母はクッキーモンスター
高齢(88歳)で、認知障害があって、がん終末期(のはず)で、ホスピス型高齢者施設に入っている母。気力も体力も緩やかに下降を続け、施設内の廊下を歩いたりする以外は、テレビを見るしかやることがないとぼやき続けている。そのテレビだって、どれだけ理解できているのか?
折り紙や塗り絵などの道具があっても、自分でやる気はさらさらないようで、「おやつを食べるしか楽しみがない」とのたまう。食欲があるのは、いいことなのだろうけど、本当に消費量が爆上がり。以前はビスコ40個パックが1週間くらい持ったはずだが、最近では3日でなくなる。
食事は普通に食べているようなので、過食の時期なのか? 短期記憶がないので、40個パックが3日でなくなることに対し、本人が純粋に驚いている。「ええー、私、3時のおやつにちょっと食べるだけなのに、なんで消えるんだろう?おかしいよ、これ」
うーん、消えた先はあなたの胃袋なんですけどね。認知機能が衰えているから、目の前にあれば食べ疲れるまで食べてしまい、自制心は働かないんだろうな。ビスコ&食べっこ動物ジャンキーだな、こりゃ。
おやつの食べすぎは心配だと思う一方で、食事量が減った様子もないし、体調が悪い風でもない。太ったように見えるけど、重すぎて歩行に障害がでるレベルでもない。おやつは母のお金で買っているし、おやつだけが楽しみだと言うのなら、制限する理由が見つからない。長期的には体に悪影響がでるかもしれないけど、その前に食欲がおちたり、寿命が尽きたりする確率の方が高いだろうから、なおさらだ。
母には明らかに認知障害はあるのだけど、へんな知恵(?)は働く。昨日もモニターカメラを通して会話をしながら、一応、おやつの食べすぎをたしなめてみた。「3日で40個パックがなくなるなんて、食べすぎ。血糖値があがって、太り過ぎで膝に負担がかかって、歩けなくなるよ。大腸がんなんだから、また腸閉塞になったら死ぬほど痛くて、死ぬまで絶食だよ」と私。
「そんなに食べてないのに、消えたんだよ」と母。私は「覚えていないだけで、食べてるんじゃない? ゴミ箱を見てごらん。ビスコの外袋が沢山入ってない?」と聞く。
ゴミ箱を見た後に、沈黙する母。たぶん、その通りだったのだろう。都合の悪いことに対しては黙る。それから唐突に、「そうだ、こんな生活ダメだ。ちゃんとしなきゃ。もうやめる。ダメだからやめよう」と殊勝なことを言う。理解はしているのか? このセリフを3回くらい繰り返して言った。(ちなみにこの会話は、6月から、4回くらい繰り返している)
「おやつを食べなくたって、食事は十分に出してもらっているよ。そう言っているうちに、ほら、お昼ご飯を持ってきてくれたじゃない。じゃ、集中して、ゆっくりよく噛んでご飯たべてね。また電話するよ」と私。
そこで母の声が大きくなる。「ちょっ、ちょっと待って。おやつ何にもないから、とにかくちょっとでもいいから送って。何もないと本当に困っちゃうから」
「ダメだ、もうやめる」の決心はどこへ行ったのか。もう忘れたのか? ただ欲しいものを手に入れるための、周到な演技だったのか? 別の時に、おやつは食べるけど自分は廊下を毎日歩いて運動しているから大丈夫というループ会話を止めるきっかけに、「じゃあ、私はおやつ代稼ぐために、仕事に戻るから電話を切るよ」と言ったら、母は「あ、じゃ、がんばってね。よろしく~」とすんなりループ会話を止めた。
母の認知機能は本当に低下しているのか? ちゃっかり、自分に有利なところは、ビンビンと脳に響いている。認知障害って本当に自己中だなあ。
高齢になったらもう医療はやめて、口から食べられなくなったらそのまま自然に死なせてあげるべきという意見を、よくネット上で目にする。母は医療的ながん治療も検査も2年前にやめたし、私もその方向で対応しているのだけど、人間の寿命ってわからない。残念ながら? 高齢で重篤な病気があっても、すぐに枯れるように死ぬ人ばかりじゃない。
母はいま、クッキーモンスター。これもまた自然な経過の通過点なのかな。それ以外は楽しみがないと本人が言うのだから、幸せな生活かどうかは疑問だけど、しかたがない。自分のことも含め、年をとると「しかたない」とあきらめざるを得ないことが増えて悲しい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?