を紹介します。諸学校での授業活用はもちろん,理解しやすい身近な題材にしていますから,友人同士や家族団らんで語り合ってみてはいかがでしょうか。
名古屋城とは?
金の鯱(しゃち)で有名な名古屋城は,徳川家康の命を受けた豊臣恩顧の(注:ひいきにする)諸大名による「天下普請(注:大衆の労役従事)」によって築城されたものです。1612年(慶長17)には天守閣を完成させ,1930年(昭和5)には城郭としての国宝第一号に指定されています。
天守閣復元事業
名古屋城は,1945年(昭和20)の空襲によって天守閣をはじめとする多くを焼失してしまいました。しかし,名古屋のシンボルとして愛されてきた名古屋城の天守閣は,市民の多大な寄附により,1959年(昭和34),鉄骨鉄筋コンクリート造りで再建を果します。
60年を経過した現在では,老朽化と耐震性への対応が必要になりますが,名古屋城関連史料は実測図など豊富に残されており,史実に忠実な復元が可能とされています。名古屋市では本質的価値をより広く発信しようと,天守閣の木造による復元を決定し,往時のまま再現する計画を進めています。
名古屋市河村市長のエレベーター不設置正式表明
名古屋市河村たかし市長は,2018年(令和元)5月30日,木造の新天守にはエレベーターを設置しないと正式に表明します。その理由については,「歴史的建造物の復元とは,史料に基づいて同じものを造っていく行為である」としているためです。
障害者団体は市を批判
愛知県内の障害者団体で構成される「愛知障害フォーラム」は,河村市長の正式表明に先立ち,同年5月16日,エレベーター設置の訴える声明を発表しました。市の不設置方針は「一方的で,弱い立場の意見を無視した人権侵害,差別だ」と批判しているのです。
世論の反応は?
Yahoo!ニュースの「みんなの意見」では,2017年(平成29)11月21日(火)~12月1日(金)に「復元名古屋城,エレベーターを設置すべき?」をテーマにアンケート調査を実施しています。10,488人が投票しており,「設置する必要はない」が68.4%(7,179票),「設置すべき」が31.6%(3309票)となっています。
復元事業の進捗状況と今後
名古屋城公式WEBサイトでは,天守閣復元事業の進捗状況が公開されています。しかし,なかなか分かりやすい資料が見当たらなかったので,名古屋市に問い合わせをしてみました。丁寧な説明を頂戴いたしましたので,整理してみます。
「構造上,どうしてもビルにあるようなエレベーターを設置するスペースを確保することが難しいです。ですので,最新の技術を利用するなどして,通常のエレベーターに代わるものの設置を模索しています。
2022年4月1日からは,その技術などを公募して,何らかの形で皆様のご要望にお応えしたいと考えております。」(名古屋市観光文化交流局名古屋城総合事務所 電話によるインタビュー 2022年3月31日)現代社会の最新技術を結集して,すべての人々が天守閣の観覧を楽しめることを望みたいですね。
探究とは…
①自分で課題を見いだす
②解のない問いと向き合う
③人としての在り方生き方を追究する
④他者と共に望ましい社会形成に参画する