起業仲間をどう探す?1通のメールから思いがけない「出会い」と「チャンス」が
カタリバは2021年、10代の居場所づくりに取り組む人を支援するインキュベーションプロジェクト「ユースセンター起業塾」を立ち上げました。
起業・事業づくりを目指す人がカタリバの現場で働きながら準備を進める、ユースセンター起業塾 起業準備コース第1期生の太田蒔子さんは、出身地の千葉県八街市に10代のための居場所を作ることを目指しています。前回の「活動記vol.1」では、起業準備コースに応募した理由や目指すもの、スタート時の活動内容などについてお届けしました。
今回は、八街での「思いがけない出会い」と、そこから団体を設立するまでの具体的な行動、仲間づくりへの想いと今後についてレポートします。
1通の問い合わせメールが生み出した、心強い地元のネットワーク
――前回のインタビュー時、出身地の千葉県八街市を数回訪問するうち、「思いがけぬ出会い」があったとおっしゃっていましたよね。まずはそのことから聞かせてください。
以前から八街市に「やちまたユースセンター」というのがあるのは知っていて、ユースセンター起業塾に応募した際に現地も見に行きました。そのとき、現在はユースセンターとしての活動はしておらず、2階の「コミュニティカフェ&コワーキングスペース NutsUp?(ナッツアップ)」だけ営業していることを知りました。
これから八街で居場所を作るにあたって、同じ活動の経験をもつ方々に話を聞くのが最良だと思い、去年の6月、ダメもとで問い合わせフォームに「私はユースセンター起業塾で居場所事業プログラムを活用していて……」と簡単な自己紹介を書いて連絡をしてみたんです。
――運営方法などを聞こうと思ったのですか?
それもありますが、ユースセンター起業塾に参加した当初から、「一緒にチームとなって現場で動いてくれる仲間はどうやって増やせばいいんだろう」ということをずっと考えていたんです。それで、「やちまたユースセンター」やコワーキングスペースはどのような人たちが運営しているのかなど、直接話を聞いてみたくて。
「会ってお話ししたいです」と返信が来たので、すぐ会いに行きました。去年の7月初めのことです。
――どのような方たちでしたか?
「ナッツアップ?」を運営しているのが、八街を活動拠点にしている「NPOやちほこり」という団体で、その理事の小籔和美さんという女性とお話をしました。
「やちまたユースセンター」があった場所は、2階の「ナッツアップ?」のみ営業しているため主な活動はカフェで、コワーキングスペースはほぼ休業状態。そこで、そこをユースセンターとして活用させてもらえないかという話をしたところ、すぐに賛成してくださったんです!
――本当に「おもいがけない出会い」になりましたね。その後はどのように関係を作っていったのでしょう?
最初に、毎月第3木曜日に八街で仕事をしている方が集まって話し合う「やちまた若者サミット」に参加させてもらいました。地元商店の方から市議会議員、学校の先生、役所の方など、本当にさまざまな方が参加していました。
みなさん八街で新たなチャレンジをしたい、八街をより良くしたいという熱い想いをもった方ばかり。そういう方が多くいることを知ってうれしかったし、心強く感じました。
私が「今の八街の中高生の現状を知りたい」と伝えると、「この人に聞いたらいいよ」と紹介してくださる方も。地域に根付いた活動をしている方々と出会えたのは、とても大きかったです。
――昨年の9月からは「ナッツアップ?」の仕事も始めたとか。
はい。カタリバの仕事があるので、「ナッツアップ?」に行くのは月1〜2回程度です。
私は大学卒業と同時に八街を出たので、ここ10年くらいの八街を知りません。今の八街の空気を肌で感じたかったのと、八街の方々とのつながりを維持するためにも、できる範囲で通いました。
八街を離れて10年以上。それでも地元でのユースセンター立ち上げにこだわる理由
――地元を離れて10年くらい経ち、現在は他県に住んでいる太田さんが、それでも八街にこだわる理由は?
自分が育った場所ですし、私が八街の中学校に通っていたときに、子どもながらに「もっと周りがフォローしていれば」と残念に思うことがあって……。
――何か具体的な出来事があったのでしょうか?
小・中学校が同じだった、ある男の子のことが今でも印象に残っています。
彼は小学生のときは成績が良く、話も上手で、頭も良い子でした。小学校では一緒に遊んだりしていたのですが、中学で彼がやんちゃするようになり、高校でさらに加速し、成人式のときには暴走族の総長みたいになっていました。
でもその数年後、偶然SNSで彼の投稿を見つけたら、「勉強したい」って書いてあったんです。「今、図書館に通って勉強している」と。それを見て、中高生のときに彼の話を聞いてあげる大人がいたら、彼に振り返る機会を与えられていたら、もしかしたら違う今があったかもしれないと思いました。
――そういう子どもたちを実際に見てきた八街で……ということですね。
はい。彼以外にも、勉強が苦手でやる気をなくしている子や、貧困などの家庭環境から高校進学をあきらめる子をたくさん見ました。八街は自然豊かで魅力的なところはたくさんあるのですが、中高生のティーンズには刺激が少なく、才能を十分に発揮するために課題もあると感じています。
そういう状況を変え、子どもたちが地元で活躍できるようになればと思いますし、それによって地域がもっと元気になればと考えています。
任意団体「in86s(インパルス)」設立。ぐずぐずして目の前のチャンスを逃したくなかった
――ユースセンター立ち上げの進捗はいかがでしょうか?
