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無職男と時給870円女子の起業物語【第8話:順調は不調の始まり】

あらすじ:2014年六本木に夫婦で脱毛サロンIbiza Waxを開業。資金繰りに四苦八苦するも1年で3店舗出店、通販事業の立ち上げに成功。妻が妊娠しプライベートも六本木へ引っ越し。生活が変わっていく。


起業して1年3ヶ月。月末に足し算、引き算をするとお金が残る。会社が軌道に乗ってきたのだ。
前回も書いたが杉並区6万円のアパートから六本木34万円のマンションに引っ越した。すぐ会社に行けるようになり更に仕事に打ち込んだ。

麻美も無事に出産を終え男の子が生まれた。僕らは毎月30万ずつ給料を取ることにして、ずっと滞納していた年金や健康保険を支払い肩の荷がドサッと降りて負い目も消えた。

不備だらけだった従業員の社保やら有給やら労務を整え、年末には少額ながらボーナスも支給できた。

スタッフとのミーティング。みんな素敵な子たち!

これで小さいながらも会社を経営している!と胸を張れる気がした。

六本木、新宿、渋谷と3店舗になったIbiza Waxは口コミ集めを継続し信頼度が上がったようでメディアにも取り上げられるようになった。年末にあるダウンタウンの笑ってはいけないの罰ゲームとして呼ばれたのは良い思い出だ。

山崎邦正さんに鼻毛ワックスをする麻美。産後10日であった。


そして、特筆すべきは新規事業の単品リピート通販の成長だ。
(商品はこちらに詳しく書いてある:【第6話:飛び道具の開発方法】

右も左も分からず無名の化粧品が売れるのかね?と半信半疑どころか1信9疑だったが、紹介で知り合った広告代理店K君の勧めでアフィリエイト会社に商品を登録すると衝撃が走った。

夜に帰宅後、ふとメールを確認すると名古屋の女性から注文が入っているのだ。

「麻美!!やばいやばい!!注文入ったよ!売上が立った!」

「うそ?!なんで?それ実在する人?!」

サロンの方には架空の人が予約を入れて無断キャンセルをする嫌がらせが続いていたので麻美は疑心暗鬼になっていた。

僕はすぐさま注文者の電話番号をFacebookに打ち込むと名古屋在住の人物が出てきた。(当時FB内で電話番号やメールアドレスを検索するとアカウントを持っている人が出た)

うぉおおおおお!!本物の注文だ!!

手を取り合って歓喜する2人。Windows95から早20年。2015年になってようやくIT革命が僕らの身にも届いたと思った。

リアル店舗を運営している人は心底理解してくれると思うが、誰にも気を使わず24時間オープンしてくれて接客スタッフも光熱費も家賃もほぼ不要。日本中の人から注文が来るなんてミラクルなのだ。

翌日、家庭用プリンターで商品説明を印刷して、レターパックに商品を入れて送った。記念すべき第1号の発送。

4970円の商品をこのように送っていた。ひどい。

ポスト投函して完了。手離れの良さが半端ない。これがEC通販なのか!

初月は広告費が嵩み赤字となったが真剣に取り組めば利益が出せると読んだ。

なぜなら今ではサブスクD2Cという名で大手企業から賢い若者まで参入してオシャレな商品だらけだが、当時は雑居ビルの1室でコソコソとコンプレックス商品をネットで販売している輩だらけだった。
しかも調べると1人社長で年商数億から10億円なんて会社もザラ。全く聞いたことも見たこともない化粧品やサプリなのに。

 容器デザインも自分たちでイラストレーターで作った。

もしやウチのような小さい会社にもチャンスがあるのでは?と思ってやってみると完全に僕の性分に向いていた。
化粧品の成分は全く覚えられないくせに通販のノウハウは苦もなく入ってくる。

当時買ったEC通販系の本の一部。(左下の「わが妄想」は違う。めちゃおもろいけど)

自分で広告を作って回してみると、勘のいい僕は気がついた。
これ美容業界じゃないわ、エンタメ業界だわ、と。
いかに人の心に粘着しザワザワさせ財布を開かせてクレジットカードを抜いてもらい丁寧に個人情報を打ち込んでもらうかの勝負なのだ。

こえぇえーーー。ハードルたけぇーーー。

と思いつつも要所で力のかけどころが肌感でわかる。天職みーつけた!と思い、広告代理店のK君と二人三脚で頑張っているとすぐに1日20件ほど注文が入るようになった。

1日50件程度までは自分で出荷していた。

月の売上はサロンと合わせて1000万円を超え、翌月には1200万、その翌月には1500万、毎月20%増のペースで売上が増えていく。

これぞIT革命。
まさにIT革命の寵児がここに誕生した。
西のザッカーバーグに対し、東のカツオバーグ。

以下は実話だ。
ある日アフィリエイト会社から有力なランキングサイトに掲載したいとの連絡があった。ただし1位掲載した場合は成果報酬が高額なので2,3位で交渉します!という。

