#003 衆議院の文部科学委員会での質疑と答弁
■国会で「日本語教育」が話し合われる
「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に係る法律案」。2023年4月26日の朝9時から、休憩をはさんで14時まで、各党議員からの質疑、文科大臣等による答弁が始まりました。
ここからすべての様子が動画で見られます。
国会で、日本語教育、日本語教育機関(日本語学校)、日本語教師という言葉が飛び交っていることに、まず感激、隔世の感です。
2019年に「日本語教育の推進に関する法律」が成立してまもなく始まったコロナ禍の長いトンネル。こんなときに議論を進めるべきではないのではなのかという声も聞こえてくる中、私は、いやこれは私たちにとって100年に一度来るか来ないかのチャンスだと思ってきました。
質疑の中で感慨をもってお話しされる議員の先生方がいらっしゃるように、この法律案は、2016年11月に発足した超党派の議員による日本語教育推進議員連盟はじめ、多くの皆さんの尽力のおかげでここまできました。
■3時間30分の質疑と答弁
・・・と、長時間にわたるものなので、以下に整理してみたいと思います。しかし、やり取りの温度感やニュアンスなどはこれでは伝わらないので、上記リンク先のインターネット審議中継をぜひご覧ください。(最大2倍速で視聴できます。)
この日の質疑は、自由民主党、立憲民主党、公明党、日本維新の会で、答弁は文部科学大臣、文化庁次長、出入国在留管理庁在留管理支援部長、文部科学省総合教育政策局長、外務省大臣官房政策立案参事官でした。
今ここで言わずもがなのことですが、これは、日本語教育機関や日本語教員の認定や登録を文部科学大臣(文部科学省)が行うという法律案です。
https://www.mext.go.jp/content/230217-mxt_hourei-000027694_1.pdf
では、質疑と答弁からのポイントを列挙します(質疑応答順)。
◯認定の対象(留学)
本法案では、法務省告示校と大学の別科が主に認定の対象となると考えている。
◯在留管理の徹底(留学)
文科省は法務省と緊密に連携する。制度創設後も、法務省が在留管理の観点から問題点を把握した場合は、認定機関等に対する調査、改善指導を行う。その場合、文科省は法務省から情報提供を受け、必要に応じて是正措置を行い、最終的には認定の取り消しもあり得るものと考えている。
本法案の施行後は、認定を受けた日本語教育機関であることを在留資格「留学」による外国人留学生の受け入れの要件とすることを検討している。
◯機関と教師の量の確保
外国人留学生の受け入れは、2033年までに40万人とすることを目指す指標が打ち出されている(教育未来創造会議の第二次提言)。これを受けて文科省は、認定機関や登録日本語教員の申請事務を円滑に実施していく。そして、日本語教育機関、企業、地方自治体での登録日本語教員の活用が図られるような新たな制度の周知を図る。国が構築を予定しているサイトによって認定日本語教育機関の活動状況等について多言語で発信することを予定している。
◯日本語教師の処遇改善と人材確保
この制度は教師の地位向上に役立つと考えられるが、それに見合った適切な報酬の確保ができるのか、現職日本語教師に対する厳格な資格設置による教師減少は起こらないかといった懸念について。
日本語教師の処遇改善や人数確保のために、本法案では登録日本語教員の新たな国家資格を設けることとしている。
登録のための試験は、基礎的な知識・技能を確認するものとし、日本語教師のなり手の確保を引き続き検討していく。登録後、初任に対しては様々な分野に対応した研修を、中堅者に対しては経験に応じた資質の向上をはかる研修を行う。
現職日本語教師に対しては、5年の経過措置期間中の円滑な国家資格取得のために、勤務経験や民間試験の合格歴等に応じて、試験や実施研修を免除する経過措置を設けることとしている。
こうした措置を通じて、登録日本語教員を魅力あるものと思ってもらい、処遇改善と人材確保をしっかり努めていきたいと考えている。
◯外国人児童生徒への日本語教育
健常者の外国人児童が特別支援学級で教育を受けている実態があることについて、文科省は不適切であると示しており、日本語指導が必要な児童生徒に対する取り出し指導など特別の教育課程の制度化、教職員定数の改善、日本語指導に取り組む自治体に対する支援などを行ってきている。今後も引き続き、助成と支援に積極的に取り組んでいきたいと考えている。
◯地域における日本語教育の体制確保
半数近くの地方自治体が日本語教室を有していないとされる実態に対して、地域日本語教育コーディネーターの配置や空白地域の市町村への日本語教室開設支援、ICT教材を活用した教室の支援等により、その解消に取り組んでいる。
◯地域における日本語学習の場