2023年1月に、ユースセンター立ち上げのための任意団体「in86s(インパルス)」を設立しました。実は昨年夏に小籔さんとお話しした後から、ユースセンターを「やちほこり」のメンバーとして運営するか、それとも新しく団体を作るか、ずっと悩んでいたんです。
小藪さんにも相談したところ、新たに団体を立ち上げた方が動きやすいという結論になり、団体設立を決意しました。
――「起業準備コース」のプログラムが終わるのが2024年春。それまでにユースセンターを立ち上げるスケジュールだと、とても早い展開に思えますが……。
せっかく素敵な場所や人たちと出会えてチャンスが目の前にあるのに、何も実践できていないことがもどかしかったですし、ぐずぐずしていたら貴重な機会を失いかねないとも思いました。
それで、熱く応援していただいている間に進めようと。物事を動かすにはタイミングが重要だと思うんです。
――団体設立後、具体的にどのように動きましたか?
ユースセンターは利用してもらう中高生だけでなく、地域のステークホルダーの方々の理解と協力が必要なので、児童館や社会福祉協議会、教育委員会、こども福祉課など関係各所を回り、さまざまな方からお話を聞きました。
――今後につながる出会いはありましたか?
たくさんありました。中でも、八街市児童館「ひまわりの家」の長谷川正幸館長とは、充実したお話しができて勉強になりました。
以前から、中高生の居場所が必要と考えている人が八街にはたくさんいると感じていましたが、特に長谷川館長はその想いが強く、その分、課題感ももっていました。
例えば、児童館は夕方5時に閉めなくてはいけなかったり、中高生の好きなゲームやYouTubeの利用については現在使用できないことになっていたりと、公共施設ゆえの弱点があります。
今後は、公共の児童館と民間のユースセンターで、互いの長所と短所を補完し合いましょうと言ってくださり、「協力できることは何でもやります」という心強い言葉もいただきました。その後も何かと相談させていただいています。
他にもユースセンターを応援してくださる方々と知り合うことができ、地域のネットワークを広げることの大切さを実感しています。
当面の課題は「資金」と「スタッフ集め」。現在、チームとして一緒に働ける仲間を募集中
――前回の記事では「チャレンジという軸でいろいろな人が集まれるユースセンターを目指したい」とおっしゃっていましたが、目指す形や思いに変化はありますか?
ありません。ただ、チャレンジするための基礎を築く活動もしたいと思うようになりました。
――基礎というと?
学習支援や福祉的な部分です。チャレンジしたいと思っても、学力が追いついていないなどの理由からチャレンジすらできない場合もあります。それをサポートして、それぞれの道に進めるような機会を与えられたらと思うんです。
そして、中高生が何かやりたいと言ったときに地元の専門家を紹介するなど、地域ともつながっていければさらにおもしろいことができるのではないかと思います。
――ユースセンターの場所も決まり、いよいよ本格的に動き出すわけですが、現在の課題は?
今、最も悩んでいるのが「資金」と「スタッフ集め」です。
継続的な事業にするにはカタリバの助成金に頼らなくても運営できることが理想なので、補助金の活用や利益を生む事業との並走など、あらゆる可能性を模索しています。
また、ユースセンターの運営に加え、今後のための打ち合わせや調査など、やるべきことがたくさんあります。もう私1人ではどうにもならないので、求人サイトやSNSに広告を載せてボランティアスタッフを募集し始めたところです。
――どんな方に来て欲しいですか?
第1は、チームとして一緒にユースセンター運営に従事できる人。また、中高生の居場所について、何か熱い想いをもっている人が来てくれたらうれしいですね。
ちょうど最近、インスタグラムの広告を見て「ナッツアップ?」に来てくれた方がいます。専門学校の2年生なのですが、学校帰りに「ナッツアップ?」へ来て、看板を作ったりインスタ担当として投稿をしてくれたりしています。
――ここまでとてもバイタリティをもって突き進まれてきた印象ですが、心が折れそうになったことは?
困ったことはたくさんありますが、心が折れたり落ち込んだりしたことはないんです。都合よく忘れているだけかもしれませんが(笑)
人は、目の前の問題に対してどうすればいいかわからないとき、悩んだり落ち込んだりします。でも私の場合、課題もいっぱいありますが、そのためにやるべきこともたくさん思い浮かぶので、まずはそれをやってみるのが先。思いつくことを全部やりたいので、「ムリかも」なんて思っていられないんです。
-文:かきの木のりみ
=写真:太田さん提供
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