僕は、すかさず答えた。

「ダメだよ!これはドミノ倒しと同じなんだ。1サイトでも離れれば後はバタバタと倒れてしまう。どこのサイトを見てもウチの商品が1位であることが大切なんだ。いくらでも良い。1位死守だ!」

週末に見た映画ソーシャルネットワーク(Facebook創業期の話)でザッカーバーグ役のセリフを丸パクリした。なんなら喋り方も真似たと思う。

売上はうなぎのぼり。

実は起業する前も、した後も、くっそ金が無くて辛い時もずっと僕をバカにする声は聞こえていた。
「また奥さんに働かせてヒモやってるよ」「すぐ潰れるでしょ」「どうせ離婚するよ」「あいつら下品な商売してるよ」

下品で上等だ。俺のこと清廉潔白の聖人君子とでも思ってんのか?
泥水すすってでも成り上がってやる。最大のリベンジは俺らが成功することなのだ。お前はその場から動かず俺を一生ディスってろ。

半分は被害者意識、半分は六本木に馴染みたい気持ちで僕らはブランド品を買い漁るようになった。

センスの良い僕は六本木ヒルズのルイヴィトンに入り店員を呼んだ。

「すみません、ルイヴィトンって書いてないけど10m先からでも僕がルイヴィトンを持ってるって分かる商品ください」

同じことをグッチでもサンローランでもやった。

麻美はもう少しセンスがありバーニーズニューヨークやエストネーションで爆買いをした。

そしていよいよ。
3ヶ月連続で月の利益が400万円を超えた。このペースだと年間5000万円の経常利益になる。借金もゼロ。僕達は完全に自由だった。

満が持した。この時をずっと待っていた。自分に課していた3ヶ月連続利益400万越えの目標。

恩人経営者と起業する前に際に交わした言葉があった。

「お前、目指すところは分かってるよな?」

「え、どこですか?」

「いやいや、お前が追い出された東京アメリカンクラブだよ!あそこにカツオが再び入会するまでは俺も自分事レベルでアドバイスするから」

「いやいやいや、無理無理!あそこハードル高すぎますって!!」

「いやカツオならいけるよ。見とけって」

何言ってんだ?と思っていたが、いよいよ本当に実現できる利益になってきたのだ。
僕は恩人経営者と話していた裏目標を初めて麻美に伝えた。

「前の結婚でヒモだった頃の話でさ。麻布に東京アメリカンクラブという会員制施設があって。そこに家族メンバーとして入れてもらってたの。華やかな世界でさ、いる人も最高。でも離婚と同時に退会させられたのね(当たり前だけど)。
それに気づかずクラブに行くと、いつも笑顔で挨拶してくれる受付の方に止められて「ご用件は?」って。VIPもいるクラブだからね。さすがのセキュリティだったわ。
そこの入会費が返金なしの380万。ここにどうしても入りたい。

子供もできて車を買いたいところだったがココに真っ先に使うべきだと思った。

麻美は「どんな所か全くわからないけど、勝雄がそんな大金払ってまで入りたい場所なんて珍しいね」と言いつつも理解してくれた。

六本木在住、ブランド物を着飾り、高級会員制クラブのメンバー。その3ヶ月後には中古のBMW5シリーズを買った。

会員制クラブに車で乗りつける僕

言いたいことはわかる。視座が低くないか?たかだか売上数億、利益数千万程度で騒ぐなよと。けど僕らが目指していたのは王様じゃない。山賊なのだ。
僕らにとっては十分夢のような生活だ。当然馬鹿にしていた奴等の目に届くよう、いちいちSNSにアップした。

恩人経営者からは「やめとけって。お前の気持ちはわかるけど、人の気持ち逆撫でして敵作っても良いことなんてないぞ。もっと上手くやれよ」

頭では理解しつつも自己顕示欲と承認欲求が暴走して抑えられなかった。

毎朝ゴリゴリのヒップホップを聞いてポケットに突っ込んだ右手は中指を立てていた。
どうだ?見たか!やってやったぜ!かましてやったんだ!

そんな完全に悦に入っていた時。

信頼していたスタッフが辞めていき、近所に僕らとそっくりな店舗をオープンさせた。

分厚い封筒が裁判所から届いて開けてみると、前妻からの訴状だった。

広告代理店のK君が化粧品通販のノウハウについてやけに質問をしてきたなと思ったら、、、、

思ったより早く訪れた不穏な動き。

順調オブ順調な日々に不調のサイレンが鳴り響いた。

次回、絶体絶命のピンチ到来。


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ホームレスになったヒモ男、世界一周したら小金持ちになった話。

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無職男と時給870円女子の起業物語
【第1話:火傷しない商売のルール】
【第2話:スパイ大作戦と砦の確認】
【第3話:半径1mの資金調達】
【第4話:六本木No.1戦略】
【第5話:洗面器に顔を突っ込む】
【第6話:飛び道具の開発方法】
【第7話:無鉄砲な当てずっぽう】
【第8話:順調は不調の始まり】
【第9話:1億円を燃やして得た教訓】
【最終話:最高のマーケティング、そして売却へ】


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