令和4年末現在の在留外国人数は約308万人、在留資格別では、技能実習約30万人、特定技能約13万人、留学約30万人。国内の日本語学習者数は令和3年度ではコロナの影響により約12万人だが、最も多かった令和元年では約28万人。つまり全在留外国人に対する日本語学習者は約1割という現状。在留管理庁の調査によると、日本語を学べる場所やサービスに関する情報が少ない、自分のレベルに合った日本語教育が受けられない、近くに日本語教室や語学学校等がないといった課題が指摘されているが、本法律によって適切に対応していく。
◯働く外国人の日本語学習の費用
本人負担を大前提としても、企業や地方公共団体が予算をつけて対応していかなければいつまでもボランティアに頼ることになり、日本語教師が報酬を得られる仕事にもならない。その仕組みをしっかり作っていく必要がある。
◯アニメや漫画の日本語教育での活用
文化庁では地域日本語教育、総合的な体制づくり推進事業において都道府県等での教材の作成を支援している。
◯今後必要となる外国人労働者数
2022年の国際協力機構の調査研究では、2040年に目標GDPを達成するために必要な外国人労働者数は、現在の 172万人の約4倍の674万人とされる見通しが出されている。今後中長期的な外国人受け入れにあたっては、さらに日本語を学ぶことができる機会を増やしていかなければならない。しかしながら、日本語教師の半数以上が50代以上で、大学学部の養成課程を経て日本語教師になる割合が1割以下という現状がある。若い人たちが日本語教育機関で活躍する状況に結びつけていかなければならない。
◯日本語教師のキャリア証明の仕組み
国で構築を予定している情報を発信サイト上で本人の希望に応じて研修履歴を蓄積掲載するなど、日本語教師のキャリア証明にするような仕組みを検討することとしている。それが、経済界や地方自治体で増えてくるニーズと専門性の高い日本語教師を繋ぐプラットフォームやマッチングの仕組みになる。
◯日本語教師の試験の検討
意見募集の結果、試験地、実施回数、出願や結果通知のオンライン化、試験方式のCBT化(コンピューターを使った試験方式)など意見が寄せられた。これらは、本法案の成立後に受験見込み者数などの状況を踏まえて検討していかなければいけないと考えている。
◯海外における日本語教師への対応
海外の日本語教育機関数は約1万8000機関、日本語教師数は約7万5000人、学習者は約380万人。今回の法案の趣旨は日本国内の日本語教育機関における日本語教員の資格制度を定めるものだが、海外における日本語教師のうち登録日本語教員資格の取得を目指す日本語教師も一定数存在する可能性があると理解している。外務省は文科省と連携しつつ在外公館、外務省が所管している国際交流基金の海外事務所を通じた情報発信と日本語教師会等への案内など海外の情報提供に努めていきたい。
◯日本語教育の地域間格差
日本語教育推進法では重要な政策の一つの柱として、地域における日本語教育が位置づけられており、地域の日本語教室の開設支援、日本日本語学習環境の整備などを行うこととされている。日本語教室がない空白地域に暮らす外国人がで独学でも日本語を習得できる日本語の学習コンテンツ「つながるひろがる にほんごでのくらし」(通称「つなひろ」)の作成、対応言語の拡大などにも取り組んでいる。
◯関係省庁が連携した制度の活用
日本語教育推進法に基づき関係省庁が構成員となる日本語日本語教育推進会議を開催し、法務省、外務省、厚労省、総務省、経産省と具体的な連携をする。
◯夜間中学なども含めた学校における日本語教育支援
本法案成立後に、登録日本語教員のうち特に児童生徒向け研修を実施し、夜間中学や小中高における特別の教育課程などの補助者として、学校と地域をつなぐコーディネーターとして、登録日本語教員を積極的に活用する具体的な仕組み等をしっかりと検討していく。
◯不就学の外国人児童のフォローアップ・サポート
各教育委員会による外国人の子どもの就学状況の一体的な管理把握、修学案内等の徹底、多言語によるガイダンスなど行っているが、引き続き自治体の協力を得ながら、一層の実態把握に努めるとともに不就学の子どもの就学促進に向けて適切な対応策をしていく。
◯やさしい日本語の積極的活用
外国人への情報伝達の際、翻訳通訳のほかやさしい日本語を活用することが有用として、出入国在留管理庁と共同でやさしい日本語ガイドラインを作成、日本語教育の現場でも活用できるように日本語教師やボランティアに向けてのやさしい日本語の研修等に取り組んでいる。
◯文化庁から文科省への日本語教育の所掌移管
この制度の効果的実施のためには教育機関に対する指導等や教員の養成研修等に関して、一定の知見を有する本省において事務を行う必要があると考えた。
◯現職教員の登録日本語教員への移行措置
本法案では新制度の円滑な移行を図る観点から経過措置を5年間と定めている。この間は登録日本語教員に準ずるものとして文科省で定める資格また実務経験を有する者も引き続き認定日本語教育機関において教えることができることとしている。具体的な経過措置については今後審議会等の意見を聞いて省令等で決定するが、丁寧に協議を行うとともに制度の周知を徹底していく。
◯生活者向けの日本語教育を担う人
