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風姿花伝がすごく良かった
現代語訳 風姿花伝(水野聡:訳)を読んだ。
実に良かった。
むかしジャパネットたかたの社長が大絶賛していたが、うべなるかな、である。
良かったその1:へっぽこのサイン
三十四、五 この年代の能は盛りの絶頂にある。…もしこの時期、天下にさほど許しも得られず、名望も思うほどでないならば、たとえ上手であろうが、いまだまことの花を究めていないシテ(俺注:役者)であると悟るべきである。
今僕は40歳で、ひとつも天下に許しを得られなかった。
それは簡単な話、大した技芸を持っていなかっただけである。
悟った!
良かったその2:老いては脇に退け
四十四、五 …この年代から、あまりに手の込んだ物真似(俺注:演技)はすべきでない。…脇のシテに花を持たせて、付き合うがごとく少な少なと演じて見せる。…凝って身を砕く能を演じるべきではない。何としても花がないのだから。
ピークを過ぎた人間の正しいあり方だと思う。
俺ももう凝った能をやろうとしてはいけない。
良かったその3:爺さんは芸の極み
老人の物真似は、この道の奥義である。
映画「切腹」で仲代達矢が年老いた浪人を演じていた。
当時若干三十歳。
めっちゃじいさんであった。
良かったその4:雰囲気が大事
問い そもそも申楽を始めるにあたり、当日に臨んで開演前の観客席を見る。するとその日の吉兆が占える… その日の会場を見ると、今日の能は上出来か、良くないかの予兆がある…
シテは客席が静まるのじっと待つ。…数万人の心が一つになり…意識が集中する。この時を見計らって登場し一声を謡いだすのだ。…万人の心がシテの振る舞いに和合し、しみじみとなる。
すぐにも始めなければならぬ…万人の心はまだ…準備ができていない。したがって、たやすくしみじみとなることもない。…日ごろよりは色々と振りをも繕い、声も強々と使い、…大きめに、…目をひきつけるようにいきいきとすべきだ。
これは自分も塾の先生をやっていたときに感じていた。
始まる前からもうだめだと分かる。
するとたんに急に声が枯れだし、動悸が半端なくなる。
声を励まし大げさな身振りで場が「しみじみ」となるようつとめる。
ところがなんともならないのである。
逆に最初から素晴らしい雰囲気になることがある。
あるいはちょっと手間をかければ素晴らしい雰囲気が作れる。
何も考えなくても体が動き、大変良い気分だ。
子供らも今日は大いに物わかりが良い。
ただこれが曲者で、彼らは物わかりの良いふりをする天才なのだ。
油断してはならないのだった。
座右の書
他にも失敗した次の能は、前よりも良いはずだから観客に喜んでもらえる、失敗が転じて福となる的なことが書いてあり、勇気づけられた。
というか自分もよく先輩に似たような話をされていた。
良い。
座右の書とする。
蛇足:用法上の注意
この本は一子相伝の秘密の奥義である。
夜中にこっそり読んでニヤニヤするのが正しい付き合い方ではないか。
部下に訓示を垂れるのに使ったり、頼まれてもいないのに勧めてまわっては有り難みが失せてしまう。
よろしく人は注意すべきである。
追記 面白かった