なぜ魚屋の業務は20年以上変わらないのか
先月と先週の土曜日、久しぶりに魚の販売業務に携わった。
先週土曜日に至っては、魚の盛り付け、パッキング、ラベル貼りなども行った。久しぶりというのも最後の魚屋での仕事は2007年の9月のことで、それから14年にもなる。ちなみに魚屋(百貨店の水産部門)になったのは2003年の時だ。
普通、14年も離れていたら浦島太郎状態になる。機械が新しくなっていたり、業務フローが変わっていたり、そもそも扱う商品の内容が、、、となるのだが、全く違和感がなかった。あえていえば、包装機の商品品番などを覚えていないくらいだった。
↑だいたいこのイシダというメーカーか、寺岡というところのを使う。これも、もちろん新しいものになっているけど基本的な使い方は変わっていない。
魚屋の業務というのは、だいたいこのような流れになる。
①魚が納品される。朝7時ごろとか、6時ごろ。
②魚を検品し、仕分ける
③切り身にしたり刺身にしたりする商品は職人が捌き、小鯵やイワシ、タコ、エビなどはトレーに盛り付けてパッキングする。
④開店したら、ひたすら『売れていく商品をひたすら追加する』
⑤お客様の午前中ピーク時間が過ぎたら休憩を回す
⑥売れ行きに従って、明日の分を発注する(だいたい14時くらいから15時くらい)、明日でも商売できるものは冷蔵庫にしっかり保管。
⑦ロスになりそうな商品は値引きシール(もっと早くからやることもある)
⑧掃除して終了
ざっとこの流れで、これが20年以上変わらない。ところが、お客様の流れは変わっている。
以前私が現役魚屋の時代は、13時まででその日の売り上げ目標の半分が達成していた(雨の日などは別だが)。しかし、近年はライフスタイルの変化で16時以降にピークが来ることが多い。なので、発注するタイミングではまだ結構な量の商品が店頭にあり、どれだけ売れるのかが読みにくい。結果、値引きロスや消費期限切れのロスが発生することが多くなっている。これとは別に、競合の安売りや年末年始の人での動きの不明確さがロス発生には大きい。私が販売に入った店舗でも、年末年始の商品はだいぶ売れ残りがあったようだ。
しかし、業務もそうだが、こういった「お客様の動向が読めない」という問題は20年以上変わらない課題である。ではなぜそれができないのか。
例えばその原因は在庫管理にある。魚は毎日産地が違えば大きさも違う。なので、SKU(最小単位管理)をどうすればいいのかということが難しい。JANコードがついている加工品ならある程度売れ行きは読みやすいが、鮭の切り身1切れ入りと2切れ入りと3切れ入りでどれだけ売り上げがあるかどうかということは、定額販売ならまだデータで拾いやすいが、量り売りだとさらに難しい。刺身の盛り合わせも、3種類入りで、マグロとサーモンとイカの盛り合わせと、マグロとイカとタイの盛り合わせで違う品番を使うということなどなかなかできるものではない。やろうと思えばできるが、現実的ではない。魚を多く売る店であればあるほど最小単位での管理は難しく、発注もざっくりとしたものになる(それでもたいがいはピタッと売り切れたりするので担当者の力量はすごい)。
しかし、売れ筋の商品があと店頭でわずかになったりなくなってしまっている状態に気が付かないで売り逃しをしていることは多々ある。店頭の在庫が厨房にリアルに伝えるような仕組みはあってもいいのではないかと思うが、それは、POSレジのシステムと、前述の包装機の仕組みの一貫した連携などが必要になる(もちろん、いくつかのメーカーでそれができてはいるが、費用対効果という面では導入している店舗は少ないのが実情だ)
しかし、夕方の売れ行きが読めない状態になる=買い物の時間が夜型にシフトをしていくというのはまだまだ傾向として高くなるだろう。そうなると、夜に品ぞろえをするには職人もある程度配置しておかなければならない。しかし、魚は早朝に来る。昼間に魚を納品する業者もいるにはいるが、朝と違って日中は車が多く、渋滞によって配達の効率が著しく悪くなる。昼間の渋滞問題や配送効率を上げるためにどのルートを通る納品が一番いいのか、というのはコンビニエンスストアなども腐心しているところである。
これからの魚屋はどうなるのだろう?AIが売れ行きを予測し、適正な製造個数を指示してくれるようになるだろうか?しかし、現実には刺身3種盛り合わせのネタがマグロ、イカ、タイの時と、マグロ、サーモン、イカの内容だとそれで大きく売り上げの差があるのだ。
となると、売り場全体にカメラを配置し、だれがどのような魚をチョイスし、買っているのかを見極め、POSデータと合わせて、売れ行きを蓄積し、分析し、販売数量を予測するような形になるのだろう。昔はそれを自分自身でやっていたのではあるが。
そういう意味で言うと、魚屋は良くも悪くも人間が主体の働く場所なのであろう。魚の良し悪しやちょっとした品質劣化も、機械よりも人間の方が早かったりする。それが20年以上、あるいは30年以上そのままだった理由であろう。しかし、これからもそうでいいということにはならないのだ。