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部下に協力してもらえるリーダーになるには?

上司は部下をほめなければいけない?

子どもはほめて育てよう、とよく耳にします。
大人も同じで、ほめて喜ばない人はいないから、人間関係を円滑にするには、ほめるのも大事な要素ですよ、ということを見聞きしていました。
ゆえに、私は若いころから、「同僚や部下は、ほめた方がいいんだろうなぁ」という、漠然とした思いを持っていました。

さて、40代を迎え、管理職になり、部下ができた頃。
管理職になったばかりの研修で、山本五十六元帥の言葉が紹介されました。

 やってみせ 言って聞かせて させてみて
 誉めてやらなば 人は動かじ
 話し合い 耳を傾け 承認し
 任せてやらねば 人は育たず
 やっている 姿を感謝で見守って
 信頼せねば 人は実らず

私はこの研修を受けて、「そうか、上司は部下をほめることは大切なことなんだな」と思いました。それと同時に、「上司は部下をほめなければいけないのか?」という疑問も湧いてきました。

かつて、「私はほめると伸びるタイプです」と口癖のように言う同僚がいました。たしかに、よく仕事ができる人でしたし、ほめられるとやる気が湧くという好循環を生み出しているように見えました。
逆に、ほめてもらわない時は「何か僕、悪かったかな?」と私に訊ねてくることもありました。「いや、そんなこと無いと思うよ」と言いつつ、「それを僕に聞いてもわからんよ」と内心思っていました。

彼は「ほめられるかどうか」を気にしすぎなのではないか、と。
彼の行動を見て「上司の顔色をうかがって仕事をするのは息苦しいなぁ」と感じたことを思い出します。

かくいう私も、上司からほめてもらうと嬉しくなってモチベーションが上がる時があります。しかし同時に、「気を遣われているのではないか」と気になる自分も出てきます。私が人をほめるとき、基本的には本心からほめますが、相手が喜ぶかな?と思いながら言葉を選ぶこともあります。
いわゆる忖度、お世辞の類です。

私がほめる時に思うことは、相手も思っているのではないだろうか。
悪意は無いけれど、ほめた相手を自分の都合の良い方向に操作したい気持ちもあるのではないか。
そういうことを考えてしまう自分もいます。

「お前はお人よしだから、人がほめたことを真に受けちゃダメだよ」
という両親の言葉も影響しているかもしれません。
このように、ほめることについては、自分の答えが見いだせないまま40代半ばを迎えたのでした。

さて、どうしたものか…と思っていた頃に、書店で偶然手にした本が
「ほめるのをやめよう リーダーシップの誤解」でした。

カリスマはいらない!?

背表紙を見ただけで「おっ、これは何か新たな発見がありそうだ」と感じたのですが、アドラー心理学の名著「嫌われる勇気」を書かれた岸見一郎先生の本であることを知り、新たな発見の予感が確信に変わったのでした。

「ほめるのをやめよう」をパラパラとめくってみて、とても自分のやり方に合いそうだというのが第一印象でした。
目次にも次のような印象的な言葉が並んでいました。

・カリスマはいらない
・叱るのをやめよう
・ほめるのをやめよう
・部下を勇気づけよう
・部下を尊敬、信頼しよう
・リーダーのあり方について

この本は、第一部が「日経トップリーダー」に寄稿されていた岸見先生の連載、第二部が岸見先生の講演内容です。

私はこれまでの社会人生活の中で、どちらかと言えば年齢や職歴で上下関係が厳しい関係より、フラットな関係が良いと考えてきた人間です。
また、カリスマ的リーダーよりも、皆の意見を聴き、協力して仕事を進める調整型のリーダーが合っていると感じていました。
「私が働きながら考えてきたことに近いなぁ」と共感しつつ、引き込まれるようにページをめくっていきました。

部下に協力してもらえるリーダーになるには

私がこの本で最も感銘を受けた部分はどこですか?という質問を受けたとしたら…
私が管理職になって以来ずっと抱えている根本的な疑問である、「部下に協力してもらえるリーダーになるには」というテーマを挙げるでしょう。
本書では、このテーマで章立てされているわけではありませんが、第一部の前半で複数講にわたって、明快に解説されています。
概要を整理すると、次のようになります。

◇部下に協力してもらえるリーダーになるには?
「尊敬されること」
 
・尊敬されるために必要な4つの要素
 1. 仕事の知識があること(能力)
 2. 仕事を教えられること(説明力)
 3. 上司が部下を尊敬できること(器の大きさ)
 4. 働き手としてのモデルであること(正直さ)

・尊敬されるリーダーは、部下を自分と対等と考えている。
 対等であれば、叱らない、ほめない。
 正しければ、正しいと言う。
 間違っていれば、間違っていると言う。
 敬意をもって、言う。
 部下がしてくれたことに感謝する。

「尊敬」という言葉を見て、自分のこれまでの考えに照らしてみました。
私は、上司と部下という関係は「役割」だと考えています。これまで、私は部下に対して、年上であれ年下であれ、敬意をもって接し、意見を求めながら、協力してくれたことに感謝して仕事を進めることに重きをおいてきました。

これが岸見先生のおっしゃる「尊敬」「対等」という答えの解なのかどうかはわかりませんが、自分にとって納得感のある解説でした。

「分かる」と「できる」は違う

「今までやってきたことは間違ってなかった」と安堵感を得ながら読み進めた第3部の締めくくりの場面。
「(自分が本書と)同じことをやっている、という人は分かっていないことが多い」という戒めが記されていました。
思わず、「アイタタ…」とつぶやいてしまいました。

一方で、岸見先生は「おわりに」にこう記されています。
「まず、頭でわかってください。その上で、できるところから少しずつ始めてください。」

読み終えた今、私は「理解した」つもりでいます。
頭で理解していても、実践できているかどうかは別の話です。
「できる」状態まで持っていくのは「私の課題」です。

岸見先生の丁寧な語り口で、リーダー像をわかりやすく解説されている本なのに、繰り返し読んでもまだ、何か新たな発見がある、深い一冊です。
働きながら何度も読み返す、座右の書がまた一冊増えました。

まずは、ほめるのをやめよう。


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