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【読書感想文】一穂ミチ『光のとこにいてね』

人は出逢えるのだろうか
光のとこにいて欲しいと
願い続けて居られる誰かに

お互い七歳で出会った結珠と果遠
三つ編みを教えてくれて、時計の読み方を
教えてくれた結珠は果遠にとって
隣のインコ「きみどり」以外で
初めて好きになった人だった。

一方結珠には
高い鉄棒に飛びつき一回転しそうなほどの
高さで手を放し空中に飛び出す果遠が
雲間から差す一条の光に見えた。

いや、違うな
二人は結珠が果遠に向けて手を伸ばした時
果遠の鼻血が結珠に滴り落ちた瞬間から
始まっていたのだ。

それ以来結珠は果遠にとって
「きみどり」が喋る「アイタイヨゥ」を
実感するただ一人の誰かになった。

八年後二人は再会する。
果遠の憧れが、想いが強かったから。
だけではないか。
チサがいたからだね
青い雛が飛び立ったあとの寂しさや悲しさを
果遠に感じていたはずのチサが
果遠の背中を押し続けたから。

高校の音楽室で果遠は
遠い昔に約束したベッヘルベルのカノンを
結珠にねだる。
雨の糸を束ねて編んだようなメロディ
寂しい雨の晩には果遠の耳を包むであろう
その旋律
果遠はいくつの夜をそれを聞いて過ごしたのだろう。

八年前に果遠に貸したままになっていた
防犯ブザー。何も守れなかったそれを
まだ大事にしていた果遠
それが結珠の胸を苦しくさせていた
同時に誰にも話した事のない心の中の棘を
果遠に打ち明ける音のないブザーとなった。

結珠を藤野に託して更に十年以上経ち
藤野結珠と海坂果遠として
海辺の町で二人はまた出会う。
人が何かをできるようになる喜びを
結珠に与えたのが自分だと知った果遠
愛おしさで震えた。そして深く突き刺さる光。
二人は不自由な大人になっていた。
瀬々は七歳の果遠のようであり
結珠のようでもあった。
瀬々が二人を繋げまた寄り添わせた。

直に、自由に生きていいんだよと
伝えたかった果遠
いつしかそれは「水人や瀬々がいるから我慢してた
わけじゃない。きょうは行きたいから行くの」という
自分の気持ちに置き換わる。

怯え続けた母親の存在
遅すぎた反抗期
果遠と一緒につけたけじめ
眠る母にさようならと呟いた結珠

水人との別れ
自分の人生をやり直したいと言った水人
それはまるで愛の告白のようだと
最後の優しさで手を離そうとしてると
感じる果遠。
それは瀬々との別れでもあった。

光のとこにいて欲しいから
結珠に影を落としてしまうわけにはいかないから
離れようとする果遠。
結珠の「行かないで」は本気だった。
薬でふらつきながらも見くびるな、冗談じゃないと
果遠を追いかける。ただひたすらに追いかける。

どうしたって離れられない二人。
これはもうどうしようもない。

私の胸の奥には今、陽だまりがある
それは果遠の好きなピンクとオレンジで
ぬくぬくと私を温め続ける。

#読書の秋2022

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