無職男と時給870円女子の起業物語【第5話:洗面器に顔を突っ込む】
あらすじ:六本木俳優座ビル908号室にIbiza Waxを開店するも真夏の繁忙期なのに閑古鳥が泣きまくる。しかし口コミを集めることに集中すると冬には目標売上100万円を達成。
麻美は現場、カツオは裏方で様々な策で集客を試みる。
例えばこんなバナーを広告に出すも反応ゼロ。商売にダジャレは効かない。
年末年始も元旦だけ休み、店を開け続けた。理由はもちろん他店が閉めていたからだ。おこぼれ作戦は続けていた。
正月三が日からVIO脱毛する人なんているかね?と話していたが旅行前の女子から駆け込みで予約が入った。
とはいえ年始は緩い客足。麻美と会議を重ねる。
閑散期の10月、11月は売上80万程度と続き12月売上107万円。
自分たちの給料は取れないが損益分岐点が約58万円なので12月は月の利益が約49万円。今までの赤字があるも出血は止まった。安堵したのは言うまでもない。
立替分の経費を一気に精算できるほどではないが、生活費も無いので麻美とそれぞれ10万円を精算。初めての給料みたいで嬉しかった。
因みに、そのお金で麻美は売上目標達成の記念に5万円もするブランド品のメガネを買った。
お金がなくて毎日ランチは小諸そば。当時月見そば310円、かけそば240円に40円で卵トッピングした方が合計30円も安くなる小諸ハックを見つけて喜んでいた僕らなのに、高額なメガネを購入していてドン引きした。
ただ今となっては僕の10万円は何に消えたかも覚えてないが、麻美は記念メガネを9年も掛け続け、見る度に当時の苦労を思い出すので良い買い物だったと思う。
どうする?この調子で売上120万とか目指していけば利益60万だよ?2人で20万以下で生活をしているのだ。そんな儲かった日には大富豪だ。考えただけで気が緩んだ。
僕は恩人経営者へ報告に行った。お陰様でご飯も食べていけそうです。今の損益はこれで、考えてることはあれで。てな具合に。
すると
「もう1店舗攻めたら?2店舗になると全然イメージ変わるよ。お客さんも安心感増すと思うし。利益出なくてもスタッフに給料払えたら良いじゃん、お前らがもうちょっと我慢して少し頑張るだけで全然違うよ。それだけで次のステージにいける。でも殆どの人がここで我慢できないんだよなぁ〜。」
と恩人経営者。だるんだるんに緩んでいた僕の気がキュッと引き締まる。
"もうちょっと我慢して少しだけ頑張る" ポロっと出た誰も知らない名言だと思う。これは僕の人生の格言になっている。確かになかなか出来ない。一瞬出来ても続けられないのだ。
名言をお土産に持ち帰り麻美に伝えた。麻美はその頃、お薦めしたサイバーエージェント藤田社長の「渋谷ではたらく社長の告白」を読んで涙を流し、「水を張った洗面器に同時に顔をつっこんで最初に顔を上げたやつが負ける」という文章を拾っていた。
僕が
「あと3ヶ月さ、無休、無給でさ。小諸ハックすれば良くない?」
と言うと
「そっか。じゃあ洗面器に顔突っ込むか」
拾いものをすぐ再利用した麻美。
以来、「洗面器に顔突っ込まない?」は僕ら夫婦がもうちょっと我慢して少しだけ頑張るときの合言葉となった。
閑散期1~3月の売上100万円越えを狙い、そこで出た150万の利益で4月に2店舗目の出店を目指すことに。
新たな目標ができてワクワクするも出店場所に関しては葛藤があった。麻美が修行した会社が出店している地域(池袋、新宿、渋谷)には出さないと決めていたからだ。しかしそこは人も多い繁華街。是非とも出店したい。
そんな時、事件が起きた。修行した店のスタッフが当店に悪い口コミを入れてきたのだ。
実はこれ、美容業界ではよくあることだとHPB(ホットペッパービューティー)の担当者から聞いていた。それがいよいよ我が身にも起きたのだ。
とはいえ、嫌がらせをされるのも心当たりはある。義理を通したかったが、結果的に退社してすぐ同業であるIbiza Waxを開店したので悪印象の塊だろう。
恩人経営者からも「もう少し待て!」と忠告を受けていたが、こちらもすぐに稼がないと生きていけない。仲違いは覚悟していたものの攻撃までされるとは。
麻美は悪い口コミにショックを受けていたが、僕はこの一件にガッツポーズした。むしろ待っていた。喧嘩を売られ、あっちが先に手を出したのだ!(先方からしたら先に喧嘩を売ったのは僕らだと思ったろうけど!)
