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セテムブリーニさんなのか、ステパンさんなのか問題

私のなかで長年の懸念がある。
それは、セテムブリーニさんなのか、ステパンさんなのかわからないということである。

セテムブリーニさんはトーマス・マンの「魔の山」に出てくるイタリア人の人文主義者だ。
縞のズボンを穿き、主人公のハンスくんをエンジニアと呼ぶ。

また、ステパンさんはドストエフスキーの「悪霊」に出てくる人文主義者の家庭教師だ。
縞のズボンを穿き、また息子が恐ろしきテロリストである。

私は弁舌上の煙幕として、頻繁に「ヴォルテールが地震に抗議したのを褒めるおもしろおじさん」の話をする。
この「おじさん」というのはたぶんセテムブリーニさんかステパンさんなのだが、どっちなのか判然としないのである。

他にもアルコールランプでコーヒーを淹れるのはどっちなのか、これもわからない。
ふたりとも人文主義者で、縞のズボンを穿いているためだろう。

ただはっきりしていることもあり、村娘をからかってチュウチュウ鼠鳴ねずなきしたのはセテムブリーニさんである。
朦朧たる我が脳の人文主義者情報集積野において、これだけが明瞭だ。

私側の事情としては、これまで二度、魔の山に挑戦し、なんらかの事情で最後まで読めなかったということもある。

魔の山は面白いのだが、時間の長さの不均衡が主要なテーマなだけあって、進捗に異様な時間がかかる。
その間に引っ越しで本を散逸させたり、就職していそがしくなったりで完走できなかった。
セテムブリーニさんの完全像が掴めていないせいで、混ざってしまった可能性がある。

あいまいな状態から決別しなければならない。
Audibleで魔の山が配信されたのを機に、私はまた魔の山に取り組んでいる。
とりあえず、ペーペルコルン氏が出てきたところまで進んだ(新記録だ)。

現時点で判明したこととしては、セテムブリーニさんはアルコールランプでコーヒーを淹れるし、ヴォルテールと地震の話もしていた。
あと縞のズボンは弁慶縞であった。

じゃあステパンさんは何をしたというのか。
そしてステパンさんのズボンは何縞なのか。
悪霊も復習しなければなるまい。
年末年始は忙しい。

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