怪しい客引きに出会う。
本日、息子君を連れて散歩に出たときのこと。
妻から甘いものが食べたいとリクエストがあり、先日の散歩の際に見つけたチーズケーキのお店に向かう。
散歩の途中で偶然に見つけたお店だったので、正確な位置を覚えておらず、なんとなくお店の方向を目指してフラフラと歩く。
私の散歩は大抵の場合、行き先が決まっておらず、その日の気分で普段は曲がらない角を曲がってみたり、フラフラと心の赴くままに歩くため、新しく発見したお店などの情報は大抵うろ覚えである。
今日も目的としていたケーキ屋にはすぐにたどり着けず、感覚的に「こんなに遠くはなかったはず」と思って、Googleで検索したら、案の定ずいぶんと行きすぎてしまっていた。
携帯を片手に、来た道をUターンして歩いていると、1人の老婦人に声をかけられた。
「ケーキ屋を探してるんでしょう?」
???
この老婦人はなぜ私がケーキ屋を探していることを知っているのだろうか。
怪訝に感じながら、そのままに老婦人に尋ねた。
「だって、みんな携帯見ながら探して歩いているから。そのお店はこの奥にあるよ」
老婦人がこの奥と指し示す方向にあるのは、昭和感のあるレトロなクリーニング店。
???
私が探しているケーキ屋は路面店である。
間違ってもクリーニング店ではない。またしても怪訝に思って老婦人に尋ねる。
「うん、クリーニング屋の中にあるの」
いや、明らかに私が探している店ではない。そう老婦人に伝えた。
「あ、そうなの?確かにチーズケーキのお店も近くにあるわね」
しかし、私が探していたチーズケーキやは、まだ行ったことが無いというだけの理由で、トライしようとしていただけだ。どうしてもそのチーズケーキ屋に行かなければならない絶対的な理由はなかった。
むしろ、クリーニング屋の奥にあるケーキ屋に、みんなが携帯片手に探しまくるというケーキ屋に、老婦人がわざわざ通りすがりの親子に声をかけるようなケーキ屋に、私は俄然として興味が湧いた。
これも何かの縁である。そんな風に自分を説得して、おもむろにクリーニング店の扉をくぐった。
クリーニング店に入ってすぐ左側に、垂れ幕のような白いカーテンが半分かかった通路がある。
どうやらその奥にあるのが、件のケーキ屋らしい。
何度も言うが、そこはクリーニング店の中である。
ケーキ屋スペースに足を踏み入れると、間接照明に照らされた可愛いケーキがいい感じに陳列されたショーケースがある。そして、なんとも言えない重厚感のあるBGMが聞こえる。恐らくは教会音楽のようなものだと思うのだけれど、きっとステンドグラスがあるような教会ではなく、洞窟の奥にありそうな、少し怪しい雰囲気のするような教会(なんとなく秘密結社が集会とかしてそうなイメージ)で流れていそうな音楽が流れていた。
もうなんだか情報が渋滞しすぎてよく分からなくなってしまったのだけれど、とりあえずケーキを2つ購入して、帰路につく。
帰宅して、紙袋からケーキの箱を取り出すと、箱の上のシールのところに、生花がスッと挿してある。おしゃれ。
そして、ケーキも想像以上に美味しかった。妻からもリピあり!と太鼓判を頂いた。
後からネットで調べたところ、クリーニング店の娘夫婦が営むケーキ屋らしい。
さらには、こんな偶然でもなければ、決して足を踏み入れることは無かったと思うけれど、どうやら人気店のようで予約無しで購入できたのもすごく幸運だったらしい。
不思議な”導き”もあるもんだな。
面白いから、次は妻もつれて行こう。