戦うならやるしかない。これで大手を振って彼らの出店地域物件も探せるってもんだ。
2店舗目にはもう一つ問題があった。人だ。店舗を回せるスタッフが必要だ。しかし人材募集の予算はない。友人に聞いたりSNSで探すも見つからない。
そこで麻美が新たな募集方法を見つけた。ワックスに興味ある人が毎日お店に来るでは無いか!
そう、下半身あらわにノーガードのお客様を施術中にリクルートするのだ。
すると1ヶ月で2名の採用ができた。
突っ張り棒でできたDIYサロンによく就職してくれたと思う。
振り返ると、最初に麻美と性格が合うスタッフが入ってくれたので、その後も明るい性格の子たちが集まる会社の礎ができた。
体制は整った。次は出店場所だがそこは案外簡単に見つかった。場所は新宿。
喧嘩相手の店舗と道を挟んだビルの一室に空きが出たのだ。お互いが見える距離。
ここを1店舗目と同じ不動産屋の山本店長に抑えてもらった。悪口を書き込んだ店に向かって中指も立てられるし、おこぼれ戦略もできるし最高の場所だ。
因みに、この新宿店は後にドル箱店に成長しサロン事業の発展に大貢献する。あの嫌がらせ口コミが無ければ出店はしなかったので、逆に感謝というか。何がどう影響するか分からないものです。
*ここまで書いて気がついたが、修行したお店は数ヶ月で辞め同業で起業し、儲けた金で2店目は修行先の真ん前って不義理の極み。こんな酷い話なかなか無い。そりゃ憎くて悪口も書きたくなる!(実際、何度も嫌がらせを受けた。当然だわ)
2店舗目は突っ張り棒DIYは無くし内装業の友人や兄に頼んでそれなりの店作りをした。1店舗目より高くついたが180万円程度でIbiza Wax新宿店が誕生。
無事4月末から始まるGW前にオープンが間に合い、初日からHPBで予約が入る。1店舗目の時とはまるで違う滑り出し。
しかし月末にはお金が全く足りずキャッシュフローは超ギリギリ。
洗面器に突っ込んだ顔は上げられないまま苦しい日々が続いた。
なぜなら僕らは新規事業をスタートさせていたのだ。のちにもう一つの軸となる通販事業だった。
次回はライバル店からの反撃、麻美の体調不良、通販の立ち上げについて書いていく。
因みに現在「小諸そば」は、かけそば350円、卵60円で410円、月見そば420円なので10円のみお得。お金に余裕もできたので月見そばを頼んでみたらなんと卵以外にもカマボコ、ほうれん草、海苔が乗っていて、長年やっていた小諸ハックである”かけそば+卵”とはレベチでした。
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【第1話:火傷しない商売のルール】
【第2話:スパイ大作戦と砦の確認】
【第3話:半径1mの資金調達】
【第4話:六本木No.1戦略】
【第5話:洗面器に顔を突っ込む】
【第6話:飛び道具の開発方法】
【第7話:無鉄砲な当てずっぽう】
【第8話:順調は不調の始まり】
【第9話:1億円を燃やして得た教訓】
【最終話:最高のマーケティング、そして売却へ】