現状においては、生活者向けの日本語教育を主に担っているのは地方公共団体などに設置された教育機関で、その中で多くのボランティアが活躍しているというのが現状。新たな制度での認定日本語教育機関の教員は登録日本語教員とされているが、ここで言う日本語教育機関は主に留学生を受け入れることを想定している。生活者向けの日本語教育は主に地域の日本語教室でボランティアが主体となることが予想されることから、法施行後も引き続きボランティアが活躍することが期待されている。
しかし、生活者向けの日本語教育を希望する外国人も、認定日本語教育機関で学んだり、あるいは地域の日本語教室でも専門性の高い指導が求められる場合なども考えられるため、生活者向けであっても登録日本語教員とボランティアとの連携が大切になってくると考えている。
◯生活者向け日本語教育ボランティアの質的量的拡充
地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業において、ボランティアの育成や質の向上を図る研修を行っている。文化庁ではボランティアを含む日本語学習支援者を育成するための研修カリキュラムを開発し、都道府県市町村向けの会議や研修会で紹介するなどその普及をはかっている。
◯地域日本語教育コーディネーターの役割と財政支援
各現場での日本語教育プログラムの策定、教室運営の改善、日本語教師や日本語学習支援者に対する指導助言を行うなど、地域における日本語教育の体制整備をする上で大変重要な役割を果たしている。また、学校で日本語指導を必要とする児童生徒にきめ細やかな支援を行き届けるために、地域日本語教育コーディネーター等の日本語教育に関する優れた知見を持つ人材を支援の担い手として活用できるように検討している。
地域日本語教育コーディネーターの給与や謝金を補助できる仕組み作りについては、地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業においてしっかりしていく。
◯海外への日本語教師派遣
海外に派遣される日本語教師に対して、本法案を契機として外務省と連携し海外でも登録日本語教員などによる質の高い日本語教育が行われるよう取り組んでいく。
◯登録日本語教員に求められる日本語教育能力
登録日本語教員として専門的な知識や技能の水準が一定以上かどうかの基礎的なところを踏まえた教員試験と実践研修の設定をする。現行の日本語教育能力検定試験との比較はむずかしい。
◯就労や生活のための日本語教育
留学以外の、就労者や生活者の教育課程において、自立した言語使用者として必要な日本語能力を身につけることが期待されている。さらに、令和3年10月の文化審議会国語分科会で示された「日本語教育の参照枠」において、文化やマナーなども含めた社会的に対処するために必要な教育とともに、生活上の指導面でも支援が必要とされており、具体的には今後審議会等の意見を踏まえて検討していく。
◯日本語教師の外国語スキル
実際の教室では多国籍の学習者が一つのクラスに入っていることが多いので、登録日本語教員については基本的には日本語で授業を行うことを想定している。ただし、文化や社会マナーの指導や生活指導などで母語を介して指導する方が有益な場面なども想定される。この場合には、日本語教育を専門とする者というよりも異文化理解を得意とするスタッフが当たるのがいいということも考えられるため、今後適切な対応がなされるよう引き続き関係者と相談していく。
◯日本語教師資格を取得した後の検証
本法案により登録された日本語教員に対しては、登録後もその専門性を高められるよう研修を充実することとしている。具体的には、資格取得後、初心者向け研修として留学生、就労者、生活者等の研修を受講できるような仕組みを設けるとともに、中堅者向けの研修も推進していく。また、本人の希望に応じて国で構築予定しているサイトに研修履歴を蓄積し、日本語教師のキャリア証明に繋げることを予定している。
■次回は採決
次の委員会は、5月10日(水)午前9時開会だそうです。
質疑と答弁のやり取り、こんなにじっくり聴き書きしたのはもちろん初めてです。冒頭にも書きましたが、議員と大臣や担当官、政治と行政の人たちが日本語教育についてこんなに長い時間かけて話し合うほどに、これからの日本にとって日本語教育は重要ということなのだと思います。
これを読んでくださっている方の中には、これから日本語教育に携わろうとしている方もいらっしゃると思います。35年続けてきた自分は、学生たちからたくさんの喜びと楽しみとエネルギーをもらい、一方で日本語のおもしろさにもわくわくしながら今日まできたからこそ、今なお辞めずに携わっているのだと思います。
ですが、この法律によって、もっといい仕事、いえ、本当の意味での職業になることを願っています。
質疑をされた議員のお一人がおっしゃったことばです。
「今回の国家資格の創設をまず第一歩として、これからも日本語教師の処遇改善に ずっと力を入れて努めていくことが必要になるというふうに考えます。・・・生活が安定して、職業として生涯を通じてこの仕事が選ばれていく、そういうふうに変わっていかないといけないと思います。」
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